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■2008年6月15日号 <vol.108>
書評 ─────────────

・書評 今村該吉 
    『頭にちょっと風穴を……洗練された日本人になるために』
                       廣淵升彦著  新潮社
・書評 川村 清 
    『フランス・ロマネスクへの旅』 池田健二著  中央公論新社

【私の一言】佐々木菜穂子 『苦労を買う時代が到来』


2008年6月15日 VOL.108


『頭にちょっと風穴を……洗練された日本人になるために』
著者廣淵升彦    出版社:新潮社
    

今村 該吉  

 知人から薦められるまで著者の名前も本の存在も知らなかった。著者は1933年生まれ、元テレビ朝日の記者であり、またニュースキャスターとして活躍し、知る人ぞ知る国際ジャーナリストらしい。
 定年後は人に会うことも少なくなり、尾崎一雄や内田百○(ひゃっけん)の私小説を楽しみ、芭蕉に感心したりしているので、最近は思考もとみに内向きになりつつあるようだ。いわゆるドメスチックになり、グローバルでモノを見ることが薄れがちである。
 この本を読んで、まるで眼から鱗、もう少し広い視野でモノを見、また動かなければ、惚けるぞ、いや既に相当惚けているな、と反省した。
 ある食物に関する雑誌に連載されたエッセー集であり、初めは食べ物の話で始まるが、次第に歴史に、文化、政治に及び、転じて日本の現状を憂える。しかしやたらにヨーロッパやアメリカを礼賛する、いわゆる「アチラデハ・・・」派ではない。「ナマコをはじめて食べた人」。「フォアグラと天ぷらうどん」「チョコレートの光と影」など目次を見ただけで、その先を読みたくなりはしまいか。
 著者は『はじめに』で「ともかくもこの本を読んで『あの人は洗練されている。話は具体的で面白い』といわれるような、カッコいい人になっていただきたい」 という。著者の言う「国際的なコモンセンスにあふれ、スマートな話し方が出来る人」にはそんなに、おいそれとなれっこないものの、この本を読み終えると「ああ世界は広いなあ。まだまだ知りたいことが多いなあ」と感じること請合いである。知的好奇心旺盛で、まだ惚けたくはない人にお薦めする。

 


『フランス・ロマネスクへの旅』
著者池田健二    出版社:中央公論新社
    

川村 清  

 ロマネスクとは?と問われて中々答えられないことが多い。ヨーロッパの長い歴史のなかで、ひとつの時代を表す呼称であって、ゴシックだとかバロックと同じような使われ方をする。文字どうりロマとはローマのことであって、ローマ大帝国が瓦解したあと、その影響力とジワジワと浸透したキリスト教とが融合して、多くの文化遺産を残したことを総括した表現といえよう。尤も、フランスではロマンの意味を含ませている。
 著者は上智大学に籍を置かれ、フランス留学のあと主としてフランス文化史を専攻された学究であるが、その行動は、広く部外者に研究成果を広めようと努力されている。評者も著者に導かれてロマネスクの美を実感するために、フランスとスペインに赴いたことがある。
 ローマが崩壊したあとヨーロッパは、分裂と停滞の時代を迎える。しかもマジャールやヴァイキングの浸入による破壊と略奪は都市の成立を阻み、キリスト教の布教も円滑には進まなかった。所が10世紀、11世紀になると農業の生産力が向上し、手工業の進展もあり、都市の発展がみられるようになった。
 教会も建設が進み、11世紀にはかなりの寺院が作られるようになった。各地にロマネスク様式の修道院や寺院が生まれ、ローマ以来、暗黒の時代を経て、ようやく文化の華が咲き始めたのである。
 ただ、当時の文化遺産はその後の宗教戦争、フランス革命によって破壊が進み、それほど多くは残されていないのは極めて残念である。世の東西を問わず、革命とか改革とは文化に対する挑戦であって、野蛮の限りを尽くす。
 それでも、残された教会の建物、彫刻などは一言で言えば、素朴であるが味わい深い、何ともいえない温かみを感じさせるものが多い。建造物は構造が力学的に優れており、彫刻は新旧聖書の物語を忠実に表現したものが多く、一見稚拙に見えるが立ち去り難い魅力を秘めている。
 本書はカラーの図版を多く収めていて、眺めるだけでも楽しい読み物になっている。
 ロマネスクのあとに時代はゴシックを迎える。日本人が賛嘆するケルンやノートルダムのゴシックの大寺院は確かに立派なものであるが、多分に神の権威を見せつけるような大掛かりな仕掛けを感じて馴染めないのは私ひとりであろうか?  
 フランスは田舎に行かないとその魅力がわからない。ロマネスクの諸施設も殆どが田舎にある。パリだけがフランスではない。一読され、いつの日にかロマネスクの美を求めて、人類の遺産を訪ねられることを薦めたい。

 

 

ご要望にお応えして、ジャンルを定めない自由評論コーナ ー【私の一言】を設けました。 評論の評論はもとより、社会評論等自由なご意見をお届けします。

『苦労を買う時代が到来』
佐々木菜穂子

 若いうちの苦労は買ってでもしろ、という諺がありました。実際にお金を払う人はいないだろうが、価値があるという意味でした。

 しかし、今や子育てにおいて保護者の願いは「苦労を経験させてくれる厳しい先生や環境にお金をかける」時代になったのです。習い事でも 学校でも優しくニコニコしている先生よりも、到達度に厳しくダメ出しをする先生に期待が集まります。「お金をかけただけのことはある」という保護者の実感がビジネスにつながるのです。教育手法は十人十色で ケースバイケース。自分の子どもに合った方法かどうかの吟味が不十分、親は悪者になりたくないという本音も感じられます。「教育熱心な親」ほど陥りやすい傾向です。

 ところで、一番スマートな苦労は何だと思いますか? やはり芸の習熟でしょう。芸術に関わるものの習得には手間ひまと日々の努力が欠かせません。楽器や伝統芸能の習得は平安貴族の時代もカッコイイ趣味だったようです。日本は様々な歴史を持った伝統芸能の宝庫です。日本全体が世界の人々にはテーマパークに見えるでしょうね。もはや日本を味わうには日本人でも修行が伴う。

 私の出身地秋田は苦労や不便の宝庫です。都から遠い農業県。苦労の山を資源と思いましょう。農業や暗闇、雪かきの体験。土の臭いと一汗かいた後の風の心地よさを教育や観光資源として活用しましょう。バスで10時間もかかって到着するからこそ得られる仲間、心身を鍛える活動と迎えてくれる母なる大地。21世紀の各地の町起こしも苦労の経験値としてボランティア募集してはいかがでしょうか?買ってでもしたい人が必ずいますよ。

 昔は只だった水、安全に加えて、ついに苦労も買う時代になったんですね。






 梅雨の季節になりましたが、皆様お元気にご活動のことと思います。さて、最近読んだ雑誌の記事によりますと、ハーバード大学に通う日本人留学生は1991年末は179人で、国別順位ではカナダ、中国についで3位でしたが、2007年末では127人となり、韓国、インド、英国、ドイツに抜かれ、7位になっているそうです。日本の知的存在感が希薄になりつつある現状の一つのようですが、最近の日本は、政治・経済を含めてあらゆる面で、世界の中での存在感が薄くなりつつあるように思えます。これは、結局はこれまでの教育の結果ということでしょうか。苦労は買う風土、逸材を育成する風土等改めて考えなおすべき社会風土も多いようです。
ご寄稿有難う御座いました。(HO)








 
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