ダ・ヴィンチ・コード、天使と悪魔(以前本欄で紹介)に続くダン・ブラウンの三部作。前2作がラングドン・シリーズと呼ばれ、宗教学と西洋美術史に関する著者の博識を背景に、暗号解読を謎解きの中心に据えて話を展開していくのに対し、本書は全く趣きを異にする。
米大統領選挙を目前にして、ハーニー現大統領は、NASA(米国航空宇宙局)が巨額の税金を費消しているにもかかわらず、宇宙開発の相次ぐ失敗から窮地に立たされている。公開討論会でこの点を鋭く突いて、NASAの民営化を主張する(どこかの総理大臣と似ている)対立候補のセクストン上院議員が選挙戦で有利に立っているのだが、そこに突然北極海の氷棚の中に、ジュンガーソル流星の破片である巨大隕石がNASAの手で発見され、その隕石に地球では見られない大きな節足動物の化石が大量に認められる。米国の著名な古生物学者・海洋学者・宇宙物理学者などにより、これは地球外生命体の化石であることが証言される。全米は現大統領のこの発表に沸き立ち、選挙戦の帰趨は一挙に逆転の気配を見せ始める。
話の筋を追うのはこの辺に留めるが、前の2作と同様冒頭に、「関連する組織、描かれる科学技術はすべて事実に基づいている。」と記されていることもあって、描写は迫真性に満ち、ページターナーとしての著者の本領はいかんなく発揮され、意外性に富んだ終章とともに、読後に深い充足感を与えてくれる。訳者(前2作と同様越前敏弥氏)は、あとがきで読者に少し間を置いて再読することを薦めている。いかに綿密に伏線が張り巡らされているかがわかるからだという。なお、書名はあえて訳せば、「欺瞞(ぎまん)の極点」となるが、(これでは本は売れまい。)ここに、結末の重大なヒントが隠されている。
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