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■2007年12月1日号 <vol.95>
書評 ─────────────


・書評 片山 恒雄   『徳川将軍家の演出力』
・書評 後藤田 紘二  『プライドと情熱 ライス国務長官物語』

・【私の一言】相川 香  『私の子育て日記 その4』

 


2007年12月1日 VOL.95


『徳川将軍家の演出力』
著者安藤優一郎    出版社:新潮新書
    

片山 恒雄  


   テレビの「水戸黄門」を見ていると、終わり近くなって、「この紋所が目に入らぬか。」と印籠をかざすと、悪代官などがいっせいに平伏する場面が必ず登場する。徳川幕府はこの「葵」のブランド力を如何に高めていったかが本書の内容である。

 江戸開幕当初は、全国の大名をはじめ百姓・町人などの民衆を武力によって抑えることが出来た。江戸時代初期のころ一人の武士が昌平橋の近くで将軍の御成りを格子窓から首を出して覗いていた。いよいよ行列が目前に近づいてきたので、顔を引っ込めようとすると格子が邪魔になって動きが取れない。馬上からそれを見た将軍(著者は三代家光と推定している)から、「首を横にしたらどうか。」といわれ、無事顔を引っ込めることができたという逸話があるくらいのんびりとしたものだった。

 しかし、世の中が落ち着いて泰平の世が続くと、将軍を頂点とする幕府の権威付けのためのさまざまな演出が求められるようになってくる。そのためには、細部にわたる諸法度(はっと)の制定と小笠原流に代表される徹底した礼儀作法を遵守させることにより、将軍を神聖な存在に高めるとともに、意図的に民衆との距離を遠ざけていく。

 時代がさらに進むと、大名ですら将軍の顔を直接見ることが許されなくなるばかりか、大名行列ともなると、道筋の民家はいっせいに戸を閉め、隙間から覗かせないため(軍事上の理由もあったのであろう)目張りをさせ、また窓のある家は窓(まど)蓋(ぶた)までさせた。当日は火の利用が禁じられていたので、煮炊きや入浴が出来ない。一般民衆は、家の中で息を潜めてひたすら行列の無事な通過を待ち、家主は代表してどぶ板の上で土下座する。

 このような厳しく統制された階級秩序維持の中にありながら、一方では、百姓・町人の代表を酒・折り詰め付きで江戸城内に招き、将軍と一緒に能を見物する「町入(まちいり)能(のう)」が催されてもいた。いよいよ簾があがって将軍の登場ともなると、「親玉ぁ」とか「成田屋ぁ」などの歓声が見物衆の中からあがったという。厳しい締め付けのなかで時にはこのような空気抜きも行うという硬軟取り混ぜた心憎いまでの民心操縦術であった。
 そして、この方針は明治新政府にも引き継がれ、将軍に代わった天皇を現人神(あらひとがみ)と仰いで近代国家建設を推進していったと見ることが出来よう。最近の政治情勢と比較するまでもなく、江戸時代の為政者の巧みな演出振りが際立って見えてくるのである。

 
『プライドと情熱 ライス国務長官物語』
著者:
アントニア・フェリックス  訳:渡邊 玲子

出版社:小角川学芸出版
 
後藤田 紘二 


   各分野への女性の進出、活躍には目覚しいものがある。かっての英国のサッチャーさんや、西ドイツ現首相メルケルさん、アメリカ国務長官ライスさんなどがその代表例である。
 とりわけ、ライスさんの様子などをテレビでみていると、その頭脳明晰、沈着冷静な物腰には、ただただ感心するばかりである。
 ライスさんのような人材が、どのようにしてこの世に生まれ、育ってきたのであろうかと好奇心を抱いていたところ、このほど彼女に関する“伝記物語”が出版された。

 彼女は、少女時代を人種差別が激しく、黒人解放運動の中心地のアラバマ州で過ごした。彼女の家系(父は牧師)は、代々非常に教育熱心で、学校教育と同程度に両親から厳しい家庭教育をうけていた。その地での両親の教育方針は並外れたものであった。人種差別を克服して伸びていくには、万事、白人の2倍3倍の努力を重ねなければならないという家風が一家には充満していたのである。

 本書は、現在の地位まで登り詰めるにいたるまでの家庭環境、周辺環境、本人努力振りの様子を、関係者からのインタビューなどによって、つぶさに記述している。
 ピアノの演奏、フィギュアースケートの練習練磨、ロシア語のマスター振り、国際政治での造詣の深さ、38歳にして、女性初、黒人初、最年少のスタンフォード大学副学長になるなど、才女ぶりには枚挙の暇がない。
 政治の世界に縁を得るや、東ヨーロッパ、ソビエト問題のエキスパートとして、ブッシュ大統領親子2代にわたって国際政治の補佐役として活躍する。ホワイトハウスでの仕事は、毎日14時間以上働く激職の世界である。
 今では現役大統領が最も頼りにしている人材の一人として、ゆるぎなきポスト得た。

 主義主張に異論があるとしても、本書に記されたライスさんの奮闘振りをみて、政治家は如何に在るべきか、教育問題、なかでも家庭教育をどうすべきか、あるいはわれわれ個人として人生を如何に生きるべきかなどなど、現在われわれが背負っている解決すべき問題にからんで、多くのことが学べるように思える。

(なお、本書の初版、再版には著者、訳者に関する紹介記事がない。第3版から掲載予定とのこと。 著者は、テキサス在住女流ノンフィクション作家でこれまで“ローラ;アメリカのファーストレディー、ファーストマザー”など14冊の書物を著している。アメリカ、ヨーロッパ、各地でソプラノ歌手としても活躍中。 訳者は東京女子大文理学部卒業、日本翻訳家協会会員で“ロンドン王室旅行ガイド”ほか多数の翻訳書を著している。)

 
 
 
  

 

ご要望にお応えして、ジャンルを定めない自由評論コーナ ー【私の一言】を設けました。 評論の評論はもとより、社会評論等自由なご意見をお届けします。

『私の子育て日記 その4』
相川 香

    私の住んでいる近辺は幼稚園激選区。お受験幼稚園も多いため、お母さん達は一年前から幼稚園選びに必死です。
 大学までエスカレーター式の幼稚園や、人気のモンテッソーリ、シュタイナー教育、運動に力を入れ心身ともに鍛える園、小学校受験対策をみっちりやる勉強熱心な園、逆に個性を大切にして集団行動は最小限にする自由保育を掲げる園・・・と様々。

 私も毎週のように見学に行き、先生に顔を売り、相談する日々でした。
どれも魅力的な教育方針ですが、人格を形成する大事な時期をどうやって過ごすのが彼の為に良いのかという判断は容易ではありませんでした。
 現在息子は少人数制の保育園に通っています。そこは私がどうしても入れたいと懇願して入れた園でした。目の前に河原が広がり、都会とは思えないのんびりした場所で、生物学者で青山大学教授の福岡伸一氏が提案した五感を鍛えたり環境を考えるプログラムを実施しています。
 先生方は若いけれどやる気に満ちて輝いており、常に父兄と子供のことを考えて、要望や新しい試みをどんどん取り入れ、親が心から信頼できる園なのです。

 また少人数ならではのコミュニケーションで、各子供のブームや好きなものを把握し、それをクラス全体に浸透させて、子供の個性を皆が認め楽しめるよう配慮してくれるので、息子も居心地良く感じられる様です。
 最初はエスカレーター式でのんびりと好きな事に力を入れてほしいと考えていた私でしたが、さまざまな園を見学し、果たしてこの場所は彼に本当に合っているのだろうかと疑問に感じ始めました。

 確かにそれぞれ魅力的ではありましたが、やはり私が彼の方向性を決めてお受験したり、スポーツに力を入れさせたりというのは、もちろん能力を伸ばしてくれると思いますが、なんだか不自然な気がし、保育園のように懇願したいほどの気持ちにはなれませんでした。

 そしていろいろな園を見学し、私の考えとして気付いたことは、この年ではまだ教育内容は重要ではないということ。
幼稚園とは人生最初の社会生活の場。その中で楽しいと感じられることが重要だと感じました。

子供が子供らしく、精一杯楽しく遊んで、生きる喜びを感じられる場所。

 髪を振り乱して、必死に教育ママになっていた私が気付いた結論でした。
結局、息子本人が行きたい園を選びました。彼は太陽がよく見え、広々とした明るい園庭のある、一番雰囲気の良い園を選び、「お兄ちゃんになったら幼稚園に行く!」と張り切っています。
 その園はお受験の有名幼稚園ではありませんが、親バカではありますが、彼は本当に良いものを見極める正しい目を持っていたと思います。
いろいろ考えすぎて正しい目を見失っていた自分を恥ずかしく思いました・・・。


∴∴∴∴《編集後記》∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴

  成功の要訣は、運・鈍・根にあるといわれています。「運」は機会であり、「鈍」は、地道に、一歩一歩、堅実に進むという意味です。「根」は、一事に気をつめることであり、失敗しても気を落とさず初一念に従って進むことをいいます。徳川家康、ライス国務長官ともこの3要素を発揮したと言うことでしょう。相川家のご子息も鈍と根に恵まれますように。
 所で、今年もついに師走です。今年の政治・経済・社会情勢には、総理大臣が急にやめたり、理由なき殺人がしばしば起こったり、為替が波を打ったりいろいろなことがありました。これは最近の日本人に鈍とか根の精神がかけているためのようにも思えますが。
 急に寒い日々が続くようになりました。お元気にご活動ください。
 今号も多様な書評ありがとうございました。(HO)








 
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