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2004年1月15日 VOL.2

■書評
・『くろふね』 岩瀬登
・『初春大歌舞伎から「芝浜革財布」二幕五場』 塩野尚美
・『赤道直下』 新田恭隆
・『まるごとキッチン』 矢野寛市

 

 

 

『くろふね』
著者:佐々木譲  出版社:角川書店  02年〜03年神奈川新聞連載  

岩瀬 登 

ペリー来航時、浦賀奉行与力であり、当時の日本最大の軍艦「開陽丸」のナンバー3(航海士兼機関長兼砲術長)として、日本人として最初に「近代」と接触し、「最後のサムライ」として函館(五稜郭の戦い)で散った「中島三郎助」の生涯を描く。
著者は「武揚伝」で榎本武揚の再評価を行った。このことは明治維新を根源から問いなおすことであるという著者の認識であり、本著は、著者の幕末3部作の一環である。(既刊「武揚伝 上・下」(中央公論新社刊、中公文庫所収)および近刊予定の「英龍伝」(日経マスターズ連載))
いわゆる『国民史観』によれば、明治新政府は、統治権を確立した後、欧米列強にならった軍事大国路線、植民地拡大路線をとることで、日本の植民地化を防ぎ、その後の繁栄の基礎を築いたとしているが、行き着くさきが中国侵略と太平洋戦争であったことをおもえば、これが、日本の近代化の唯一の道だったろうか。
榎本武揚は、日本の近代化にあたって、その道筋と目標について、きわめて魅力ある答えを提示してくれていたのである。
榎本武揚はオランダ留学経験もあり、『国際法』に通じ、蝦夷地にオランダ的な通商立国を構想し、また、蝦夷地には朝鮮や中国からも移民を受けいれようと考えていた。
それは理想主義というよりは、技術的な実利主義、合理主義から発想された国づくり構想であった。
中島三郎助はこの榎本武揚と行動をともにし、五稜郭の戦いで2人の息子ともども戦死したのであるが、浦賀奉行与力としてモリソン号打ち払いの時に、彼我の「技術力」の違いを認識し、その後、砲術、測量(天文学)、造船および航海(操練)そして蒸気機関の技術の第1人者になった。
もし開陽丸が沈没せずに、北海道に榎本武揚共和国が成立していたら、日本を救うのは技術立国という著者の認識における歴史上の先人ではなかったかということが、事実をもとに描かれている。
史実を調べてみると、私たちが習った「歴史」について、今一度考えさせられることが多いことを著者はおしえてくれる。明治維新については、官(=「勝者」)側からの『歴史』ではなく、大仏次郎「天皇の世紀」、早乙女貢「敗者からみた明治維新」など、こうした立場の違いによる書物もある。




初春大歌舞伎から「芝浜革財布」二幕五場

塩野尚美 
 新春の歌舞伎座は一段と華やかです。
この芝居は円朝の人情噺を元にした江戸世話物で、場所は今の東京浜松町付近。
大酒飲みで棒手振りの魚屋政五郎が偶然に大金を拾った事から話は始まります。
怠け者の亭主政五郎役の菊五郎(音羽屋)と、よく出来た(出来過ぎた?)女房おたつ役の魁春(加賀屋)とのやり取りは間もよく絶妙で、面白おかしく、時にはほろりとさせながら舞台は進んで行きます。
ご贔屓はもちろん七代目菊五郎。美しい白塗りの立役やあでやかな女形には惚れ惚れしますが、江戸世話物に登場する「稼ぎはぱっと使って宵越しの金は持たない、粋でいなせできっぷのいい江戸っ子」はまさに菊五郎のはまり役です。
筋はわかりやすく、「心を入れ替えてまっとうに働けばきっといいことがある」と話の締めはすっきりまとまって後味もよく、心の和む新春にふさわしい出し物です。
(劇場ではとても言えないので、ここで一声)  よっ、音羽屋!





赤道直下
著者海野十三 出版社:中央公論新社 中公文庫 2003年7月発行

新田恭隆 
 この本は太平洋戦争の従軍記であるが、何といったらよいのか透明な明るさとでもいうものに満ちている。
 著者は、開戦間もなく海軍報道班員として従軍した。その体験が克明に記されていて、いわゆる艦隊勤務の様子が手に取るように分かる。特に、海軍独特と思われる雰囲気がよく伝わってくる。特有なものの言い方もある。食事の時間がくると従兵が「○○隊長、食事よろしい」と大声で告げにくる。小艇で大波にもまれて慰問に来た陸上勤務の女性達に「帰れ。帰れ。危険であるから帰れ」と叫ぶ。ぶっきらぼうのようだが何か心に残る言い方である。
 また、郵便物が来た時の艦長から水兵に至るまでの喜びの様は、戦時下にここまで書いてよかったのかと思う程である。
 今から見るともちろんおかしなところも多い。例えば、「わが海軍は戦闘第一、居住性は第九か第十。米英の軍艦は居住第二だから甚だよわい」といっている。
 戦争も緒戦優勢の頃で、この従軍中実戦は行われていない。だがそれにしてもこの本の明るさはどうしたことか。臨場感あふれる描写に引き込まれたこともあろうが、これには海軍の持っている合理主義がその背景にあるのではなかろうか。
 戦意高揚のために書かれた従軍記といってしまうだけではないものを感じさせる本である。




『まるごとキッチン』
「室内」平成12年12月増刊  出版社:工作社刊  1,380円

矢野寛市 
「室内」は、辛口の評論で有名な山本夏彦氏がオーナーであった月刊のインテリア情報専門誌である。
 まるごとキッチンの中に収められている“理想のキッチンを実現する”という16頁に及ぶ文章は、これから家を新築する人や、台所をリフォームしようとしている人にとって色々参考になると思われる。
 例えば、右利きと左利きとでは、コンロや流し台などの配列を変えなければならないようであるし、調理台の高さの決め方も書いてある。日本人の調理台の高さは、ドイツ人のそれに比べて、3cm程低いということも分って興味深かった。これなどは、専門家でも知っている人は少ないのではないか。
 因みに、冷蔵庫も右利き用と左利き用があるそうであるが、残念乍ら我家では逆になっている。









 
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