1895年、ヴィルヘルム.レントゲンがX線を発見すると、X線が健康診断 のみでなく、色々な病気の治療にも盛んに用いられ、今から考えると行き過
ぎがみられる程であった。
ところが、広島と長崎に原爆が投下されると一転して放射線が敵視される ことになった。1958年、国連の放射線の影響に関する科学委員会は、放射線
は幾ら小量であっても人体に有害であるとする「直線的無閾値仮説」
(しきい値無し直線仮説)を提言し、続いて翌年に国際放射線防護委員会が この仮説を採用してしまったのである。人が即死するような高放射線領域に
おいてはともかく、低放射線領域においても人体に有害であるとの証明はな されていなかったのに、現在まで半世紀以上に亘って世界中がこの仮説に支
配されてしまった。
1982年、アメリカの生命科学者ラッキー博士が米国保健物理学会誌に、 「人体に微量の放射線を当てると免疫力が強くなり、がんに掛かりにくくな
る、幼少の頃から与えると他の人より背が伸びる、生殖力が強くなるなど生 体機能が活性化する」という論文を発表した。
この説は一時は専門家から無視されたが、偶々ラッキー博士の論文を目に した電力中央研究所の初代原子力部長であった服部禎男博士の活躍により、
微量の放射線が健康に及ぼす影響をテーマとする国際会議、学術会議が毎年 開催されるようになった。更に服部博士は東大、京大、岡山大学など国内の
十以上の大学に働きかけて放射線による病気治療の研究を進めてもらい、既 にがんを始めとする多くの難病について顕著な成果を収めている。
ラッキー博士は、自然放射線の100倍程度の放射線が健康にとって最適 値であるとし、自然放射線の1万倍までは人体に無害であるとしている。も
ともとイランのラムサールとか中国の広東省など自然放射線量が他の地域に 比べて何倍も高いところは世界各地にあり、そのような高放射線地域ではが
んの発生率が低いことが調査研究の結果判明している。わが国でもラジュウ ム温泉として名高い三朝温泉がある辺りの住民はがんに罹る率が低いそうで
ある。
「無閾値直線的仮説」に従って各国の政府が法律や基準を定めたため、放 射線に汚染された物質の廃棄費用が莫大な金額に上っただけでなく、放射線
に対する恐怖感が健康に及ぼしたマイナスの影響は計り知れないものがある。
ある生物学者はこの「無閾値直線的仮説」は20世紀最大の科学的スキャンダ ルであるとさえいっている。
福島第一原発の事故のあと多数の人が避難し、各種の農産物が出荷停止の 命を受けたことによる有形、無形の損失は甚大である。このスキャンダルが
図らずも具現したといえようか。
因みに「ホルミシス」とはギリシャ語が語源で”刺激する“という意味である。放射線に限らず、毒性のある物質は微量なら健康を増進する場合が多いことは昔から知られているところである。