今回の歴史的な大震災を契機に、われわれのモノの考え方やライフスタイル が変化しはじめている。身近な例では、節電意識の徹底で照明は暗くなった
し、冷暖房の設定もぎりぎり。エレベーターも半分くらい止まっていた。
これが一過性のものか、質素でつつましい生活への回帰か。速断はできない が、変化への転機であることは事実だと思う。
質素な生活といえば思い浮かぶ人物、それは東芝社長や経団連会長などを歴 任した土光敏夫氏である。古い話だが、29年前、NHK特集「85歳の執念―
行革の顔・土光敏夫」が放映され、横浜の鶴見にある質素な家と台所で妻と メザシを食べるシーンが一躍有名になった。その土光氏が91歳の生涯の間に
遺した言葉をまとめたものが本書。内容は多岐に亘るが、今この国が置かれ た状況の中で、耳を傾けるべきいくつかの言葉を取り上げてみたい。
「今までは、物質的に一生懸命やってきたが、今後は人間も含めた問題とし て対応していく必要がある。科学進歩も大事だが、全体に将来をみてやらな
ければいけない。21世紀の社会は、“カネさえあればいい”ということはな くなるだろう。多量消費もなくなる。過去の思想でいえば、シンプルライフ」。
価値観の転機が求められている今、深く噛みしめたい言葉である。
「同じ地域に住みながら、人と人とのつながりが、ずいぶんと薄れてしまっ たような気がする。さびしいね。ボクはね、人間関係の基本は、思いやりだ
と言っとるんだ。近隣に困っている人がいれば助け合う」。
これからの復興には、人と人との絆の大切さが改めて問われている。
「総理大臣は、自分のエゴをむき出していては出来ない仕事なんです。
その意味では、最も損な役回りですよ。だから本来なら誰も総理大臣になり
たがらないはずのものなのです。ところが、現実はその逆で、誰も彼もが総
理大臣になりたがっている。
総理退陣の時期をめぐってこの混乱や代表選での茶番劇をみると、絶望的な 気持が先立つが、この国の将来を思うと無私のリーダーの登場を切に望みたい。