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■2012年2月15日号 <vol.196>

書評 ─────────────


・書 評   石井義高 『いまを生きる ちから』
           (五木 寛之著  NHK出版)
           
・書 評  前川 彬 『「いつ死んでもいい」老い方』
           (外山滋比古著 講談社)

・私の一言 幸前成隆 『日に新たに』




2012年2月15日 VOL.196


『いまを生きる ちから』
 (五木 寛之著  NHK出版)  

石井 義高    


親鸞聖人の750年大遠忌の前に「親鸞 上・下」を著して毎日出版文化賞を受けるなど精力的な文筆活動を続けている五木寛之氏が2004年にNHK人間講座「いまを生きる ちから」と云う番組で話した9章に他で発表したものを加えて単行本に纏めた本である。2005年にNHK出版から出版(後に角川文庫も)。

21世紀に日本人が世界に発信出来る和魂とはなにか、生きていく力とは何か、その他について著者が、日頃考えている事を述べたものである。一部を紹介すると

*戦後の社会の流れの中では「情」よりも「理」が大事にされ、人間は冷静で知的で合理的でなければならない。感情的になるのは愚かな人間の証拠だとされ、じめじめした人間関係から、さわやかで合理的な人間関係へ転換する事を目指して来た。
しかし、湿式社会から乾式社会に転換するなかで、本当は大事なものを忘れてしまったのではないかという不安がある。カラカラに乾いたこころは、軽いいのちと結びつき、自分のいのちも他人のいのちも軽く感じるようになって、自殺が増え、他人のいのちを傷つける事にも抵抗がなくなっているのではないか。

*正月には神社に初詣をし、結婚式は教会で挙げ、お葬式は寺ですると云うのが現在普通に見られる日本人の宗教生活習慣となっている。また明治の廃仏毀釈以前はお寺と神社を一緒に祀るのが当たり前であった。日本人のこころのなかには、もともと特定の宗派には偏らない原宗教的な感覚・・・朝日に向って頭をさげ、夕日に向かって合掌する。山にも川にも、草にも木にも、虫にも動物にも、自然界のあらゆる事物に霊魂が宿っているという素朴な宗教感覚があったものだ。

*ルネッサンス以来「人間は地球の主人公である」と云う考え方が定着して、人間の都合のよいように自然を利用し、自然を征服する事が科学の進歩とされて来た。近代の世界は、欧米の一神教的な文化のもとに成り立って来た。近年、宗教的な対立は深刻さを増し、21世紀は宗教の対立と民族の対立の時代になるとの予言もある。これからの世界が対立ではなく、宗教と民族、そして人間と自然の間にいい関係を作って、共にいたわりながら共生して行くためには、日本人が長いあいだ無意識に抱き続けて来た自然への考え方や神や仏へのあいまいとも感じられていた感覚が21世紀の世界のあり方を示す希望の糸口になる可能性があるのではないかと考える。

一時休筆して西本願寺の龍谷大学の聴講生として仏教史を研究した著者だけに浄土真宗の信仰が根底にあるものと思うが、東日本大震災、津波、原発事故の大災害に加えて、台風による紀伊半島の災害を経験し、世界情勢の混乱を見るにつけ、自然と人間との関係、人間の生きる意味、日本人のあり方、などを考える上でひとつの手掛かりを提供する本であると思う。

『「いつ死んでもいい」老い方』
 (外山滋比古著 講談社) 

前川 彬   


著者は八十八歳、最近、中学(旧制)同期の同窓会を開いたところ、卒業
生130名のうち出席者はたったの8名であり、淋しくなって自分を励ますた
めにピンピンコロンの生き方について書いたのが本書である。

著者は、老人にとって残されている唯一の社会貢献は、まわりの人になるべく負担をかけず医療費もなるべく少なくすることであって、世のため人のために元気に生きようと読者に呼びかける。成り行きではなく自力で志を持って老いること、いつまでも死ぬことは考えず明日ありと思って存分に生きることを提唱する。

具体的には、年をとったら消費が美徳であり、美田も残せないが借金も残さない、好きなことを人の迷惑にならない限り何でもやる、夢中になることを見つけてそれに向かってひたすら走る、そして最後までそういう生き方ができればそれはすばらしい人生であったことにするのである。全篇通して前向きで積極的に生きる手だてを示し、そういう楽天主義でいけば老後も恐るるに足りないという。

200ページで30数篇の随筆集であるが、自身が経験してきたこと、友人・知人からの話、読書から得た知識などから発想して、話題も散歩、手習い、健康、日記など豊富である。著者は専門が英文学であるがユーモアやエスプリで味付けした文章はなかなかのものであり、気軽に読めてしかも熟年を生きるヒントが得られる好著といえよう。

最後に、本書に出てくる次の俳句が印象に残ったので付け加える。
 「生くること やうやく楽し 老の春」風生
 「浜までは 海女も蓑着る 時雨かな」瓢水

 

ご要望にお応えして、ジャンルを定めない自由評論コーナ ー【私の一言】を設けました。 評論の評論はもとより、社会評論等自由なご意見をお届けします。

『日に新たに』
 幸前成隆 



易経に「日新これを盛徳という」とある。日に新たなることは重要である。

松下幸之助氏は次のように記している。
「お互いに繁栄を願い、平和を思い、そして幸福を望むのであれば、私たちの生活は単調な繰り返しであってはならない。今日は昨日より一歩進み、明日は今日よりも一歩進む、すなわち日に日に生成発展の姿をとっていかねばならぬ。」 、また、「進歩も生まれる。まだまだいい方法はありはしないかと考えれば、必ず新しい工夫が生まれる。」

つまり、日新のためには、「なぜ」と考えることが大事であり、さらに、よき方法はないかと工夫することが大事であり、同氏はさらに、「水の流れも澱めば腐る。経営も、日に日に新しい流れがなくてはいけない。そうでないと、衰え進歩が止まってしまう。日に新たな方策を打ち立てられない経営体は、やがて老いて朽ち果てる。」と指摘している。

個人の生活も、なぜと懸命に考え惰性を排し、日に日に生成発展の姿をとっていく工夫をすることが重要で、それにより張りのある生活をを継続したいものである。

 

 


 72候とは、24節気を初候、次候、末候の3つに分けて、5日ごとに気候の変化を細やかに示し、農作業に役立てようと工夫されたものです。
現在は立春の末候の魚上氷(うおこおりをのぼる時期)ということになります。

2月 4日〜 2月 8日:初候 :東風解凍(はるかぜこおりをとく)
2月 9日〜 2月13日:次候 :黄鴬見睨(うぐいすなく)
2月14日〜 2月18日:末候 :魚上氷 (うおこおりをのぼる)

よく観察すると、まさに自然は既に春になりました。
日本社会も生成発展し、早く春が来ることを祈念したいものです。

今号も多面的なご寄稿をいただきありがとうございました。(H.O)





 
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