暑い真夏の読書には、さらりと読み流せる本が良い。本年7月に出版されたばかりのこの本は、ユーモアもあって中身もとっつきやすい。読み易いのは内容だけでなく、活字が大きめで且つ行間も普通のものより広めに取ってあるため、視力が衰えかかっている我我中高年向きに好都合な体裁になっているからであろうか。なにしろ表題だけで夏向きと感じた。著者が新人作家としてデビューした40年前に“風に吹かれて”というエッセイ集を出した。40年ぶりに出すエッセイに“新・風に吹かれて”と名づけたのは(真夏に出版するからでなく、)72歳になった作家が もう一度作家としての<原点に立ち戻って>物事を考えようという姿勢を示したものと言える。筆者は昔住んでいた金沢市をこよなく愛している。無粋にも昭和45年に各地の町名変更が行われ、金沢市でも“主計町(かずえまち)”という町名がなくなった折には大層残念がったが、なんと平成11年にこの旧町名が回復した。筆者はその復活を大いに喜んでいる。旧町名の復活は、全国でも初めてのケースだそうである。筆者はいま、古風な一画をなす“主計町”の、名もない坂道の名づけ親を仰せつかっているのだそうである。話題はさまざまであるが、この随筆の底流にあるものは、72歳になった筆者の人生論であり、もっと言えば、気軽な“老いの迎え方”論ということが出来ようか。年配者の読後の感想としては、なんとなく気の合う友人と茶飲み話をしているような 安堵感が得られる本である。
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