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2005年1月1日 VOL.25

■書評
・『流れる』― 板井 敬之
・『敗北を抱きしめて』―今村 該吉

【私の一言】『シンガポール便り(3)─ 私の初夢』 岡田 桂典

 

 

『流れる』
著者:幸田文  出版社:新潮文庫  

板井 敬之  
 この小説は、著者が肉親以外のことを書いて、自他ともに文筆をなりわいとしていくことを認められた作品、と言われている。
著者が後に残した講演録や娘の青木玉氏の回想によれば、「葬送の記」他の一連の露伴に関する追想録の発表後、求められるままに書き続けることに疑問を感じ、“家事雑事”を以って世に立ち得るか否かを確かめるべく、柳橋の芸者屋に女中として住み込んだ。
ここでの経験を基に書いたのが、この小説である。冒頭から次々と人物が登場し、歯切れの良い文章で物語が展開される。登場人物の心理描写や主人公による物事の捉え方は、なかなかに鋭く、新鮮でもある。昭和26〜27年頃の柳橋から両国にかけての様子や、芸者衆の生態についても興味深い描写がなされている。
著者によれば、「私は、ナベのお尻を磨いていただけで、父からは文章の書き方など習ったこともない」由。しかしながら的確な描写力の裏付けとなっている物事の本質を把握する術や、人の心を読む洞察力、骨惜しみしない気質等の美質は、もとより著者自身の資質と努力によるが、父露伴の教育も与って大きかったと思われる。
“明治人”から教育を受けた“明治生まれ”の著者は、きつい人ではあったろうがシャキシャキとしていて、大いに魅力的である。
著者の死後、未発表の著作が数多く世に出たが、その“原型”は、この作品にあると思うが、如何であろうか。



『敗北を抱きしめて』(上・下巻)
著者:ジョン・ダワー  出版社:岩波書店

今村 該吉 
 2001年に刊行され、アメリカでピュリッツアー賞を受賞し、ベストセラーになった。
1945年8月、日本は敗北し、マッカーサーがパイプを片手に厚木飛行場に降り立ってから、1951年4月、突然トルーマン大統領に解任され、離日した。本書はその時代を中心に記述された一つの叙事詩である。丁度私の小学校入学年から卒業時までに一致する。偶然にも私と同年生まれの筆者は当時当然アメリカにいたであろうが、その時代考証は驚くべく細部にわたり、綿密である。「ああ、そんなこともあったなあ」と私の古い記憶を呼び覚ます。チューインガム、パンパン、カストリ雑誌、ヒロポンから徳田球一、血のメーデーに至るまで。ひもじさに付きまとわされたが、奇妙な懐かしささえも覚える。
本書は学者の記述であるだけに、分析の中心は戦争犯罪者と昭和天皇との関係、議会制民主主義及び戦争放棄を中核とする憲法制定の過程である。この時期に日本人が如何に戦争を嫌悪し、平和民主主義を希求したか、このディーテールの記述は重い。
小泉首相が料亭よりもオペラの方が好きなのはいい。それはそれとして憲法改正問題が議論されている現在、少しでも時間を割いてこの本を読んでほしい。気がついたら憲法が改訂されていたのでは困るのである。






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『シンガポール便り(3)─ 私の初夢
岡田 桂典
 日本の財政危機は良く分かりますが、おカネがないのなら“お金儲けが上手な人たち”に大いに稼いで貰えば良いのです。しかし政府は“お上にはカネがない。年貢を増やすぞ”と昔の代官同様で、“富を生み出すヒトやカネ”を上手く働かせる知恵がありません。
レーガン大統領は「国家は敵だ」と言いました。国(役人)がおカネを使うと不公平で非能率になる。故に“国の富を増やす為には民間がカネを使わなければならない”と「小さな政府」を標榜し、大減税を行ったのです。ブッシュさんも減税がお好きなようです。
 東南アジアでは“税金が高い”と聞いたことがありませんから、大体この路線です。私が住むシンガポールでは、相続税・贈与税、キャピタルゲイン(不動産・株等の儲け)税、利子・配当課税はありません。法人税・所得税も日本の半分以下です。政策は明快です。国民の為におカネを儲けてくれるのは“おカネがある有能な個人と会社”なのです。彼等が研究開発を行い、新企業を起こし、投資を行い、人を雇い、消費の元手を作り出すのです。“税金の心配などしなくて良いから”となると、冒険心に富んだおカネや、優秀な人、会社は国内のみならず、世界中から集まってきます。“皆さん、どんどん儲けて下さい。儲けはじゃんじゃん使ってください。おカネが回れば回るほど皆が豊かになります。国の余資は国も運用で儲けます。税金は皆様が使ったところで頂けば結構です”というわけです。
 日本のお役人様、“年貢は二年間半分にする。そのカネで農具を買い、酒でも飲んで元気を出して、新田開発をやってくれ。そうすればお前等の実入りも増え、年貢も増えて上々じゃ。年貢はお前等の血と汗の結晶であるから、お城方は「一汁一采」で我慢し、「殿様商売」は慎む。貯めたおカネを元に商人・職人どもに大いに儲けさせる。心配せずに働け。年老いたら山の湯治場で面倒をみてやるからな”という具合には行かないものでしょうか。





 
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