最近までNHKワシントン支局長として活躍していた手嶋氏と外務省職員で現在起訴休職中の佐藤氏の両氏は、それぞれジャーナリスト、外交官として、有名な人物である。本書では、両氏がこれまでそれぞれの立場で活躍し、習得した職務上の豊富な経験を披露しつつ、今日のわが国における外交上の情報収集の体制や仕組について、他国と比較しながら、その貧弱さを痛烈に指摘している。
ここで言うインテリジェンスという言葉は、われわれにはなじみが薄いが、要は、良いにつけ悪いにつけわが国では、スパイ活動に対応できる人材が不足しており、組織体制があまりにもお粗末過ぎるというわけである。
最近の外務省には語学力に秀でたものがいない故、情報収集体制確立の前提となる人材の確保にこれから5年はかかるであろうと言う佐藤氏の指摘が、的外れでないとしたら愕然とせざるを得ない。
ただ本書で述べられているほど諜報活動の強化が、国運を左右するほど重要なことかどうか、私としては若干の疑問が残る。
莫大な予算を投じて諜報活動に力を注いでも、例のイラク大量破壊兵器に関するCIA情報の使われ方などを見ていると虚しさを感じざるを得ない。
情報の選択力とそれに対する適切な判断力こそが為政者に求められるところであろう。
“公開されている情報を再整理することで 秘密情報の98%が得られる”とも認める佐藤氏と、ドキュメンタリー風小説“ウルトラダラー”で実績を上げた手嶋氏の対談形式の本書は、とにかく週刊誌的手軽さで読めるものである。蛇足ながら、冬幻舎新書創刊の一翼として、商業的意義は十分果たしている。
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