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■2012年8月1日号 <vol.207>

書評 ─────────────



・ 書 評   石川勝敏  『資本主義以後の世界』(中谷 巌著  徳間書店)          
・ 書 評   岡本弘昭  『老いの才覚』(曽野綾子 ベスト新書)
                                
・【私の一言】 クレア恭子 『ロンドン便り(15)ー 納税者のモラル』

 

 

 


2012年8月1日 VOL.207

『資本主義以後の世』
(中谷 巌著  徳間書店) 

石川勝敏    


 著者は三菱UFJリサーチ&コンサルテイング(株)理事長
産業革命以来人類に未曾有の経済発展をもたらした資本主義も、「ユーロ
危機」「99%対1%デモ」「原発事故」と多難な問題を抱え、所得格差、
貧困、地球環境破壊問題を加速させている。
各国の長期不況もあり、財政規律回復も、緊縮政策をとれば世界不況を起
こしそうである。
本書はこのようなグローバル資本主義の危機を克服するには、文明の転換
が必要であろうという立場に立っている。本書はなぜ資本主義が行き詰ま
ったのか、なぜ成長力が低下したのか、なぜ長期不況になっているのかを
解析し、解決策を検討している。論旨は明快で読みやすい図書である。資本主義の現状としてグローバル資本主義には3つの根本的欠陥があると
している。
1 グローバル資本主義の国境を越えた投機マネーの移動が世界経済を不安
  定化し、バブルとその崩壊を生み金融危機を起こしている。
2 資本主義の目的はあくなき資本の自己増殖である。そのためには「自然」
  の搾取が必要であり、それゆえに地球環境の汚染、破壊を加速させている。
3 グローバル競争の結果、富の偏在、所得格差の拡大が起こる。その結果
  多くの国で「中流階層」が消失し社会の荒廃をもたらす。
著者はこうした問題を具体的に事実をあげて解説している。
ついで資本主義の盛衰について解説し、日本の失われた20年は何だったのか、
中国の資本主義をどう理解すべきか等の問題に触れている。
今後の課題として、日本の企業は「アングロサクソン型経営」ではなく、株主
資本主義から脱却し、和と信頼や中流階層の形成で自らの歴史、文化、伝統を
尊び日本企業の特性を作り上げて行かなければならない。
しかし既にグローバル化した世界で生きていく為に「真のグローバル人材」の
育成が急務である。
資本主義の基本の「交換」だけでは社会は行き詰まる、「贈与」する発想が必
要であるとして、消費税から貧困層への贈与(還付)を考え、分厚い中間層を
育てるための増税も必要であるとする。
困難な問題であるが、資本主義社会以後の社会には、グローバル資本の規制が
必要になる。
グローバルマネーの投機的動きが規制されなければ、アジア通貨危機、リーマ
ンショック、ユーロ危機の様な国際金融危機が恒常化するだろう。グローバル
資本からの抵抗も強烈だろうし、投機的取引と実質的な資本取引を区別するの
も、現実的に難しい。しかし、不可能ではないだろう。
中国は実質的に取り扱いを区別して管理し、リーマンショックの影響を最小限
にし、回避している。
日本は投機的取引を制約するグループに入るべきである。
農業の復活を実行できないか。建前は別にして日本ほど農業を切り捨ててきた
国は無いのではないか。平和な時代には比較優位の理論もわかるが、食糧価格
高騰は近い将来避けられない。
やり方次第では外国の農産物に対抗する競争力をつけさせる可能性はある。
大規模化だけでは外国に勝てない。農業の競争力アップと農村という「場」も
保存したい。
TPPの参加もよく検討しなければならない。規制撤廃、市場開放、構造改革
は日本の競争力を弱め、企業間の長期取引の弱体化、完全雇用文化の喪失、社
会の信頼感の喪失、所得格差と貧困層の増加など、この20年間で失ったものは
多い。TPPは関税の撤廃だけではなく交渉項目が多く、日本再生のためにど
う生かすか、国益の観点から十分な対応が必要である。
「交換」から「贈与」へ文明の転換を主導できるのは日本しかない。日本は明
治以来西洋的思想を取り入れてきたが、和魂洋才の言葉通り西洋的価値観を心
底から信じていたわけではない。
東日本大震災の被害者たちが世界に見せた互助の精神あるいは贈与の精神は多
くの日本人に昔を思い出させた。行きすぎたグローバル資本主義の反省ではな
いか。
はたして日本は文明の転換を主導できるか、社会の現実からは空想的であろう
が、まず日本人が本来の贈与の精神や伝統的な自然観、価値観、美意識を取り
戻す事が必要である。
そうしない限り人類が滅亡するという時まで出来ないかも知れないが、滅亡す
るまでに誰かが始めなければならない。
著者の資本主義後の社会についての結論は悲観的であるが、現状の閉そく感は
何とか解決して欲しい問題である。
著者の現状解析は明快で理解しやすい。ご一読をお薦めします。

                            

 


『老いの才覚』
(曽野綾子 ベスト新書)

岡本弘昭    

高齢者社会白書では、高齢者とは生産年齢を超えた65才以上の人としている。
平成23年版の高齢者白書によれば、平成22(2010)年10月1日現在の65才
以上の人口は、2958万人で総人口の23%を占める。高齢者と老人とは同義語
であり、まさに老人社会が到来している。さらに、50年後の平成72(2060)
年には総人口の39,9%に上昇すると推測されている。
このような時代であるだけに、老人は、出来るだけ若い世代に負担をかけな
いようにと思うのが当然の成行きである。しかし、現実には、年を重ねても
自立した老人になる方法を知らない人間が増えており、これが大問題である
と、著者は指摘する。
具体的には、高齢であることは、善でも悪でもなく資格でも功績でもなく、
単に一つの状態を示しているに過ぎない。しかし、基本的な苦悩の無い時代
を過ごし、また人権、権利、平等を主張する教育を受けた人が老人世代とな
ってきた現在、「老人だからもらって当たり前」、「親切にされて当然」と
いった風潮が顕著であとみられる。これに対し、昔の老人は、まわりの状況
等を見て自分はどうすべきか、と判断する才覚があった。この「才覚」とは、
培われた経験の引き出しの中から最良の事を導きだす力をいうが、老人は次
の7つの才覚を持ち、前向きに対応する自立する老人になることが望まれる
と著者は指摘している。
1 自立と自律の力。
2  死ぬまで働く力。
3  婦子供と付き合う力。
4  金に困らない力。
5  孤独と付き合い、人生を面白がる力。
6  老い、病気、死と馴れ親しむ力。
7  神様の視点を持つ力。
我が国の高齢化は更にすすみ、このままでは国のあらゆる分野で支障が
生じる、まさに「国家の危機」を迎えるといえる。
この問題は、国民一人一人が長期的視点に立って、正面から向き合うべき
問題であるが、最近では、新聞でも『シニアよ大志を抱け』という記事
(7月20日日経大機小機)が掲載されるなど、特に高齢者のあり方に関
心が高まっている。
本書は、このような時期に、高齢者が改めて今後の自己のあり方を考えな
おす契機となる図書といえる。
平成22年9月の初版から半年で16版を重ねるベストセラーである。

 

 

 

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『ロンドン便り(15)ー納税者のモラル』
クレア恭子 

  
 
コメデイアンのジミー・カーは舞台やテレビで活躍中の売れっ子。当然 所
得は多い。高額所得者には50%の所得税がかかる。ただ 3月の見直しで来年
4月より45%へ減額されることになった。
理由は 経済の牽引役である高額所得者の国外脱出を阻止する為とか。一方 
ジミーは50%を払わず「1%ですませている。」と当局を揶揄っては、庶民の
爆笑を買っていた。タイムズ紙がこの小話の背景を調査し、ジミーの利用し
ている方法は1990年代に映画産業振興の目的で導入された課税優遇措置を利
用した納税回避だ、と糾弾。 首相が出張先のメキシコから、「額に汗して
働き納税している庶民が入場料を払い、ジミーの舞台を見に来る。ジミーは
そのお金を報酬にしながら、税金を払っていないとは、公平ではない。モラ
ルに反する。」と苦言を呈したから、その反響は大きい。 ジミーは ファ
ンへ平謝り、即日特殊な措置を取り止め、まともに納税する、と宣言した。
英国は欧州各国と同じく、緊縮財政下にある。不況から、欧州通貨EUROの
存続までが危惧されている現況下、英国経済も史上最悪の事態。 首相の
「国民皆同じ:We are all in it.」の掛け声に応え、国民は一丸となっ
て財政再建に協力してきた、と思っていたが そうでない人々がいたのである。
Times紙のさらなる調査で、納税回避策利用者は芸能界だけでなく、高額所
得者全般:医者・歯科医・弁護士・政治家・資産家などあらゆる職種に渡り
 年齢も20代から80代まで全国各地に存在するとか。経済的に余裕があって、
ファイナンシャル・アドウ゛ァイザー(会計士)を雇える人達は その指示
に従って 法に抵触しない節税策を導入、さらに 富を蓄積していく。貧富
の差が増大するわけである。
一方 失業者急増、特に学校を卒業したての若者の就職難、加えて各種福祉
政策の見直しから 大学の費用は倍増、住宅手当は削減されて親との同居が
増加、最近、戦後初の医師のストライキまであり、国民間には不満が蔓延し
ている。
発達した文明社会では、余裕のある人達が社会の弱者を救済するのが基本で
あるが、持てる人はその余裕をさらに増やしたいのが人情。従って 違法で
はないが‘良くない行為であるから’と モラルで国民に納税させるのは無理。
そう簡単に第二・第三のジミー出現は期待できないであろう。速やかな法の
整備とその実直な施行が望まれている。

 

 

暑い日が続きます。皆様にはお元気でしょうか。
ところで、ある出来事、ある現象について「イヤなこと」と思わなければ、その出来
事は無味無臭のまま通り過ぎ、逆にそれを「イヤなこと」と思った瞬間に、「イヤな
こと」になるそうです。
つまり、「決めつける心」によって、そういう現象が生まれるということです。
いろいろな問題もあり、さらに暑さも加わりイライラが少なくない時期ですが,心頭
を滅却しできるだけイライラなくし、穏やかにこの時期を過ごしたいものです。今号も貴重なご寄稿をいただきありがとうございました。(H.O)


 





 
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