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■2012年10月15日号 <vol.212>

書評 ─────────────


・ 書   評    石川勝敏 『読書について(新訳)』
          (ショウペンハウエル著 渡部 昇一 編訳 PHP)

・ 書   評    吉田龍一 『老年の品格』
          (三浦朱門著 海竜社)

・ 私の一言    川井利久 『ローマ人の物語』

 

 


2012年10月15日 VOL.212

 『読書について(新訳)』
 (ショウペンハウエル著 渡部 昇一 編訳 PHP) 

石川勝敏    

著者は有名なドイツの哲学者 編訳者は上智大学名誉教授
著者名と副題「知力と精神力を高める本の読み方」に惹かれて読了した。
ショウペンハウエル(1788-1860)はドイツの哲学者で主著は「意思と表 象としての世界」であるが、博学で法律から自然科学まであらゆる分野の 総合哲学者であった。
本著書の第1部で「ショウペンハウエルの生涯と哲学」が紹介されている。
本人は勉学したかったが、父は商人にする考えで、父に連れられて ヨーロッパ各国を旅行した。17歳の時父が自殺し、ショックを受けた。
商人見習いを始めたが、勉学の情熱を捨て切れず、21歳で大学に入り、哲 学ではカントとプラトンを研究し、フィフティの講義も受けた。30歳でベ ルリン大学の講師の資格を得たが、講義をしたのは、1年間で、同大学の教 授のヘーゲルの人気に抗する事は出来なかった。以後フラクフルトに移住し、 孤独な研究生活に入った。晩年には著書も売れ、名声を博して72歳でこの 世を去った。
第2部の新訳読書については、ショウペンハウエルの読書論のテーマご とに編訳者渡部が自説を展開する形で1〜3ページの編訳・論評が加えられて いたことに改めて深い感慨をもった。
 以下ショウペンハウエルのテーマの概要を紹介する。
1 無知は富と結び付くことによって初めて人間を堕落させる。
  貧しい人は貧困と辛苦によって躾けられる。
2 読書とは自分で考える代わりに他のだれかにものを考えて貰うことである。
3 大量に、また殆ど1日中読書する人は自分で考える能力をしだいに失っていく。
4 たくさん読書すればするほど、それを読んだ内容が精神に跡を留める事が
  少なくなる。
 実に多くの学者がこの例に当てはまる。彼らは読書して馬鹿になってしまっ
たのである。
5 反芻する事によってのみ、人は読んだものを身につけることができる。
6 読んだ内容について後から再び思索することなく絶えず読書を続けると、
  根を下ろすことなく、大抵は失われてしまう。
7 紙の上に書かれた思考とは、決して砂の上の足あと以上のものではない。
  思索が必要。
8 作家の作品を読むことによって、その作家の特性まで身につけられる訳では
ない。
9 もともと天分として本人に具わっていることが前提条件となる。それが読書
による人格形成によって作家になる唯一の方法である。
10 保健当局は目の健康のため最小限のサイズよりも小さい活字が使用されない よう監視して欲しい。
11 図書館の書架には、過ぎ去ったいくつもの時代の誤った見解をあらわした書 物が並べられている。
12 書籍見本市の分厚いカタログを眺めて、10年後にこれらの書物のうち1冊も 生き残っていないであろうことを考えるとき、誰が涙せずにいられようか。
13 悪書は単に無益であるばかりでなく、実際、有害である。
14 三文文士、生活のために書く作家、著作濫造家たちによる、時代の良き趣味と 真の教養に対する打撃は成功した。
15 わたしたち読者の側に関していえば、非読書術が極めて重要である。
16 時期ごとに大半の読者の関心を引く書物を、それだけの理由で手に取らないに尽きる。
17 読書に費やす事の出来る限られた時間を、もっぱら、あらゆる時代の民族の偉大 な精神の生みだした作品に当てよ。評価のゆるがないこれらの作品だけが私たち
  を育て、教え導いてくれる。
18 良書を読むための条件は、悪書を読まないことである。
19 読者は印刷されたてのものばかり読みたがる。努めて古典を読め。
20 本物の著書とうわべだけの著書がある。心すべきである。
21 書物を買うのは良いことである。書物を購入する事で内容まで我が物にしたと勘 違いするな。
22 誰しも自分の関心のあるもの、即ち自分の思想体系や目的に合致する物しか留め ておけない。
23 「反復は習得の母」といわれる。重要な書物は間を置かずに2度読むべし。
24 古典古代の作家を読むほど、精神を元気つけてくれるものはない。
いかがでしたでしょうか。解説を要するテーマもありますが、現代でも通説的な記述 で読んで違和感はない。編訳者渡部の解説は彼の人生経験と知識で面白いものになっている。
気楽に読んで、読書生活の指針をお考えになってはいかがかと思います。
ご一読をお薦めします。

 

 


『老年の品格』
(三浦朱門著 海竜社) 

吉田龍一    


総務省の本年9月15日時点の推計人口によると、65歳以上の高齢(老人)
人口は3,074万人で過去最多となった。日本の総人口(1億2753万人)に
占める高齢者の割合は24,1%と過去最高を更新している。また、75歳以
上の人口は、1,517万人で初めて1,500万人を超えたという。さらに、今後
ともこの高齢化状況は続くと予測され、いずれは高齢者が総人口に占める
割合は40%近くに達するとも推計されている。

ところで、高齢者への社会保障関係の給付は借金によって賄われ、このまま
ではいずれ日本の財政は破綻する。これを回避するには、労働参加率の向上
が必要である。高齢者といえども働ける人は働き、支える側に回る必要があ
るということである。また、日本人は平均寿命に対して健康寿命は大変短く、
この延長化への努力も不可避である。

しかし、一方では、高齢者は間違いなく精神機能、肉体機能が衰え、それは
様々な摩擦やショックを周囲にもたらすこともある。
著者は、この摩擦やショックを「笑い」によって吸収つつ、周囲と調和する
ことが必要であるとしている。
例えば、高齢者の役割の一つには、世の中にある様々な価値観を若い世代に伝 えることにあるが、この場合、我々の時代はこうだったと説教しても誰も耳を 貸さない。しかし、自分の体験を笑い話にすれば、面白がって聞いてくれ、若 い世代とも接点が持てることとなる。同時に、自分を笑えれば、肩の力が抜け て生きるのが楽になるとも指摘している。

この本の帯には、「笑われる人になろう」と記されている。つまり、年をとった ら自分の弱みを素直に認め、弱みを見せることで周囲を温かくする、
「偉ぶらない人」になることが老年の品格であるということである。
これは、高齢者が前記のような課題を持つ中で、各世代と円滑に共生し、痛みを 分かち合うために不可欠な生き方といえる。
このような精神が、友人たちのエピソードを中心に、気軽なタッチでかかれてい る極めて読みやすい本である。

 

 

ご要望にお応えして、ジャンルを定めない自由評論コーナ ー【私の一言】を設けました。 評論の評論はもとより、社会評論等自由なご意見をお届けします。

『ローマ人の物語』
川井利久

  
 
 この夏の暑さに耐えかねて、塩野七生の”ローマ人の物語”を読み暮らした。
ヨーロッパ文明の基礎を形成したギリシャ・ローマ文明の成長繁栄衰退の歴史 が客観視されて、現代の日本にも同様の社会現象が生じていて、面白かった。

人間という動物は置かれた環境によって獣性から神性のレンジを幅広く動き回 り、常に変動するものである。弱肉強食社会から安定平和社会が成立したとたん, 物欲、性欲、スリル欲に駆られて健全な人間性から逸脱し、また、恐怖心や猜疑 心から近親者殺人を繰り返したりする。健全な家庭生活を営むことや軍務に着く ような社会貢献を嫌い、その結果人口構成がアンバランスな少子高齢化となり, 草食系男性増加で国も守れない状態に追い込まれて、周辺属州国に防衛力を依存 したりして切り抜けをはかる。

しかし、地中海という比較的穏やかな、温帯の海に囲まれ、食料確保にもそう 苦労しないで、文明が進化して行った過程は世界の他の地域には珍しい。
貴族だけではあったが民主主義の発芽がギリシャで興り、ローマで育ち、世界に 広がって行ったことは人類にとって大きな福音であった。
専制は世界各地に起こり興亡を繰り返しているがこれは人類社会を幸福には導か ない場合が多いようである。ギリシャ・ローマ世界はエジプト文明やインドやメ ソポタミア文明のエッセンスを環地中海の流動性を有効に享受して高度の文化 (科学、哲学、神話)を生み出した。

ギリシャ民族はその偏狭な性格から学問を深く掘り下げて,真、善、美を人間社 会の究極の目標としたストア哲学を編みだし、そこからエゴイズムを離れて、他 人の人権に目覚め、都市国家の貴族層だけではあったが民主主義を創りだした。

ローマ民族は地中海世界の列強に揉まれながら多民族の利害の錯綜する中で如何 に生き抜くかに悩みながら、寛容とルール(法律)、合理主義を尊び、そこに偏屈 ではあるが自然や人間性の本質を捕らえたギリシャ文化を導入した。その時点で ローマ帝国の拡大が始まった。

 領土の拡大には戦争で勝つことが必要である。戦争に勝つには軍人個人の身体能 力、忠誠心、軍の組織力、戦略の優秀性,兵站能力そしてトップの決断力が有機的に 機能していることが不可欠である。
戦争は終わった後が大切である。敗戦国の国民感情がどうか。怨みが残ればいつ か報復があるのは個人関係と同じである。
この点でジュリアス・シーザーの戦略は見事であり、帝国を長期繁栄に導いた。

敗者を許してローマ人に同化してしまい、奴隷であっても能力と運があれば皇帝 にまで出世できる公平な社会を実現したことである。そして食糧と安全を確保し て娯楽を与えて社会を安定させた。しかし、軍隊には厳しい訓練と規律を求め、 領土中に重車両の通れる道路を整備し、食糧、武器などの兵站を確保していつで も戦闘可能状態にして敵に戦闘意欲をなくさせる抑止力を誇示した。
現代の民主主義社会の起源はギリシャ・ローマ文明のヘレニズムから始まり、
よろめきながらも、現在の世界をリードしている。

 

 

今夏は異常に暑い日が続きましたが、最近、一気に秋らしくなりました。
皆様方にはお元気のことと思います。
10月8日、山中伸弥・京都大教授のノーベル賞受賞が報道されました。
逼塞感が強い最近の日本人にとって極めて力強いニュースであったと思われます。
記者会見によると、同教授の座右の銘は、「ヴィジョン アンド ハードワーク」 と「人間万事塞翁が馬」だそうです。いずれも教えられるところの多い言葉ですが 特に前者は、現代の日本人が心して考えるべきものと感じ入りました。
今号も貴重なご寄稿をいただきありがとうございました。(H.O)


 





 
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