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■2008年12月1日号 <vol.119>
書評 ─────────────

・書評  山本俊一郎『格差はつくられた』
             ポール・クルーグマン著 三上義一訳 早川書房
・書評 亀山国彦 『砂糖の世界史』 
             川北 稔著 岩波ジュニア新書

・【私の一言】 濱田 克郎『アメリカ便り(18)スローライフと運転』






2008年12月1日 VOL.119


『格差はつくられた』
著者ポール・クルーグマン 三上義一 出版社:早川書房
 

山本俊一郎  

  20世紀以降のアメリカ社会は、保守派の共和党とリベラル派の民主党という2つの大きな潮流の中で大きく変動しているようだ。
 1920年代末迄のアメリカ社会は、ごく少数の富裕層と貧しい農民、工場労働者、南部の黒人に分かれており、富は富裕層に集中していたという。
 曾て、われわれがテレビドラマで憧れたアメリカ中間層の生活は、1930年代のフランクリン・ルーズベルトによるニューディールから始ったようだ。それは戦時の各種統制を経てトルーマン以後米国内に浸透し、1981年のレーガンの当選で終る迄約40年間続き、以後、また1920年代以前に戻りつつあるという。

 著者によれば、中間層は決して経済の発達に伴って自然に生れるものではなく、税制面、制度面の施策の産物だという。それは、累進税率の採用とか、最低賃金を手厚くするといった人為的政策の所産だという。中間層は人為的に作り出さねば自然には発生しないと主張している。

 米国政治は、共和党と民主党が中心だが、1940年代からの40年間ほどは政権党の交替に拘らず政治の内容にあまり変化がなく、中間層も大企業の工場労働者も豊かな生活を享受してきたという。
 しかし、レーガン以後、不平等と格差の時代が始り、中間層は次第に崩壊し下層階級が増加しつつある。そのため、米国の富の配分は、ごく僅かの富裕層に集中しつつあって、いまや1920年代とほぼ同じになってしまったという。その元凶は、ネオコンに代表される党派主義が共和党主流となって、経済をグローバリズムと市場原理に任せたことにあるという。
 彼によれば、当面、最も必要な施策のひとつは国民皆健康保険の導入だという。

 現在、大統領選でバラク・オバマが"Change"を掲げて戦っていることと無縁ではないだろう。
 主張は、かなり民主党寄りだが、富の公平な配分と社会福祉の充実という主張はおおかたの共感を得るだろう。原題は「リベラル派の良心」(The conscience of a liberal)。
 著者はプリンストン大学教授、専門の国際貿易理論の他、その他の分野でも積極的に発言している。反ブッシュの旗手として知られ、最近本年のノーベル経済学賞受賞者に指名された。
 現在、わが国でも問題となっているワーキングプアー問題を考える上でも、示唆に満ちた著書であろう。



『砂糖の世界史』
著者川北 稔  出版社:岩波ジュニア新書
 

亀山 国彦  

 友人の推薦で読んだ「砂糖の世界史」は、歴史人類学(歴史上の人々の暮らしの実態を、モノや慣習などを通じて観察しようとする学問)と世界システム論(近代の世界をひとつながりのものとみなす考え方)の手法を使って、砂糖をテーマに、大航海時代から産業革命までの時代を生き生きと描き出している。

 11世紀頃、砂糖は極めて高価で貴重品であり、冨の象徴であるとともに薬品としても用いられていた(当時は、慢性的な食糧不足であったため、一般人は、常に、栄養不足で、カロリーの高い砂糖は元気をつけ、病気を治す効果があった)。17世紀、西インド諸島にアフリカから奴隷を連れて来て、プランテーションによる砂糖増産が図られ、紅茶とともに普及した。三角貿易(奴隷、砂糖、資材)によりポルトガル、スペイン、英国の冨は築かれたなど、授業でもこの本のように教えてくれれば世界史をもっと勉強しただろう?と感じさせる興味深い内容で「ジュニア版」にしておくには勿体ない。

 これに刺激されて、ジャガイモ、コーヒー、タバコの世界史を4-5冊読んだ。大航海時代に新大陸に求めたものは、西欧になく、役に立つ、薬や食料となる植物等で、それがタバコ(南北アメリカ原産)やジャガイモ(アンデス原産)、トマト(メキシコ原産)であり、発見後、僅か数十年の間に世界中に広まっているものもある。なるほど、近世とはこういうことだったのかと納得した。

 他方、コーヒーはエチオピア原産だったが、植民地などでの栽培で急速に生産量を拡大している。イギリスはコーヒーの植民地における生産でオランダに破れたため、茶の輸入に方向転換して現在に至っている。タバコもコーヒーも、初期には医薬品として用いられた。ジャガイモは、寒冷地植物であったため、冷害や飢饉の折に多くの人命を救って来た(しかし、温暖化で収量が減少しつつある)。

 さらに、「コーヒーは“コーヒーハウス”を生み、そこから民主主義が生れた」、「保険のロイズも前身はコーヒーハウスだった」、「日本ではタバコといえば殆ど紙巻であるが、欧州では17世紀から19世紀前半までは喫煙タバコではなく嗅ぎタバコが主流だった」、「インカ文明は、穀物ではなく、ジャガイモが支えた」、「単一種のジャガイモに食料の8割を依存していた19世紀のアイルランドでイモの疫病が飢饉につながり、人口が半減、アメリカなどへの移民が急増した」などの知識も得た。
こういう歴史の学び方も面白い。





ご要望にお応えして、ジャンルを定めない自由評論コーナ ー【私の一言】を設けました。 評論の評論はもとより、社会評論等自由なご意見をお届けします。

『アメリカ便り(18)スローライフと運転』
濱田 克郎

 失業後シンプルライフ、スローライフを心がけている。最近はグリーンライフとも呼ばれるようになったが、我が家のそれはそんな大それたものではなく単に経済的制約からのことに過ぎない。大抵のことは質素倹約を心がけてきたが、一つ抜かっていたことがあった。自動車の運転の仕方である。郊外にある我が家ではどこに行くにも自動車は不可欠の交通手段になっている。従来は深く考えもせず気が向いた時に、或は必要に応じ車を運転して出かけるというのが常であった。 高速道でも郊外の良く整備された一般道でも時速110Km程度で運転している人が多いが、私も同様であった。

 しかしガソリン価格が上昇するにつれ、ガソリン代が家計を圧迫し何らかの対策を講じる必要に迫られた。最初の対策は、運行回数、運行距離をできるだけ減らすということ。思いつきで出かけるのではなく、事前に良く計画をたて、スーパーやホームセンターへの出動回数を減らし、且つ無駄のないルートをとるようにした。次には車のハード面の対策。タイヤの空気圧を所定の値に調整、エアフィルター等を清掃した。最後は車のソフト面、つまり運転の仕方である。動き出す時は足の裏に卵があるつもりでじんわりとアクセルを踏み、止まる時は慣性の力とエンジンブレーキを最適化して利用しつつ急ブレーキを避ける。長い信号待ちの時はエンジンをストップする。走行中はできるだけ一定の速度を保ち、最高制限速度(我が家の近辺では高速も郊外の一般道路も時速88Km)を遵守する。

 高速道の入り口等他者の迷惑になりそうなところでは十分な加速を行うし、危険を回避する必要がある場合はきびきびした運転になるが、通常はのんびり運転である。このような運転をするようになって運転中の気分が本当に良くなり、他人の荒い運転にイライラしたり殺気立った気分になったりすることが極めて少なくなった。挑戦的な運転をする車 がいても、“お先にどうぞ”とできるだけ外側の車線に寄る。急ブレーキを避けエネルギーの無駄を少なくする為に車間距離を十分にとっておく。そうすると慌てることが滅多にない。追い越すことも速く走ることもできるが意志の力でそうしていないだけなのだと思うことで気分に余裕ができる。 制限速度以下で走ることにより走行時の空気抵抗は大幅に減少し燃費が良くなるばかりでなく、パトロールカーを気にする必要もなくなる。更に新しい発見もあった。三車線以上ある高速道路で一番外側の車線は、渋滞になった時に実は最もスムーズに走れることが多い。無意識に或は意識的に中央側の車線に寄ってしまうドライバーが多く、外側の車線の車の密度が相対的に低い所為ではないかと思われる。

 上述の対策により、車のマイレージ(1ガロンあたりの走行距離)は15−20%改善した。走行回数の削減と併せると燃料消費量は概ね3割減少した。
イライラすることが少なく、燃料消費も少なくなる。良いことだらけに聞こえるかもしれないが、一つデメリットかもしれないことがある。ご明察のとおり、所要時間が若干増加するのである。余裕を持って早めに出かけましょう。






 アメリカのサブプライムローンの2006年末の残高は1.3兆ドル。この不良債権が13兆ドルに上る証券化商品に波及しこの信用を低下させ現在の危機を招いているといわれています。これは資本主義の自由競争の果てであり、これを正すには経済学が財貨よりも人間を重視する原点に戻る必要があるとする意見があります。
 最近の無差別殺人事件の多発等の社会現象を見るに付け、経済学に限らず我々は、もう一度改めて倫理・道徳を踏まえた社会生活を志す必要があると考える昨今です。今号も、色々な観点からの力作のご寄稿ありがとうございました。(HO)
なお、来第120号は、年末特集として長文ではありますが岸本新兵衛氏の提言『中央集権の終焉と自然な生活の復活』一遍のみを掲載する予定です。








 
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