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■2010年1月15日号 <vol.146>

書評 ─────────────
 
・ 書評    前川 彬『老いるということ』
            黒井千次著(講談社 現代新書)

・ 書評    桜田 薫『ニッポン社会入門』英国人記者の抱腹レポート
            コリン・ジョイス著 (NHK出版)

・【私の一言】 幸前成隆『学は、一生の負担なり』





2010年1月15日 VOL.146


『老いるということ』
著者:黒井千次   出版社:講談社 現代新書
前川 彬   
 本書は、著者が講師を務めたNHKラジオ講座のテキストに大幅の加筆・修正を行い、新書の一冊として刊行されたものである。200ページ余の本であるが、中味の濃い随筆を読んだ時のように、読後しみじみと「老い」について考えさせられた。それは、身近なテーマというだけではなく、本の構成や文章の表現によく表れているが、小説家である著者の読者を引き込む力量によるものと思われる。

 著者は、本書において、内外の「老い」を主題とした著作(映画を含む)を選び、そこに表わされた「老い」の諸相を紹介し解説している。そこから、長い老後を生きなければならない現代において、人は「老い」とどのように向き合えばよいのかを探ろうという試みをしている。

 とりあげている著作は、外国では、古代ローマ時代のキケローの「老年について」にはじまり、二十世紀のE・M・フォースター(イギリス)やマルコム・カウリー(アメリカ)など、日本では、深沢七郎の「楢山節考」や芥川龍之介の「老年」のほか、幸田文、太宰治、島崎藤村、伊藤整、萩原朔太郎などときわめて多彩である。また内容も、「老いと時間」、「老いの年齢」、「老いの形」、「老いと病」、「老いと性」など十二章にわたりそれぞれ関連付けながらも視点を変えて飽きさせるところがない。

 最終章が「老いのまとめ」になっているが、著者は、「先人の示したものは、老いる道案内ではなく、各人の模索や試行の現場報告であって、垂訓というよりむしろ老いの探究への素材の提起として受け取るべきであろう」と言い、それに続いて、「老年は七十代を過ぎて日常のものとなるが、たとえそれが心身の衰えを含む下り坂の日常であるとしても、やがて訪れるであろう死に徒に思いを馳せるより、この現在進行形の老いの日常を刻々踏みしめることの方がより意味があると思われてならない」と述べている。これが、七十代の半ばにさしかかってなお老いの景色がはっきりとは見えないと言いながらも、著者が到達した一つの結論と言うことになるのであろう。


『ニッポン社会入門』英国人記者の抱腹レポート
 著者コリン・ジョイス  出版社:NHK出版

桜田 薫   


 著者は英国の日刊紙デイリー・テレグラフの元東京特派員で、92年から日本で生活している。本書は東京の魅力から日本人、日本語の特性までいろいろな話題に触れており、私たちの気がつかない発見もあって面白い。照れくさくなるような、しかしわさびの利いた日本賛歌のいっぽうで同胞英国人の悪口も並べる。日本では紳士のモデルとされているが、欧州大陸では英国人はサッカーのフーリガンと同一視されている、といった具合だ。
 東京にはロンドンやパリにあるような代表的な観光名所はなく、古い町並みの景観も乱開発で破壊されているし、公園も極めて少ない。しかし芭蕉の像の立つ隅田川の周辺など静かな地区や特徴のある小さな博物館が至る所にあって楽しめるなど東京を弁護する。銭湯の魅力は意外な発見だが、新しい政府の観光立国政策の参考になるかもしれない。
 日本で英国の食事は評判が悪いが、紅茶、プッディング(デザート)、チーズなど美味しいものが沢山あることを日本人は知らないだけと反論もする。あるレストラン専門誌によると世界最高レストラン上位50位中14までが英国にあるそうだ。ウースターソースやサンドイッチも英国の発明だ。
 このような生活雑感だけでなく、世界での日本の存在感低下を気が付かせる深刻な話もある。記者が本社に送る日本の政治、社会、経済に関する重要な原稿が殆ど採用されないというさびしい現実だ。英国人読者の日本に対する関心レベルの問題もあるが、「デキチャッタ婚」とか「踊るロボット」といったキワものの話題のほうが好まれるという。一般に東京特派員は重要なポジションではないらしく、英国最大部数を誇る新聞で、欧米の記事が中心になるのは当然としてアジアでも中国やインドの記事のほうが日本より多い。全体に英国人の特徴であるユーモアが溢れて、私は一気に読み終えた。

 

ご要望にお応えして、ジャンルを定めない自由評論コーナ ー【私の一言】を設けました。 評論の評論はもとより、社会評論等自由なご意見をお届けします。

『学は、一生の負担なり』
幸前 成隆

「学は、一生の負担なり。まさに斃れて後、已むべし」(言志後録)。
学問は、一 生続けなければならないこと。死ぬまでやめてはいけない。佐藤一斎の言葉である。
孔子は、「十有五にして、学に志し」(論語・為政)、七十三才でこの世を去るま で、一生学問に励んだ。

葉公が、子路に、孔子の人となりを尋ねたことがある。そのとき、子路は、何も答 えなかった。孔子がこれを聞かれて、子路を叱った。
曰く、「女(なんじ)、なんぞ日わざる。その人となりや、憤りを発して食を忘れ、楽しみて以て憂いを忘れ、老いのまさに至らんとするを知らざるのみ」(論語・述而)。

ぜん求(ぜん有:人名)が、力不足でついて行けませんと、音を上げたことがある。「子の道 を説ばざるには非ず。力、足らざるなり」(論語・雍也)。

孔子は、お前は力不足ではない、自分で見限りをつけたのだ、しっかりしなさい、と諭した。日く、「力足らざる者は、中道にして廃す。今、女は画れり」(同)。

呂新吾が、これを解説して、ぜん有は気力が足りないのだ、士君子は気力を養わなければいけないという。曰く、「士君子は、心気を養わんことを要す。心気一たび衰うれば、天下の万事、分毫も做し得ず。ぜん有は、ただこれ箇の心気足らざるなり」(呻吟語・存心)。  荀子も、「学は已むべからず」(荀子・勧学篇)という。

老いても気力を養ない学に励むことが肝要ということであろう。

 

 

 既に1月も半ばになりました 。新年はいかがお過ごしでしょうか。
日経紙に、”米国際教育研究所によると、08年現在の米国への留学生数は過去最多であり、上位5カ国はインド、中国、韓国、カナダ、日本の順。前年に比べた増加率は、中国の21.1%を筆頭に、インド9.2%、韓国8.6%、カナダ2.2%なのに対し、日本はマイナス13.9%である。”という記事がありました。
米国への留学生が大きく減少している状況は、何を意味しているのでしょうか。
現代の若者も現在の政治状況と同様に、内向き指向に陥っているのでしょうか。

 日本の現状からして、創造的な人材が出て、早く新しい日本を築き上げてほしいものです。 そのためにも老人パワーを活かしたいものです。(HO)




 
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