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2007年6月1日 VOL.83


 

 

『<旭山動物園>革命』 
著者:小菅正夫    出版社:角川書店

浅川 博道  

 旭山動物園、日本で最北に位置し、話題を呼ぶ動物はいないのにもかかわらず、上野動物園を上回る日本一の入園者を記録したことであまりに有名である。
本書は、その奇跡を実現した復活プロジェクトの推進者である小菅正夫園長が、さまざまな試行錯誤のなかで得てきた経験をまとめたものである。
 1980年代の後半から、入園数が下げ止まらず、動物園閉鎖の危機がおとずれる。このままでは悔しい、市の予算がなくても出来ることはあるはずだと考えた時、有効に機能したのが30年間続けてきた勉強会。閉鎖の危機から脱出するため、「動物園とは何か」といった存在意義の確認からスタートして、飼育に携わる人間が知恵をしぼりあう。一度考えたアイディアを土台にして、さらに新しい考えを各自が持ち寄って再度練り直す。
 そこから生まれた最大の成果は、「動物の見せ方」を根底から変えたことである。これまでの手法は動物を姿形で分類し、主に檻に入れて展示する「形態展示」、これをそれぞれの動物の持つ特徴的な動きを見せる「行動展示」というユニークな手法に変えたのである。
 冬の風物詩となったペンギンの散歩、ロープを渡るオランウータンの空中散歩、アザラシの泳ぎを360度から観察できる円柱トンネル。動物たちはそれぞれの能力を発揮できる環境を与えられ、イキイキと活動する。「自分らしさ」を発揮できる環境は、活性化を促す。企業組織でも同様で、ここにビジネスモデルの原点がある。

 

『春秋左氏伝(上)・(中)・(下)』 
著者:小倉 義彦訳    出版社:岩波文庫

山本 俊一郎  

 いわゆる四書五経の五経のひとつである。古来、公平・中立的な表現を「春秋の筆法」というように、人口に膾炙している今も知られた史伝説話集だが、この本を読む人は今は少ないかもしれない。しかし、この本は荻生徂徠が読むべき本の第一に挙げたという本で、福澤諭吉は全巻をおよそ11回も通読したという。原著は伝わっておらず、孔子が著した「春秋」本文に彼の弟子左丘明が注を加えたとされるものが原文と共に伝わっている。「春秋」本文は簡潔に過ぎ、事実のみの記述になっているため内容は殆ど判らないが、「左伝」は詳しい解説をつけていて読み易くなっている。略して「左氏伝」、または「左伝」といわれる。
孔子(BC551〜BC479)が生まれて暮らした魯国を中心にBC722年〜BC468年の254年間に歴代の魯国とその周辺諸国の国王達が生きた時代の中国の歴史を編年体で記述している。
左伝に書かれた解説には、諸国の王達、及びその臣下達の考え方、行動を詳述していて、そこには人間の礼節、忠義、徳義、勇気、廉恥、狡猾などが具体的に描かれている。挙げられた事例は、個人の行動とその動機をそれぞれの当事者が述べる形式をとっている。論語にくらべて具体的できわめて人間臭い。様々な場面で人々がどのように考え、行動したかを記している。
多くの人が殺し、また殺されている。この時代も決して穏やかな時代ではなかったことが判る。忠義、誠実、義を守る堅さ、勇気、怯懦といった徳目を抽象的なものとしてでなく具体的事例で述べている。その点で、論語にくらべ説教臭さが少なく東洋古来の倫理を解りやすく例示している。
この本は、江戸時代から明治期にかけて漢学の素養を求める青年達に愛読されたということで、彼等は、この本を熟読して気に入った文章は書抜いて座右に置くほどだったという。知・仁・勇、あるいは礼・義・信といった徳目は最近殆ど聞かなくなったが、最近かまびすしい教育論議の中で、こうした東洋古来の徳目をあらためて再考してみる価値があるかもしれない。
国名、人名などの関係が必ずしも明らかではないということもあり、あまり読み易いとはいえないが、春秋の時代生きた人々の多様な言行をまとめていて人間の生き方のケース・スタディになっている。それが永年に亘って読み継がれてきた理由かもしれない。訳文はこなれた現代文で、古典とはいいながら文体は古さを感じさせない。内容が教訓臭くないので比較的抵抗感なく読むことができる。

 
 
 
  
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『月の砂漠』
川井 利久

 童謡に月の砂漠と言うのがあり、非常に美しく且つロマンチックな歌詞で日本では人気があるが、これを現地アラブ人に聞かせたらどうだろうか?
王子様と王女様が二人だけで金と銀の瓶を持って砂漠に向かう。おそらく一晩の内に強盗に身ぐるみ剥がれて殺されるか人質に取られて、身代金を取られるのがオチだろう。
生きにくい生活条件での人間社会と人間性がどうなるのか。これを子供の頃からある程度幼児に感じさせることも必要だろう。
ヨーロッパのお伽噺には厳しいのが多い。赤ずきんちゃんは家の扉を開ける時の注意事項を指摘しているし、ヘンデルとグレーテルは継母の恐ろしさと生き抜く知恵を、そしてマッチ売りの少女の救いのない暗さはどうだろう。日本の子供には暗すぎて嫌悪感が先行してしまう。日本のお伽噺は桃太郎の生きて行くための知恵と勇気と忠誠心を教え、舌切り雀は善行の報酬と勧善懲悪を教えて明るく前向きなのだが、なんとなくお人好しで腋が甘いのである。
GLOBALIZATIONの世の中で生き抜くための幼児教育もそれなりの狡辛さが必要かもしれない。これだけ多くの日本人が海外で泥棒のかもになり、誘拐されてそして日本国内にいても拉致される現実、外交をやればOECDで国民一人当たり数百万円の国債を発行してまで他国に金をばらまき、それにも拘わらず他国に理解ばかり求めて馬鹿にされ、固有の領土さえ脅されるような腰抜け。
人間は性善だけでも性悪だけでもない。情況によって天使にも悪魔にも変身する動物である。故に最悪の事態で身を守るにはどうすれば良いのかを子供の頃から躾る事が必要である。同じ事が国家の運営にも必要である。大陸の中での民族間のせめぎ合いを2千年傍観してきた島国日本が身をもって否応なしに民族間のるつぼに放り込まれるのが21世紀の現実である。


∴∴∴∴《編集後記》∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴

笑いには、大雑把に、免疫力を高める、ストレスを緩和する、脳を活性化するという効用があるそうです。特に脳の活性化については、脳血管障害の患者に落語を聞かせて大いに笑ってもらった結果、脳の血流が増加し、まず脳が活発に働いていることを示す脳波であるβ波が現れ、続いてリラックスしていることを示すα波が現れて、笑いが脳を活性化することが実証されたそうです。
書評をはじめ、いろいろ評論することにも、自ら考えたり、動いたりで、自分らしさを発揮し、脳を活性化する効用があると思います。大いに笑うことと共に、ぜひ、いろいろな角度からの評論をお寄せください。
今号は、まさにいろいろな角度からの書評・一言になりました。ご寄稿心から御礼申し上げます。(HO)








 
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