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■2008年10月1日号 <vol.115>
書評 ─────────────

・書評  板井 敬之 『ポスト消費社会のゆくえ』
            辻井喬・上野千鶴子著 文春新書
・書評  石川 勝敏 『鉄が地球温暖化を防ぐ』
            畠山重篤著 文芸春秋  

・【私の一言】岡田 桂典『シンガポール便り(17) バイオポリスの伊藤教授』

・【私の一言】クレア恭子『ロンドン便り(2) ワガママ?』……… 再掲載






2008年10月1日 VOL.115


『ポスト消費社会のゆくえ』
著者辻井喬・上野千鶴子    出版社:文春新書
   

板井 敬之  

 元セゾングループ総帥と社会学者との対談。元総帥にセゾンの興隆と凋落の歴史を回顧させ、失敗の原因と今後の産業社会のゆくえを語らせている。上野教授による「まえがき」と辻井氏による「あとがき」に本書の成り立ちや狙いが書かれているが、「あとがき」にあるとおり“上野=突っ込み”、“辻井=ボケ”の役割で、同教授の鋭い問題提起と問題ごとの冷静な総括がなければ本書は成立しなかったか、出来たとしても“凡作”にしかならなかっただろう。

 最終章の「産業社会の終焉」が白眉で、「東西冷戦がなくなってから自由主義経済の堕落はスピードを増し、深刻化している。結果、産業社会が破滅に向かう」との“辻井見通し”。一方上野教授は「団塊世代は自己と日本社会の成長期・衰退期が重なった幸運な世代だが、現代の若者は91年からの不況で『時間がたてば事態は悪くなる』と感じながら成長して来た世代。ゆえに成長期に“後退の感覚”を身体化し、コミュニケーションのモードは社内向き。その結果この世代には引きこもりなど時代の象徴的現象が見られる」としている。「若者が閉塞感から抜け出せる都市環境をいかに考えていくか、その入り口にいる」が辻井氏。「そのためには重い負債を残さぬようにするのが団塊を含めた上の世代の使命」が上野教授。二人の結論でうまく行くのかな、という気もするが、“組織の業・人間の性(さが)”のようなものも含めて、大いに考えさせられる書物ではある。

 


『鉄が地球温暖化を防ぐ』
著者:畠山重篤    出版社:
文芸春秋   

石川 勝敏  


 畠山氏は岩手県気仙沼で牡蠣や帆立貝の養殖を生業とする人である。「森は海の恋人」を合言葉に、理論の裏付けの無いまま、気仙沼上流の山に20年間広葉樹の植林を続けてきた。その結果、かつて赤潮が発生し牡蠣も帆立貝も育たなくなった気仙沼の養殖事業は完全に復活した。テレビ放送を機会に北海道大学の松永教授(当時)を訪ね、海洋植物の鉄理論を学んだ。「海水中で動物プランクトンや貝の餌となっているのは植物プランクトンや海藻です。海中食物連鎖の基です。その成育には窒素や燐等が必須なのです。しかし植物プランクトンや海藻は、先に体内に微量の鉄分を取り入れておかないと窒素や燐を体内に取り込めない構造になっているのです。植林も鉄分補給の有効な手段です。どんなに養分の豊な海域でも鉄分が不足していると結果として魚や貝は寄ってこないのです。」2価の鉄Fe++が必要なのです。

 この著書は畠山氏の研究と体験の記録である。関空付近は海藻と魚の豊な海になっているとの事である。関空では最底部を鉄分を含む高炉スラグで埋め立てている。鉄理論は20年前、米人のジヨン。マーチンの仮説から始まった。その後後継者の各種実験で確認されている。地球温暖化、特に空気中の炭酸ガスの低減には化石燃料の消費節減と炭酸ガス固定のための光合成をしてくれる植物の増殖が重要である。植物プランクトンや海藻の繁茂する海域は単位面積で比べると熱帯雨林に匹敵する力がある。まだ調査確認が必要かも知れないが高炉スラグで可能であれば、粗鋼年産1億トン余の日本である、その供給に心配はない。大規模に海藻を栽培すれば炭酸ガス固定化、酸素富化のほかにエタノール生産が可能ではないか。海洋国家日本としてこのプロジェクトの大規模実施を検討してほしいものだ。
「30万トンの鉄で、縄文時代の大気を」

 




ご要望にお応えして、ジャンルを定めない自由評論コーナ ー【私の一言】を設けました。 評論の評論はもとより、社会評論等自由なご意見をお届けします。

『シンガポール便り(17)  バイオポリスの伊藤教授』
岡田 桂典

 先日、当地の新聞に「シンガポールの科学者達が“ガン問題解決への手がかりである遺伝子”を見つけた」という記事が大きく出ました。この研究の指導者はDR.ITOとありますが、伊藤嘉明元京大教授のことなのです。

 2001年に定年を迎えた教授を、シンガポール政府はバイオ立国を目指してその年に設立したバイオポリスの分子細胞研究院に迎えたのです。当時の日本の新聞は、ガン細胞の遺伝子研究の第一人者を失う衝撃と無念さに、日本の学界内外が騒然となったと伝えています。

 バイオポリスには世界中から著名な学者、若手の能力ある人材を集め、人材を育てる、その先に国内企業の発展や商業面の繁栄があるのだという、したたかな戦略が存在します。いまや七つの研究ビルが立ち並び、目標は4000人の研究者を集結させることです。

 シンガポールの人口は430万人ですが、外国人が3割を占めます。重点産業はこのバイオ,IT,金融、教育、医療、観光、水事業、太陽熱の利用等です。国を富ます為には、小人口ではまかなえない人材、消費者、資金は外国から呼んでくると政策は明快です。伊藤教授の場合にも京大研究チームの大学院生10人も一緒に招聘して、そのスケールの大きさに日本の研究者達をがっくりさせました。この例のように、シンガポール政府の政策の構想力、実行力は羨望に値し、昨年度一人あたりのGDPが日本を追い抜いたのも、むべなるかなと思わざるをえません。

 これに対する日本、輸入するエネルギー・資源・食糧の価格高騰で、海外への所得流出(交易条件の悪化)は今年度約25兆円に達するそうで、経産省は経済構造や企業の対応の改善が必要だと警鐘を鳴らしています。いうなれば、日本では海上運賃が3−5倍になったのに、“極東”と呼ばれる世界の端っこで、未だに重厚長大産業が幅を利かしているということです。輸入原料価格が上がったのであれば製品の輸出価格を上げれば良いのですが、それが出来ないのは輸出品が特色のない一般品が多いということだそうです。

 シンガポールの重点産業を見てください。日本が悩むエネルギー・資源・フレートの高騰と殆ど関係がありません。政府の“先見の明”が輝いて見えます。日本は“モノ作り”で生きていくのだと未だに唱えられていますが、韓国・中国・台湾の追い上げが急で、産業の“知識化”“頭脳化”は焦眉の急です。総選挙が近いようです。政治家の“頭脳”が選択の基準になって欲しいものです。






  前号掲載のクレア 恭子さんの”私の一言"に、操作上の誤りで、文章の最後の部分に関係のない文章が挿入され、文意がわからなくなるというミスが生じました。執筆者はじめ読者の皆さんにご迷惑をおかけしたことをお詫び申し上げます。

 今号で、本来のクレア 恭子さんの”私の一言"を掲載させていただきました。改めて読んでいただけたらと考えております。
 今号は日本の将来のあり方にも係わる書評、ご意見を頂きました。有難う御座いました。

選挙も近いようです。日本の将来を見つめて投票したいものと考えています。(HO)








 
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