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■2011年8月15日号 <vol.184>

書評 ─────────────

・書 評    片山 恒雄 『流れる星は生きている」(藤原 てい著 中公文庫)
              
・書 評   福島 和雄 『侵略の世界史』    (清水馨八郎著 祥伝社)

・【私の一言】新田 恭隆 『経済成長の中身』


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2011年8月15日 VOL.184


『流れる星は生きている』
 (藤原 てい著 中公文庫)  

片山 恒雄   

毎年8月に入ると、甲子園での高校野球と並んで終戦時の記録の掘り起しが
行われるのがメディアの慣行となっている。この題名と著者名を聞けば、70歳代から上の方は鮮やかな記憶がよみがえって来ると思う。著者の夫は満
州の新京、今の長春にある観象台(日本の気象台にあたる)に勤務しておられ
た(伯父は元中央気象台長藤原咲平氏)。日本の敗戦を突然聞かされ、5歳の長
男と2歳の次男および生後間もない長女を抱えて帰国に向けての逃避行。さ
らに頼みとする夫は、途中からソ連兵に強制連行される。
僅かな手持ちのお金はたちまち底をつき、所持していた衣類などを次々と金
に換え、それもなくなると、手芸品を作って売り歩いたり、最後は物乞いを
しながらひたすら南下を続ける。子供たちに与える食糧は途絶えがちになる。

乳飲み子を背負い、2人の幼児の手を引いて、炎天下いつ果てるともわから
ない泥沼の道に難渋し、冬季には腰まで浸かる極寒の川をいくつも渡る。精
も根も尽き果て、いよいよ死を覚悟したときに曙光がさし、貨物列車と引揚
船を乗り継いで日本の土を踏む。終戦の翌年9月のことであった。
家族4人乞食のような姿で故郷の上諏訪駅に到着し、出迎えた親族と抱き合っ
たときの感動的な場面では読んでいて恥ずかしくなるくらい涙が止まらなか
った。著者は1年ぶりに(!)鏡の前に立ったとき、そこには痩せて目が落ち
窪み、頬がこけ真っ黒に日焼けした亡霊のような自分の姿を見る。そして3ヵ
月後には夫が打ちひしがれた姿で帰国する。

そして家族は、互いに当時のことを話題にするのを避けながら新しい時代を
生きていく。夫は気象庁に勤務するかたわら新田次郎のペンネームで山岳小
説・時代小説などの作家として名をなし、長男正広氏は機械工学を学んで自
動車会社で活躍し、次男正彦氏は米国・日本の大学で教鞭を取り、「国家の
品格」という一時代を画するベストセラーを著す。そして長女咲子氏は小説
執筆の経験を経て結婚し2人の子の母となっている。家族それぞれに戦後と
ころを得て活躍する姿は優れたDNAを共有しながら一本の糸で結びついてい
るようだ。

本書は、昭和24年に刊行され、歌に歌われ映画にもなって当時ひとつのブー
ムを作り出した。驚くべきことに現在に至るまで60年にわたりロングセラー
として版を重ねているばかりか書店によっては今もって平積みされていると
聞く。いま日本は東日本大震災による未曾有の国難に遭遇しているが、この
ような時だからこそ、厳しい試練のなかを生き抜いてきた記録を読むことに
より、あらためて自信と勇気を自らに注入しなければならないと思う。また、国家と国民の関係についても考えさせられた。終戦が近いという情報を知った関東軍は居留民保護という本来的な責務を放棄して、家族や政府関係者とともに持てるだけの荷物を持ち専用車両を仕立てて、いち早く帰国の途についた。一方、国策への協力の名のもとに満州・朝鮮などに渡った人々は現地で置き去りにされたばかりか壮年の男はソ連に強制連行され、長期の重労働に耐えたのである。多くの人々が味わったその苦しみは筆舌に尽くしがたいものがあったであろう。歴史に学べというが、この時代こそわれわれは決して忘れてはならないと思う。

 

『侵略の世界史』
(清水馨八郎著 祥伝社)

福島 和雄   


明治時代から日本は欧米諸国を文明の先進国と見て、世界史とは西洋史のこ
とで、非白人を歴史の表舞台に登場させることはなかった。そのため近代西
欧の繁栄を支えた植民地支配の暗黒面を見落として来た。
コロンブスの1492年アメリカ大陸到着は侵略の始まりで、白人は「鉄砲と十
字架」を手にして残虐非情な手段で、地球をその支配下に収めてしまった。
この本は白人の残虐性、侵略性の根源は何か、そして19世紀末までのアジア
の民族が、白人の植民地に組み込まれた由来を解明している。20世紀になっ
て白人の支配に従わなかった唯一つの国日本を、西からイギリス、東からア
メリカ,北からソ連が襲ったのが大東亜戦争であり、白人の手口は、1・原
爆投下2・日本の都市への無差別攻撃、3・ソ連の満州侵略、と民族抹殺の
ホロコーストのやり方は一貫していた。東京裁判は負けた日本に白人の長い
間の侵略と残虐、植民地支配の罪を、すべて転嫁するための大芝居であった
と言うのが著者の考えである。本書は
  第1章 逆転発想の世界史
  第2章 なぜ白人は侵略的なのか
  第3章 スペイン・ポルトガルの世界征服
  第4章 英・仏・オランダによる植民地支配
  第5章 アメリカ・ロシアの野心と領土拡張
  第6章 白人侵略の終着点日本の対応
  第7章 立ち向かった唯一の有色人種
  第8章 日本が真の独立国家になるために
から成り立っており、コロンブスのアメリカ到着以来500年、白人は世界で
何をしていたかを詳しく説明している。私は著者の主張に100%賛成ではな
いが、高校の教科書では充分にに教えられていない西洋諸国が、過去に犯し
たマイナス面はもっとはっきりすべきだと思う。
 著者は大正8年生まれ、千葉大学名誉教授である。

 

ご要望にお応えして、ジャンルを定めない自由評論コーナ ー【私の一言】を設けました。 評論の評論はもとより、社会評論等自由なご意見をお届けします。

『経済成長の中身』
 新田 恭隆 



以前から私は「成長」の中身を疑っている。取り敢えず思いつくままに成長
のもたらしたもので首を傾げる例を挙げてみよう。
・過剰包装
・野菜や果物に旬という感覚がなくなったこと(いつでもある)
・家電の付加価値と言われる機能や待機電力
・トイレに入ると蓋が自然に開く機能(自動ドアにしても)
・最近でいえば、自粛するなの掛け声に応じた一連の動き

バブル崩壊後ずっと持続的成長の必要性が叫ばれてきたが、3.11後はそれが
原発再稼働の理由に応用されている。
マクロ経済学で成長とはGDPが増大することで、経済的に豊かになること
と言われている。
そのGDPの中身はすべて国民経済計算上立派なGDPであるが、上の例示
のようにその社会的な意義には価値を認めにくいものを含む。その量がどれ
くらいのものか私には推計できないが、感じとしては相当あるのではないだ
ろうか。

いま原発の再稼働に躊躇すると電力不足から生産活動が停滞して国民生活に
支障をきたすと言われているが、原発容認・反対に拘わらずGDPの中身を
考えてみると直ちに素直に納得する訳にはいかないように思う。いらないG
DPを削る機会ではないか。
折しも節電の季節である。とにかく実際に節電して何かを使わないでみると、
案外清新なライフスタイルが見えてくるかも知れない。

 

 

東京都の石原知事が東日本大震災に関連して「津波をうまく利用してだね、
我欲を1回洗い落とす必要があるね。積年たまった日本人の心のあかをね。
これはやっぱり天罰だと思う。被災者の方々かわいそうですよ」と発言して
物議を醸しました。
しかし、天罰発言は別としても、終戦以来66年平和と繁栄の中で暮らして
きた日本人は、あらゆる面で原点に戻って見直す必要がある段階にあると思
われます。
原爆を契機に終戦を迎え、心機一転した日本の今日までの推移を見るに付け、
東日本大震災が日本の新たな展開の契機になることを期待したいと思います 。
本日は終戦記念日です。
本号も、多面的なご寄稿をありがとうございました。(H.O)





 
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