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■2012年1月15日号 <vol.194>

書評 ─────────────


・書 評   浅川博道 『清貧と復興−土光敏夫100の言葉』
           (出町譲著  文藝春秋)
           
・書 評  堤 貞夫 『「いい会社」とは何か』 
           (小野泉+古野庸一著  講談社現代新書) 
 
・私の一言 櫻田 薫 『ニューヨークタイムズno面白い記事』



2012年1月15日 VOL.194


『清貧と復興−土光敏夫100の言葉』
 (出町譲著  文藝春秋)  

浅川博道    

今回の歴史的な大震災を契機に、われわれのモノの考え方やライフスタイル が変化しはじめている。身近な例では、節電意識の徹底で照明は暗くなった し、冷暖房の設定もぎりぎり。エレベーターも半分くらい止まっていた。
これが一過性のものか、質素でつつましい生活への回帰か。速断はできない が、変化への転機であることは事実だと思う。

質素な生活といえば思い浮かぶ人物、それは東芝社長や経団連会長などを歴 任した土光敏夫氏である。古い話だが、29年前、NHK特集「85歳の執念― 行革の顔・土光敏夫」が放映され、横浜の鶴見にある質素な家と台所で妻と メザシを食べるシーンが一躍有名になった。その土光氏が91歳の生涯の間に 遺した言葉をまとめたものが本書。内容は多岐に亘るが、今この国が置かれ た状況の中で、耳を傾けるべきいくつかの言葉を取り上げてみたい。

「今までは、物質的に一生懸命やってきたが、今後は人間も含めた問題とし て対応していく必要がある。科学進歩も大事だが、全体に将来をみてやらな ければいけない。21世紀の社会は、“カネさえあればいい”ということはな くなるだろう。多量消費もなくなる。過去の思想でいえば、シンプルライフ」。

価値観の転機が求められている今、深く噛みしめたい言葉である。

「同じ地域に住みながら、人と人とのつながりが、ずいぶんと薄れてしまっ たような気がする。さびしいね。ボクはね、人間関係の基本は、思いやりだ と言っとるんだ。近隣に困っている人がいれば助け合う」。

これからの復興には、人と人との絆の大切さが改めて問われている。

「総理大臣は、自分のエゴをむき出していては出来ない仕事なんです。
その意味では、最も損な役回りですよ。だから本来なら誰も総理大臣になり
たがらないはずのものなのです。ところが、現実はその逆で、誰も彼もが総
理大臣になりたがっている。

総理退陣の時期をめぐってこの混乱や代表選での茶番劇をみると、絶望的な 気持が先立つが、この国の将来を思うと無私のリーダーの登場を切に望みたい。

『「いい会社」とは何か』
(小野泉+古野庸一著  講談社現代新書) 

堤 貞夫   


この数年私が関心を持ってきたことは、企業の中で「個人と組織」の関係が
大きく転換しているのに対し、経営の理念がどのように変化し、人事制度、
人の活かし方がどのように対応してゆくのだろうか、ということであった。
 
「いい会社」とは何か、という本は、序章「個と組織の関係がおかしい」か
ら始まっている。
・経営者からのメッセージが伝わらない。
 一方、職場からの情報も経営者に伝わっていない。
・ミドルマネジャーにプレッシャーが集中しているため、キーになる彼らが
 火を噴いている。
・求められる専門性が高くなり、隣のメンバーが何をしているのかわからない。
 手伝えない。
・職場のコミュニケーションはメール対メールで動きが見えない、目標設定も、
 評価も大変だ。
・昔の成功体験は役に立たない。顧客の要望は高度になり、とんでもない
 クレームも出る。
・コストダウンのため多様な雇用形態をとっていて、お互いが責任のなすりあい
 をする。
・経営の方針は毎年変わる、環境の変化で仕方がないが、文字通り右往左往だ。
 その結果、会社の最高経営層に対する信頼感は大幅に低下、仕事のやりが
いについても、低下の一途であり、メンタル不全者の増加、雇用不安者も約半数
の人に及んでいる。

 そこで、第1章「個と組織の関係の変遷」では、バブル経済以前から現在に至る 個と組織の関係について説明されているが、キーワードで年代をつなぐと、
「日本的経営の3種の神器」から、「バブルの崩壊」、「グローバルスタンダードの 時代」、「人への再注目」の方向になってきている。
あらためて個人と組織のあり方を考えなければならない時代になっていることを
意味している。
「一体感のある共同体」をどのように再構築するかが、「いい会社」を考えるキー になる、という。
 現代においても昔と同様、従業員は会社から大切にされているという実感を持
ちたい、人として扱われたいと願っている。個人にとって「働きがい」とは何かとい うことを再考し、会社としてどんな施策がいいのかを考えてみる必要がある、 というのがご両者のお考えである。

 第2章「働きがいを求めて」では、ドラッカーが「ポスト資本主義社会」における 「知識労働者」の生産性向上が21世紀の偉業になると指摘したように、このよう な人たちは金銭的な動機ではなく、内発的動機、自分のアイディアが活かされ、 仕事そのものから満足が得られることを望んでいるので、「いい会社」とは「働き がい」のある会社であり、意味のある仕事が出来ることが必要である。そのため に、経営者は理念を全員に語りかけ、業績の高い社員を表彰し社員のライフイ ベントにも配慮する。成長の機会を与え、お互いの成長をたたえる。社員一人 ひとりと向き合い、一人の人間として扱うことが大切である。社員の方では、そ の企業に属する存在意義を見出し、自ら働く意味づけをして人は働く。いい会社 は、働くことに関して上手に意味づけてくれる会社でもある。
 日本の場合、知識労働者はいわゆる専門職だけではなく、多くのホワイトカラー、 販売員、工場の作業者、サービス業従事者、農業従事者なども知的労働者に変 えてゆき、あらゆる面での付加価値化を図ることが、グローバル競争に生き残る 道であると考えられる。

引き続き、
第3章「いい会社」が行っていること、
第4章あらためて問われる社会の中での存在意義、
第5章一人ひとりと向き合う、
第6章二つの重い問題、と進んで、
具体的な会社の実例、雇用と人材マネジメントに関する調査、働きがいを促進す
る施策、などが紹介される。
要は、個人と会社の信頼形成であり、ヒューマニズムの問題ではなく、コストとパ ーフィマンスの関係の問題として行うことなのだ、というのは、まったくその通り、 と掛け声をかけたくなる。

私の仕事は、人々が仕事の中に如何に生きがい働きがいを見つけていくかに関し
て、個人との相談(カウンセリング)を通じ、最も自分に合った働き方を実現できる かの手助けをしていくことなので、これまでの企業主導型で個人の働き方を決めて いくのではなく、個人の生き方を主体とする考え方に、企業経営の方が合わせて ゆく姿勢になってゆかないと、およそ実現できないことなのである。人材育成の視 点から言えば、企業効率から個人の人間軸尊重に経営のパラダイムの転換をし なければならないのである。

「企業は人なり」といいながら、この10数年の経営にその余裕がなく、一人ひとりの 生き方を尊重し、人の能力を引き出す経営の原点に戻ることが出来なかったが、 ようやく、このような具体的でわかりやすい論考が発刊されたことは喜ばしい。
多くの方々に共感されることを望みたい。

筆者の小野氏は組織開発コンサルタント、古野氏はリクルート育ちでキャリア
開発研究に長年従事されており、企業の実状に対して強い志を持って書かれて
いることに敬服させられる。

 

ご要望にお応えして、ジャンルを定めない自由評論コーナ ー【私の一言】を設けました。 評論の評論はもとより、社会評論等自由なご意見をお届けします。

『『ニューヨークタイムズno面白い記事』
 桜田 薫 



北京の精華大学ヤン教授は、ニューヨークタイムズ(11月21日)に
『中国は如何にして米国に打勝つか(How China can defeat America)』
という刺激的なタイトルの論説を投稿した。その要旨は以下のとおりだ。
世界経済で急速に影響力を増し、軍事力強化も進む中国と米国の対決は避
けられない。両国指導者は楽観的だが、歴史の教訓によれば、勃興する国
家は地球上で更なる権威の増大を求めるものであり、衰えつつある国家が
戦わずして没落することは稀だ。両国の政治体制の違いを考えると、悲観
論者が戦争の可能性さえ予想するのも無理はない。

国家間の権力闘争では、軍事と経済だけでなく道徳が決定的な役割を果た
す。2000年以上前、小国が群小割拠した春秋戦国時代の中国は、孔子
、孟子、荀子など有力な思想家を輩出した。荀子はリーダーシップ
(統治する力)を人道主義、覇道主義、専制の3タイプに分けた。

人道主義は国内でも外国でも人の心を掴んだが、専制は武力を背景にする
ので必然的に敵が生まれた。覇道は両者の中間で国民を欺かないが、道徳
的な配慮を欠き敵対者には暴力を用いた。暴虐の始皇帝が統一した秦の統
治期間は短かったが、儒教を採用した漢王朝は長く続いた。人道的な支配、
すなわち道徳面で信任を得たリーダーシップが重要ということだ。

キッシンジャーも「古代中国の思想は、いかなる外国のイデオロギーより
中国の外交を支える有力な知的パワーになるだろう」とヤン教授に言った。
中国の驚異的な経済発展は事実だが、それだけで世界のリーダーにはなれ
ない。米国は世界に中国よりはるかに多くの友好国を持っており、50以
上の国と軍事同盟を結んでいるが、中国は事実上ゼロだ。米国との競争の
中核は、どちらがより多くの上質な友人を持つか、ということになるだろう。

その目標を達成するには中国は米国より優れた道徳的リーダーシップを提供
しなければならない。また中国は新興国であるが、地位にふさわしい責任が
あることを自覚する必要がある。それでは中国は如何にして世界の人々の心
を掴むことができるだろうか?古代中国の思想家に従えば、それはまず国内
で始めなくてはならない。人道的統治を目指して外国の人々を鼓舞する理想
的なモデルを国内で創造しなければならない。それには政策の優先順位を経
済発展からシフトし、現在の大きな貧富格差をなくした調和社会を築くこと
だ。拝金主義を伝統的な道徳に変え、社会正義と公平のために政治的腐敗を
説滅することだ。

言論の自由に制約がある中でヤン教授の言説は控えめだが、現在の中国の貧
富格差や党、官僚の腐敗は想像を超える。古代思想家の教訓を引用して
「人道的な支配をする国が勝利する」と論じた教授の真意は、米国との対決
をダシに中国共産党独裁の現状を批判し、改善を迫っていると解釈できる。

 

 


あることをしている時に、突然全く関係のない別のことを見つける能力は、
偶察力(セレンディピティ)と呼ばれ、「思わぬものを偶然に発見する能力。
幸運を招きよせる力」と説明されているようです。
世の大発明と言われるものには、この偶察力によるものが数多く存在し、我
が国でもこの能力を利用しての再度の成長が期待されているようです。

この能力は誰でも持っているもので、それを高めるコツは、
色々なことに興味関心を持つこと。
こだわりを持って、探求すること。
新しいことに積極的に挑戦すること。
だそうです。
今年は、幸運を招きよせる偶察力(セレンディピティ)を活性化し閉塞感を
打破したいものです。
今号も多面的なご寄稿をいただきありがとうございました。
皆様には本年がいい年であることを心からお祈り申し上げます。
(H.O)





 
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