2004年12月15日 VOL.24
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■書評
・『ダ・ヴィンチ・コード』 櫻田 薫
・『それでもきっと恋をする』 高津 隆
【私の一言】『アメリカ便り(3) ─グローバルスタンダード』濱田 克郎
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『ダ・ヴィンチ・コード
』
著者:ダン・ブラウン
訳/越前敏弥 出版社:角川書店
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櫻田 薫
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読み始めたら止められず、一晩一気に読んだという博学の友人から勧められた本である。テンポの速いミステリー小説でそれだけで単純に面白いが、表題のとおり「最後の晩餐」などダビンチの絵の謎解きもあるが、全体として西洋文化とキリスト教の知識が深まったという読後感が残る。普通のサスペンス小説よりも文字通り「面白くてためになる」。またヨーロッパ旅行でパリのルーブル博物館やロンドンのウエストミニスター寺院を訪れた人には、「モナリザの微笑」などの名画や建物の構造を思い起こしながら、もう一度よく見学をしたいと気持ちを起こさせるにちがいない。
米国だけで800万部など世界的なベストセラーというが、おそらくパリと欧州の観光振興にもなっただろう。日本政府は、以前から「深く知る旅」なるものを促進しようとしてきたが(もっとも国内旅行だが)、われわれのように無知の異教徒にもキリストやキリスト教に関する歴史的事実(あるいは物語)をより理解する機会を与えてくれる。マクダラのマリア、聖杯伝説、テンプル騎士団などは、ヨーロッパ旅行でガイドの説明を理解するために必要な歴史・文化的知識である。オプス デイ、シオン協会、フリーメーソンなどの団体も耳にしたことはあるが、実際に存在する組織としてはよく知らなかった。
それから重要なことだが、この小説の本筋-キリストは神ではなく人間であり、さらに結婚して子孫がいるというような話は、バチカンでなくても信仰心厚い人々は怒り狂うにちがいない。ダーウィンを教えない州まである宗教国の米国で、こういう本が出るのも面白い。レバノンで本書は発禁になったらしい。
これらは寝ながら読んでよいが、追加して「ダビンチ コードの謎」{PHP}を読めば、知的な謎解きになり、今後ヨーロッパ旅行をする際に参考になるそうである(私は読んでいないが)。なお日本語の翻訳は上下2冊で各1、890円であるが、原書が好きな読者には、989円のペーパーバックをお勧めしたい。宗教、建築関係の専門語を飛ばして読んでも話しの筋はよく分かる。また聖杯(Grail)など英語の暗号解読の部分は説明も単純になるだろう。
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『それでも きっと 恋をする』
著者:にらさわあきこ 出版社:ぶんか社
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高津 隆
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愛だの、恋だの、好きだのと、そのような感情どころか、そんな活字とはすっかり縁が薄くなり、ウン十年が過ぎた。それがどうしていまさら気恥ずかしいタイトルの本を手にすることになったのか。ひとつには、著者が元NHKの女性ディレクターで、花形(と思われている)職業からフリーライターという“マルビ”(と思われる)世界に転身した、その経歴に興味を持ったためである。
著者の身の上に何が起こったのかは知らないが、それなりの屈託があったのだろう。読み進めている間に、もしかしたら彼女は熱っぽい恋で手痛い目にあったのではないか、とオジサン世代はどうしても妄想を逞しくしてしまう。「オトコはそんなことでいちいち落ち込んでいたら食っていけないんだぜ」と思う半面、「愛の挫折?ウン、だからこそ人生ってのは厳しいけれど美しいのだ」と、思わず父性を意識させられた。
もうひとつ、「負け犬」と自嘲する30代、独身、子なし女性の「遠吠え」なるものに接してみるのも一興か、という不埒の動機もあった。30代の男は3人に一人、女性は4人に一人が未婚という時代に、何も結婚しているかどうかで「勝ち」「負け」を決めなくてもいいではないか、と日頃から思っていたからだが、これは全くアテが外れた。
エッセイ風ポエムと言えばいいのか、端的な文章に凝縮された情感がキラキラと輝いている。成就しないことを予感しながらも、健気にこころを寄せていく。おそらく傍目には仕事のデキル、自立した大人のオンナと見られている彼女だが、その心根は脆(もろ)くて儚(はかな)い、柔らかな優しさで満ちあふれている。しかし、オトコはそんな彼女の気持ちの葛藤には無頓着であり、だからこそこの恋はかなわない。
でも、誠実に一途な思いを抱き続ける女性ほど、意地がある。恋にせよ、仕事にせよ、一所懸命に生きるということは時に哀しいことでもあるが、人生のキャリアはそうやって積み重ねられる。そう、デキル女性はいつだって恋をするのである。
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