2005年3月1日 VOL.29
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■書評
・『オニババ化する女たち ― 女性の身体性を取り戻す』― 稲田 優
・『日本はなぜ敗れるのか― 敗因21ヵ条』― 柏原 裕
【私の一言】『オージー便り(2)― オージーのこだわり』相川 香
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『オニババ化する女たち
―女性の身体性を取り戻す』
著者:三砂ちづる 出版社:光文社新書
2004.9
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稲田 優
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現代は、女性特有の身体性が無視され、一番大切なお産が医療施設の手にゆだねられた結果、痛くてつらいものになってしまったことが、惜しくてもったいないことだと説く。そしてそれが現代の女性を不幸にし、母子の豊かな絆の醸成を阻害することにつながっていることに論及し、女性の身体のリズムにあわせた昔ながらの生理、セックス、お産を提唱する。著者はロンドン大学のPhD学位を有し、専門はリプロダクティブ
ヘルス(女性の保健)を中心とする疫学で、国内外の長年の研究、事業活動に裏づけられた見識には説得力がある。
40〜50年前まではわが国でも、お産は女性にとって至福のときだったことを、全国各地の80歳代のおばあさんたちを訪ねて、事実を拾い起こす。また助産婦の助けでお産を成し遂げた妊婦たちの手記を読むと、あふれるような文章が出てくるという。本来、お産は女性の身体性の発露で、名実共に女性の幸福の原点だったと力説する。自然なお産は、「(昔の剣豪たちが)激しい修行をして悟りに入る、マラソンをしてハイになる、あるいは宇宙飛行士の方が宇宙に出て何かを感じる、あるいは非常に深い性の体験、そのような“至高体験”のようなもの、これらは“自分自身のからだが外とつながっている”と感じさせるような経験」だという点に
力点を置いて論じている。
本の副題が「女性の身体性を取り戻す」とあるとおり、この本は女性の身体性を再認識することの重要性を説いた本だが、その先には人間として生を全うする本来的な生き方の提示がある。それはあたかも、ガン手術を受けた患者が癌の再発・転移を予防するために、身体の奥底から響いてくる微細な調子に耳を傾けながら、自分の身体に適合した運動・食事療法で、もともと備わっている免疫力を引き出そうとする生き方にもつながっているように思える。
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『日本はなぜ敗れるのか
− 敗因21ヵ条』
著者:山本七平 出版社:角川oneテーマ21
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柏原 裕
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かつて、ある日本の実業家がフィリピンでの従軍体験について「最前線で食糧が尽きたときに、一番怖いのは隣にいる日本人の戦友だった。夜いつ寝首を掻かれて肉を喰われるか分からない。だから夜も寝なかった。」と漏らしていた。この本を読むと、これが誇張でないことが良く分かる。
この本は、軍属の小松 真一氏がフィリピンでの敗戦と捕虜生活の実体験を現地で綴って骨壷に隠して持ち帰った『虜人日記』を引用しながら、山本
七平氏が戦時中、同じフィリピンで生死の境をさまよい捕虜となった自己の体験を加えて、日本の敗因を分析したもので、『日本人とユダヤ人』に続く日本人論である。日本がイラクに自衛隊を派遣している今、再読すべき本だと思う。
小松氏の挙げる21ヵ条の敗因を裏付ける主な事実は、次のように悲惨だった。
第1は「バシー海峡の損害と、戦意喪失」で、日本から日本兵を詰め込んで南方に向かったボロ船(貨物船を改造したもの)は大多数が台湾の南側のバシー海峡で米軍に撃沈され、目的地にたどり着いた少数の兵隊にも、ほとんど武器も食糧もなかった。これはナチスドイツのアウシュヴィッツを思わせる「死へのベルトコンベア」による戦慄すべき棄民だった。非常識な前提を「常識」として行動することは恐ろしい。
第2は、日本軍の精神主義の限界で、特に戦争末期に糧秣(りょうまつ)が尽きると、軍隊の規律が乱れ、ついには友軍同士の争いから殺し合いにまで発展し、日本軍は自滅した。上記のように、人肉を狙った殺人もあったという。
第3は「陸海軍の不協力」で、日本の陸軍と海軍は、日本人独特のセクト主義(縄張り争い)のせいもあり、歴史的な由来もあり、事々に対立し、その対立はマレイ作戦から後は加速的に激化した。
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