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2004年10月15日 VOL.20

■書評
・『スクープ ── 記者と企業の攻防戦』― 阿部 和義
・『大相撲の経済学』― 福島 和雄 

【私の一言】
『愛のランク』 高橋 紀元

 

 

『スクープ ── 記者と企業の攻防戦』
著者:大塚将司  出版社:文芸春秋

阿部 和義 
 日経新聞を昨年3月に懲戒解雇になった大塚将司氏(前ベンチャー市場部長)が文春新書で「スクープ」を出した。当時の鶴田卓彦社長ら幹部を告発して退社した。大塚氏は三菱銀行と東京銀行の合併をスクープし新聞協会賞を受賞した敏腕記者である。この本ではこのスクープについては書いていないが、若い記者に対してスクープというのはどのように出来るのかを自らの体験を通して書いた。スクープ記事こそが日経を始めと新聞を再生させていくという視点から書かれている。
 「刑事コロンボ」は証拠など全くない中から地道に捜査を積み上げて、事件を解決していく。こうした調査報道が本当のスクープという。「合併を演出する」「社長から打ち明けられてOKが出るまで待つ」「周辺から漏れて人かい戦術で取材する」というよりも、自らが状況や人脈を分析して、10年先を見とおす合併シナリオで取材するのが本当のスクープと述べている。
 この本では「刑事コロンボが手本の三光汽船」「基本が大事と言うリッカー」「森を見よという佐世保重工」「石の上にも3年というジャパンライン」「臨機応変のイトマン事件」の5つの具体的な経済事件をもとに自らの体験をもとに書いてある。
 証券部や経済部で23年の記者生活の経験から取材先の人の名前を具体的に上げている。私も財界クラブで一緒にトップ人事を取材したが、クラブにいることはほとんどなく外を回って紙面にびっくりするような記事を書いていたことを思い出す。
 駆け出しの証券部の記者時代に第一勧銀の丸の内支店長の深津健一氏に飛び込みで会って「黒田精工」「東京精密」の業績などを酒を飲みながら説明してもらったところが一番印象深い。深津氏は入社2年目の大塚氏に財務諸表の読み方を土曜日の午後に教えた。こうした人が昔はいた。なにも知らなかった私に対していろいろ教えてくれた取材先の人は多い。しかし、深津氏のようなバンカーはもういないだろう。
 私にとっては住友銀行の暗部であったイトマン事件を炙り出したことが一番印象深い。大塚氏の取材の進み方を調べるためにイトマンが1千万円出した、と裁判で述べた。日経の社内調査では「無かった」と発表したが大塚氏は「これは社内に存在した」と書いている。気になった。




『大相撲の経済学』
著者:中島隆信  出版社:東洋経済新報社

福島 和雄  
 最近の大相撲で「満員御礼」となるのは一場所平均2−3回である。若貴が入幕した平成2、3年の頃に比べると、大相撲の人気はどん底に近い。このような時に、大相撲を経済学の視点から見た極めてユニークな本が出た。従来大相撲に関する本というと、大相撲の歴史や大相撲物知り事典のようなものばかりで、本格的に大相撲の世界を分析したものはなかった。
 この本は第1章の「力士は会社人間」から終章の「大相撲から見た日本経済」まで、経済学者の立場からわかり易く相撲界を分析している。例えば第1章で説明しているように、番付は人事、力士は社員、年寄は管理者である。給料は十両以上しか支給されない。幕下以下は親方が衣食住すべて面倒見てくれる。力士の給料は月給と褒賞金の2階建てになっている。平幕で横綱に勝ったり(金星)本場所で勝ち越したりすると、褒賞金は加算される。褒賞金は能力給的な要素を含んでいる。その計算は複雑だが意外に合理的な給与体系である。
 力士は引退しても、全部の力士が年寄にはなれない。年寄株は105しかない。ただし功績のあった横綱は1代年寄になれる。年寄になれなかった力士は協会(会社)から去ることになる。年寄になれば65歳まで協会にいられる。著者は年寄株とは一種の年金証書のようなものであるという。そして年寄の中から経営幹部が選ばれ、その最高位は理事長である。
 理事長は戦後双葉山、栃錦、若ノ花、北の湖など過去の名横綱が就任している。しかし時津風(双葉山)理事長の後任武蔵川(出羽ノ花)理事長は平幕止まりの力士であったが、引退後夜学に通い簿記を勉強して、戦後の大相撲復興期において経営手腕を発揮して、親方衆に認められて理事長に栄進した。一見上下の差が厳しい封建的な業界に見えるが、民主的な面もある。
 著者はその他「外国人力士」「八百長」「茶屋制度」などについて、わかり易く説明し角界の構造改革を論じている。そして結論として相撲はあくまで非営利の公益法人に徹すべきだ。営利を求めるのではなく、相撲文化の継承を使命とする。その姿勢を貫き、そのためにどうすべきかを考えることこそが、大相撲の生き残る道だという。私もこの意見には大賛成であり、この本は相撲フアン特に若い世代のファンが是非読んで欲しいと思う。なお著者の中島隆信氏は慶應義塾大学商学部教授である。






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『愛のランク』
高橋 紀元
 「愛」にはいろいろな形がある。「人類愛」「隣人愛」「親子愛」「祖国愛」「郷土愛」「恋愛」「師弟愛」「夫婦愛」ちょっと変わって「同性愛」…。
 「愛」にランク付けとは如何かと思うが敢えてしてみる。「愛」とは、対象が多い程レベルが高いのではないか。その意味で最高レベルは「人類愛」。逆に最低レベルは対象がたったひとりの「恋愛」と「夫婦愛」。
そこで、最低レベルについての考察を述べたい。
 同じ最低レベルでも「恋愛」と「夫婦愛」では相当開きがあり、最低の最下位は「恋愛」で「夫婦愛」はそれより上位に属する。なぜ「恋愛」が最下位か?これは単に本能のままに発生する「愛」であり、いかに綺麗に修飾しようが、原点は変わらない。時に文豪が、時に演歌歌手がそれぞれのレベルで切々たる「恋心」を訴えても両者間に大きな差はない。動物的欲望を人間として昇華させていく悩みのプロセスが「文学」「音楽」なのだと思う。
 自分が歳をとったためか、街で見かける若いカップルの振舞いは「微笑ましい」より、動物的で「汚らしい」と感じてしまう。彼等は人間として、昇華の仕方が不足しているのではないか。
 一方、「夫婦愛」は若干趣を異にする。ファミリーレストランで、塾年夫婦が無言のまま席に着く。オーダーの時以外は全く口を開かない。やがて注文の品が届く。私の調査では旦那は「カツカレー」奥さんは「ハンバーグライス」の組み合わせが多い。大体旦那は喰うのが早い。先に食べ終わって爪楊枝で「シーシー」と歯の掃除をしていると、奥さんが無言で残ったハンバーグを差し出し、当然のごとく旦那はそれを平らげる。「デザートなし」で席を立ち、勘定は奥さんが払う。これぞ微笑ましい「究極の夫婦愛」。奥さん以外の女性から関心を持たれることが絶望的になった旦那が、やはり旦那以外の異性からは相手にされそうにない奥さんと手に手をとって生きていく姿は感動的ですらある。
 無論、夫婦もスタート時には、動物的欲望を結婚の判断材料の大きな部分にしたかもしれない。しかし時間と共にそれが薄れ去った後も、仲良く暮らしていく点で「恋愛」より高い水準に位置すると、思うのである。






 
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