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2006年1月15日 VOL.50

 

 

『国家の自縛』
著者:佐藤優  出版社:産経新聞社  2005年9月

稲田 優 
 著者は鈴木宗男衆院議員と共に外務省を壟断したとしてバッシングに遭い、2002年5月に逮捕されて1年半拘置所に拘置され、2005年2月に執行猶予つきの有罪判決を受け、なお控訴し戦っている。
2005年3月発刊の『国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれてー』は、その事件の特異さ、国策捜査の実態を余すところなく詳述し、ベストセラーとなって著者は世に認められることになった。(この本については、評論の宝箱Vol.37号、板井敬之氏の書評で採り上げられた)。
 紹介する『国家の自縛』は、前著と似通った名前ではあるが、産経新聞の元モスクワ支局長の斉藤勉氏がインタビューする形式で、著者の社会論、経済論、歴史観、文化論、哲学論が展開されており、至宝の239頁と言っても過言でない。深遠な哲学に裏打ちされながら、現実的で着実な思考方法は、次の記述にも凝縮されている。
“神とか人類とか愛とか平和とかいう「究極的な価値」は、国家や経済という「究極以前の価値」を通じてしか実現できないと私は考えています”。したがって、東大教授・高橋哲哉著の「靖国問題」(ちくま新書)を採り上げて、靖国問題にも論及し、この本が主張するところの“靖国問題から逃れるためには、必ずしも複雑な論理を必要としないことになる。一言で言えば悲しいのに嬉しいと言わないこと、それだけで十分なのだ”と書かれていることに反論する。
 “悲しいのに嬉しいと言わないこと、この倫理基準を守ることが出来るのは真に意志強固な人間だけです。悲しみを無理してでも喜びに変えるところから信仰が生まれるし、文学も生まれるのだと思う。結局のところ、悲しみをいつまでも持ち続け、耐えることが出来る人物は、一握りの強者だけになると思うんです”。
 後半で、米国のブッシュ政権を取り巻くネオコンと称される思想の潮流を採り上げ、欧米に根ざす哲学的根本思想の潮流からアービング・クリストルの思想に解説を加える当たりは圧巻と言えよう。
 最後に、“神学の場合は大半、正しい理論が負けます。間違えた理論の方が政治を使ったりして正しい理論をやっつけるんですね。それが神学の歴史なんです”。
 著者は同志社大学の神学部卒業である。すばらしい読後感の書である。




『デセプション・ポイント(上・下』
著者:ダン・ブラウン  出版社:角川書店
片山 恒雄 

 ダ・ヴィンチ・コード、天使と悪魔(以前本欄で紹介)に続くダン・ブラウンの三部作。前2作がラングドン・シリーズと呼ばれ、宗教学と西洋美術史に関する著者の博識を背景に、暗号解読を謎解きの中心に据えて話を展開していくのに対し、本書は全く趣きを異にする。
 米大統領選挙を目前にして、ハーニー現大統領は、NASA(米国航空宇宙局)が巨額の税金を費消しているにもかかわらず、宇宙開発の相次ぐ失敗から窮地に立たされている。公開討論会でこの点を鋭く突いて、NASAの民営化を主張する(どこかの総理大臣と似ている)対立候補のセクストン上院議員が選挙戦で有利に立っているのだが、そこに突然北極海の氷棚の中に、ジュンガーソル流星の破片である巨大隕石がNASAの手で発見され、その隕石に地球では見られない大きな節足動物の化石が大量に認められる。米国の著名な古生物学者・海洋学者・宇宙物理学者などにより、これは地球外生命体の化石であることが証言される。全米は現大統領のこの発表に沸き立ち、選挙戦の帰趨は一挙に逆転の気配を見せ始める。
 話の筋を追うのはこの辺に留めるが、前の2作と同様冒頭に、「関連する組織、描かれる科学技術はすべて事実に基づいている。」と記されていることもあって、描写は迫真性に満ち、ページターナーとしての著者の本領はいかんなく発揮され、意外性に富んだ終章とともに、読後に深い充足感を与えてくれる。訳者(前2作と同様越前敏弥氏)は、あとがきで読者に少し間を置いて再読することを薦めている。いかに綿密に伏線が張り巡らされているかがわかるからだという。なお、書名はあえて訳せば、「欺瞞(ぎまん)の極点」となるが、(これでは本は売れまい。)ここに、結末の重大なヒントが隠されている。





ご要望にお応えして、ジャンルを定めない自由評論コーナ ー【私の一言】を設けました。 評論の評論はもとより、社会評論等自由なご意見をお届けします。

『民主主義の輸出』
川井 利久
 アメリカの世界戦略の第一の柱は民主主義の拡大とされている。
第二次世界大戦以降、日本を始め多くの国がその洗礼に遭ってきた。しかしアメリカ流の民主主義が根付いた国はないのではないか。
 民主主義は理念としては人間社会の理想の社会構造であるが、これを社会に根付かせるには個人の確立が必須条件であり、それには封建社会を卒業して市民社会が成立して、個人の権利義務が確立される必要がある。それが出来た国は世界でも数えるほどしかない。それ故に制度としての民主主義を取り入れた国々でもその実態では独裁であったり、専制であったりで個人の自由、平等は実現されていないケースが多い。
 人権が侵されがたい権利として確立していないから、今、日本社会を暗くしているフリーターやパートの人権侵害が公然とまかり通り、社会の二極分化が進むのではないだろうか。しかし問題は然く単純ではない。アメリカですら金の力で正義がねじ曲げられたり、黒人の差別が根深く存在したり、理想とはほど遠い。
 民主主義もマルクス主義も理念としてはすばらしい。問題は人間というやっかいな動物の業をどう制御するかに懸かって来るようだ。
 
 日本には日本の、イラクにはイラクの、中国には中国の政治パターンが不可欠である。だがどのパターンであっても基本的人権は社会の合意として確立されるのが不可欠である。その意味で民主主義の輸出は正しいと言える。





 
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