旭山動物園、日本で最北に位置し、話題を呼ぶ動物はいないのにもかかわらず、上野動物園を上回る日本一の入園者を記録したことであまりに有名である。
本書は、その奇跡を実現した復活プロジェクトの推進者である小菅正夫園長が、さまざまな試行錯誤のなかで得てきた経験をまとめたものである。
1980年代の後半から、入園数が下げ止まらず、動物園閉鎖の危機がおとずれる。このままでは悔しい、市の予算がなくても出来ることはあるはずだと考えた時、有効に機能したのが30年間続けてきた勉強会。閉鎖の危機から脱出するため、「動物園とは何か」といった存在意義の確認からスタートして、飼育に携わる人間が知恵をしぼりあう。一度考えたアイディアを土台にして、さらに新しい考えを各自が持ち寄って再度練り直す。
そこから生まれた最大の成果は、「動物の見せ方」を根底から変えたことである。これまでの手法は動物を姿形で分類し、主に檻に入れて展示する「形態展示」、これをそれぞれの動物の持つ特徴的な動きを見せる「行動展示」というユニークな手法に変えたのである。
冬の風物詩となったペンギンの散歩、ロープを渡るオランウータンの空中散歩、アザラシの泳ぎを360度から観察できる円柱トンネル。動物たちはそれぞれの能力を発揮できる環境を与えられ、イキイキと活動する。「自分らしさ」を発揮できる環境は、活性化を促す。企業組織でも同様で、ここにビジネスモデルの原点がある。
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