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■2012年5月15日号 <vol.202>

書評 ─────────────


・ 書 評  丸川 晃 『時代を読む 経済学者の本棚』 
             (根井 雅弘著 NTT出版)
             『スパイス、爆薬、医薬品 世界史を変えた17の 化学物質』 
             (P.ルクーター/J.バーレサン著 小林 力訳 中 央公論新社)

・ 書 評  矢野寛市 『「糖質ゼロ」の健康法』 釜池豊秋著 洋泉社

・【私の一言】 幸前成隆 『ツキを呼び込め』

 

 


2012年5月15日 VOL.202

『時代を読む 経済学者の本棚』(根井 雅弘著 NTT出版)
『スパイス、爆薬、医薬品 世界史を変えた17の
化学物質』
(P.ルクーター/J.バーレサン著 小林力訳 中
央公論新社) 

丸川 晃     

全く異質の2冊の本を並べた『書評』は、誠に申し訳ないが、平行して読んだ本であ ることから、 成り行き上このようになったということでご容赦願いたい。

 まず前者は、京大経済学部の根井教授が、過去20年以上にわたって雑誌、新聞など に寄稿された 『書評』のうち、同教授の専門とする経済学分野の図書(バブル崩壊後の1992年から 2011年まで)間に 書評したものの一部(それでも134冊分)を掲載した本である。過去の経済関連図書の 書評を読むのも
興味深いものがあったが、評者が特に関心を持ったのは、むしろ『本をいかに読むべ きか』という本書の 序文の方で、同教授自身の『書評を書くに当たっての心構え』が提示されていた。
 即ち、その『心構え』の第一は、『書評に値しない本は、取り上げないこと』、第 二は、『その本の良さを 最大限に引き出す書評を書くこと』、そして第三は、『専門家というよりは、読書人 として本を選ぶこと』 という、極く常識的な内容である。

 上記『書評の心構え』に従って、後者の『スパイス・・』を『書評』するというテ ストを試みたい。
 本書は、胡椒、砂糖、ニトロ化合物(爆薬類)、イソプレン(合成ゴムの原料)、染 料、避妊薬、モルヒネ、キニーネ など、過去の政治、経済、社会に極めて大きい影響を与えた17種類の化学物質につい て、その歴史、発見・発明
の経緯、社会的影響や、これらと化学的特徴との関連などを、訳本で1化学品当たり 平均22頁の範囲で、コンパクト に纏めたものである。

 先ず、根井教授のいう『心構え』の第一項は、書評で取り上げる本の選択基準が、 評者乃至そのグループの『主観』 や『好み』により左右される可能性が強いことが問題で(自分の場合が典型的)、この 場合に必要なことは、書評を読ん だ人がその本の選択可否を決められるように、その内容を正確に紹介して、『書評』 の読者に関心を持ってもらうことで
あろうと考える。

 評者が、『スパイス・・』を面白そうだなと思って『書評』で取り上げることにし た理由は、本書の序文で、化学技術者 及びジャーナリストの二人の著者が『歴史上最も重要な働きをした化学品、若しそれ がなかったなら、文明が大きく変 わったかもしれない化学品について語るのが、本書のテーマである』としているの に、深い興味を抱いたこと、即ち、 化学品を主題にした、所謂、歴史の『たられば』である。

 例えば、ナポレオン軍が酷寒のロシアから退却した一因は、兵士が錫のボタンをつ けた服を着ていたからで、錫 (化合物ではなく、元素だが)は多少の寒さでもボロボロになるため(13.2℃以下で)、 厳寒下ではボタンが取れて、
裸同然になったことにあったとしている、という具合で、このような話題に興味がな ければ、この本を買わなければよい。
 根井教授の『書評』に関する第二の指摘は、その本を批判するのも良いが、むしろ その本の良さを最大限引き出すこと が重要だという命題であり、この主張には全く異存はない。

 先ず、『スパイス・・』で最大の欠点と見做されるのは、上記の通り、平均僅か22 頁の中に一分野の化合物に関する知識 や物語を総て詰め込むという妙技?を演じていることで、例えば、7章『フェノー ル』、8章『イソプレン』で、高分子化学製品一般 について多少は触れているが、戦後著しい発展を遂げた石油化学製品、特に熱可塑性 樹脂を全く無視しているのは納得し
難い外、例えば胡椒を求めるインド航路や新大陸の発見、奴隷制などの歴史的、社会 的変遷についての叙述も、文科系の 読者にとっては中途半端な内容になっているようだ。

 これに対して本書の良さ乃至独特な点は、1章の『胡椒・・』から17章の『マラリ アVS.人類』に至るまで、隣の章同士で取り 上げている化学品が社会的、乃至化学的に関連をもって選ばれている点である。例え ば、3章『グルコース』では、奴隷制度 を引き起こした原動力は、サトウキビ栽培にあったとし、次の4章『セルロース』で は、奴隷制度が3世紀以上も拡大・継続したのは、 綿花栽培であっとする論旨を展開しており、また、9章の『染料』で、19世紀後半に は石炭化学のベンゼン・石炭酸を経由して アリザリン、インディゴ、アニリン染料などが合成されるようになり、これらの技術 的・経済的基盤の上に、10章の『医学の革命』 で、アスピリン、その他の石炭化学系医薬品の発展過程が展開される、という具合で ある。

 最後に、『読書人として本を選ぼう』という第三の条件については、この読書人と いう言葉が問題だが、平凡にこれを『読書が 好きな人』とすれば、本書の訳者が『あとがき』で、『本書の対象読者は』と、化学 専門か、学生など様々な読者を想定している なかで、『偶然、この本を手に取ったあなた』という種の読者を挙げている。即ち、 複雑な化学構造式も現れるが、内容的には、 誰でも楽に読めますよと、衝動買いもOKとしている。本書の副題『世界を変えた17の 化学物質』というのは多少オーバー過ぎても、 取り上げた化合物17種類は、実際に、世界の政治、経済、社会、そしてヒトの命に重 大な影響を与えたモノばかりで、全く知らなか ったような事件にも触れており、結構楽しく読めた。

 一例を挙げると、抗マラリア剤としてのキニーネは有名であるが、第二次世界大戦 当時、オランダ領ジャワ島で大量のキナの木を 栽培して、世界のキニーネ産出量の95%を占めていたので、ドイツ軍がンダを占 領してキニーネの在庫を押収し、日本軍が ジャワ島を占領したため、連合軍は、戦略上、合成キニーネの開発が必須となり、急 遽大規模な研究・開発の結果、クロロキン という合成抗マラリア剤を開発したことが、南太平洋戦、アフリカ北部戦などで、連 合軍が勝利した一因となったという。なお現在では、 クロロキン耐性のマラリア原虫が現れたので、抗マラリア剤としてはやや毒性の強い ファンタノールなどが使われているとのこと。
根井教授の『書評の心構え』に従って『スパイス・・』を書評してみたつもりである が、果たしてその結果は・・・・。
その判断は、読者にお任せします。


『「糖質ゼロ」の健康法』
(釜池豊秋著 洋泉社)

矢野寛市     


 京大医学部で整形外科を専攻した著者は、いくつかの病院で勤務した後宇和島市で 開業し、 腰痛や膝痛の治療に当たってきた。減量の指導は栄養管理士に任せていたが、一向に 効果 が上がらないので医学の常識に疑問を持ち、その頃アメリカで話題になっていた「 シュガーバスター」や「ローカーボダイエット」を参考にして本格的に糖質制限の研 究に 打ち込み、独自のエネルギー代謝理論を確立した。(1950年代にイギリスの3人の学 者が、 糖質の摂取を控えると痩せることができるという説を発表している。)

 パンダの主食は笹の葉でありコアラの主食はユーカリの葉であるように、動物には それぞれ
固有の主食がある。人類の歴史は400万年あるが、農耕を始めて炭水化物を主食とす るよう になったのは僅か一万年前である。それ以前は考古学的な研究から、骨髄と肉を主食 にしてい たと考えられている。草食動物はいずれも消化器に醗酵タンクを持ち、その中でバク テリアが セルロースを分解したものをエネルギー源としているが、人の消化器には醗酵タンク がないこ とからも人は草食動物ではないことがわかる。

 糖質(炭水化物から繊維を除いたもの)を摂取すると血液中の血糖値が上がるの で、膵臓から インスリンを分泌して血糖値を下げようとする。インスリンは、ブドウ糖を筋肉細胞 に配給し、 余分なブドウ糖は肥満細胞に押し込むが、その作業を円滑にするために脂肪がエネル ギーに変 るのをストップさせる。
 血糖値は3時間で正常な水準に戻るが、インスリンはなお1時間血中に滞留し、血 糖値を下げ るので空腹感が生じ、さらに糖質を摂取するとこれはすべて肥満細胞に押し込まれる ことになる。
これが著者が考えた肥満になるメカニズムである。(人体はブドウ糖をグリコーゲン に変えて筋肉 と肝臓で貯蔵するが、その量は僅か1,000キロカロリーである。)

 人類は飢餓の歴史であり、低血糖にならないために、膵臓から分泌されるグルカゴ ンのほか、
いくつもの血糖値を上げるホルモンが用意されているが、血糖値を下げるホルモンは インスリン しかない。そのため長期間に亘って糖質の摂取を続けると、膵臓が疲弊するなどして 血糖値が下が らなくなる。これが「耐糖能異常」であるが、著者はこれは未だ病気ではないとい う。

 脂肪とたんぱく質は、摂取しても血糖値は上がらないので、インスリンも出ない。 糖質の摂取を 断ち脂肪と蛋白質のみを摂取するようにすると、簡単に血糖値は下がり、「耐糖能異 常」は解消さ れる。
 しかし、血糖値降下剤やインスリンを使用すると、人体は血糖値を下げまいとして 反発する力を 強めるので、やがて僅かな糖質でも急激に血糖値が上昇するようになる。高血糖状態 が長く続くと 血管が傷つき、そこに中性脂肪やコレステロールが溜まり動脈硬化になって、脳梗 塞、心筋梗塞が 起き、さらには腎不全、失明,下肢切断につながりかねない。ガンにもなり易い。
糖尿病は医者のせいでなる医原病である。

 糖質を摂らず、脂肪、たんぱく質のみを摂ると、グルカゴンが出て脂肪の分解が促進され肥満が 解消する。また、脳や心臓が好むケトン体(3-ヒドロキシ酪酸)が血中に増え、ア ルツハイマー 病やパーキンソン病など脳の病気の予防、改善にも資する。
 例えば脂肪率10%の体重60キロの人は、6キロの脂肪を蓄積しているが、脂肪は1 グラムで 9キロカロリーのエネルギーを出すので、エネルギー総量は54,000キロカロリーとな る。
これは一日に消費するカロリーを2,000キロカロリーとすると約一か月分に相当す る。

 著者は、毎年トライアスロンに出て年代別では常に上位入選を果たしているが、過 酷なハワイの トライアスロンは完走するのに7−8時間を要し、消費するカロリーも8,000キロカ ロリーに 達する。日頃糖質を厳しく制限し脂質代謝に依存している筆者は、この間水を補給す るだけで足り るそうである。

 さらに肝要なことは、脂質代謝は糖質代謝に比べて老化を促進する活性酸素の排出 量が30%も 少ない。人はエネルギー源を何にするかで全く体質が異なってくることである。人が 本来あるべき 脂質代謝に依存しておれば、ガンを始めとする生活習慣病と無縁となり、長寿を全う することが可 能となる。
 一日に摂取する糖質を5グラム以下に抑えればインスリンは出ない。著者の「糖質 ゼロ食」が、 標準体重を維持できれば足りるとしている他の糖質制限法と一線を画している所以で ある。
 「糖質ゼロ食」では、肉、魚とビタミン、ミネラルを摂取するための青物の野菜を できるだけ生 で、塩や胡椒などで味付けして食べることになる。このような食事ではインスリンが 出ないので空 腹感がなく、夜一食摂れば足りるので食べる量はそんなに多くはならない。

 因みに、ブドウ糖は赤血球のエネルギー源であり、DNAなどの構成物質でもある ので人体にとっ て必要不可欠なものであるが、肝臓がたんぱく質から「糖新生」によってブドウ糖を 作るので、糖質 を全く摂らなくても心配は要らない。

 なお、「糖質ゼロ食」は血糖値を劇的に下げるので、これを始める際は血糖値降下 剤やインスリン の服用を止めないと、低血糖症となり、生命を危険に晒すことになる。

 また、糖尿病が進み、糖新生によって筋肉の蛋白質からブドウ糖を作るようになり 痩せてきたよう な人は、糖質の摂取を控えても病状は改善しない。著者はこのような重症患者を救う ため試行錯誤の末、 「糖質ゼロ+α(法)」を完成した。これは糖質だけでなくたんぱく質の摂取も制限 すると共に スクワットをして筋肉を鍛えるというものである。
              

 

 

ご要望にお応えして、ジャンルを定めない自由評論コーナ ー【私の一言】を設けました。 評論の評論はもとより、社会評論等自由なご意見をお届けします。

『ツキを呼び込め』
幸前成隆 

 ツキも、実力のうち。リーダーは、ツキを呼び込むことが必要である。
「トップはツキを呼ぶべし。(大植武士)」
日頃から、その努力をしなければならない。
「経営者は、日頃からツキを呼ぶ経営を心がけなければならない。
天運は、いかんともし難いが、人運は、経営者の心構えがモノを言う。自らツキを 呼び込んでこそ、本物の経営者だ。(鶴正吾)」
「運も実力のうちと言われるが、運を味方につけるぐらいの気持ちで経営しないとい けない(大賀典雄)」

ツキを呼び込むには、強運を信じること。そして、流れを掴まえること。
「自らの強運を信じることがツキをもたらす経験を、何度もしてきた。要は、生きる 際の姿勢が大切だ(船橋正夫)」
「ツキを呼び込むためには、その時々の流をつかまえて、頭を素早く切り替えていく ことが必要(片岡勝太郎)」

ツキは逃げるのも早いが、悲観するな。
「ツキは、つかみ損なうと逃げていく(日比谷哲三)」
「ツキが落ちても、悲観するな(大社義規)」

ツキがない時は、開き直れ。
「できるだけの努力をしても、どうにもならない時は、やるだけのことはやったと開 き直って、次のツキを待ち、それを逃さないことが大事(日比谷哲三)」

 

 

 
次のような記事を読んだ記憶があります。
子供が小さいころ、「絵本の読み聞かせをした」「博物館や美術館に連れて行く」
「ニュースや新聞記事について子供と話す」「子供にいろいろな体験の機会をつくる
よう意識している」等の取り組みを行なう保護者の元で育った子供の学力は高いそう
です。
逆に、学力の低い子を持つ保護者に多く見られる行動は、「テレビのワイドショーや
バラエティ番組をよく見る」「携帯電話でゲームをする」「パチンコ・競馬・競輪に
行く」「カラオケに行く」
というような傾向がある、というものでした。
最近、わが国では学力格差、さらに意欲格差が生じて来ていると言われていますが、
これらは一世代に限った話ではなくなることも考えられます。
日本の未来のためにも、教育環境については心して考える必要があると言えましょ
う。

今号も貴重なご寄稿をいただきありがとうございました。(H.O)


 





 
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