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■2011年6月15日号 <vol.180>

書評 ─────────────

・書 評     堤  貞夫 『言葉でたたかう技術
               ー日本的美質と雄弁力ー』
               (加藤 恭子 著   文芸春秋)
               
・書 評     亀山 国彦 『白団(パイダン)
               ー台湾軍を作った日本軍将校たち』
               (中村 祐悦 著   芙蓉書房出版)

・【私の一言】  吉田 龍一 『コミュニケーション』


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2011年6月15日 VOL.180


『言葉でたたかう技術 ―日本的美質と雄弁力―』
 (加藤恭子著 文芸春秋)  

堤 貞夫   



東日本大震災のニュースの中で、あらためて日本人の美質と弱点について、最近出版された加藤恭子先生のご本を紹介したい。

加藤恭子先生の名前を知ったのは「こんなふうに英語やったら」という本で、実に頭の良い人がいらっしゃるものだ、と爽快な記憶が残っているが、30年以上前のことであった。その後、「伴侶の死」で、あらためてこの方の積極的な生き方、素晴らしいご主人の全体を理解できた。まだ人種差別も残っているが、最も元気な時代のアメリカでの学生生活。その後、日米を往復しながらお互いの研究生活を追求し、文字通り、苦楽を共にされたご主人の突然の病気と死。どうしても受け入れがたい気持が、「伴侶」の生き方、働き方を自分で徹底的に調べることになる、というのも、この方ならではと感心したものである。

今回のご本は、最近になって頻発している近隣職国との外交問題への対症療法などとは、全く違うものであることをお断りしておかねばならない。むしろその反対で、日本人と外国人の歴史の違い、文化の違いがどこから来ているかを、生活の中の実例を通して、具体的に示し、違いを生かすこと、違いを理解することの必要性を教えてくれる。


1、日本人学生の論文は雲のようにつかみどころが無い、という指摘から。
欧米人の学問の基本はアリストテレスの「弁論術」にある。論文は自分の論点が正しいことを証明し読み手を説得することである。ギリシャの昔から討論によって物事が決められる。言葉の力が事を決めるが、言論には3つの種類がある。(A)語り手の性格、信頼性に依存するもの。(B)相手を良く知り、相手の心を動かすもの。(C)真実でなくともそのように見せる証明、言論そのものの力で自己の正当性を主張するもの、という。

それに対し、日本の文化的背景では、自然や物事、出来事があちこちから語りかけてくるのを待つ。論文でも、あまりびっしりと論理的に書くとゆとりが無いものになる、という。


2、日本人の美点と弱点 
加藤さんは、「伴侶」の死後、大学講師をされているとき「私は日本のここが好き」という企画で、54人の外国人に日本のよさについて語ってもらい、それをまとめる作業をされた。この本でもいろんなエピソードを交えて、日本の美点、弱点を興味深く紹介されている。

○「おしゃべり」を卑しむ文化。これは「弁論は力なり」の対極にある考え方だ。
○謙虚、正直、思いやり、繊細、は私達の美点だが、対立的な場では逆になりうる。
○顔と表情。特に“笑い“について。”パーセプションギャップ“を招きやすい。
○言いにくいことを説明しない。対立を恐れる。こちらは善意でも相手には通じない。


3、外国人との交渉術、日本の未来のために
そして、具体的な外国人との交渉術と日本人への提言については、本を読んでいただくしかないのだが、気になった2つの例を挙げておこう。

1)リメンバーヒロシマと、リメンバーパールハーバーの混同。あの卑劣な攻撃を忘れるな、ではなく、あの悲惨さを招いてしまったことへの後悔、世界の平和に努めたいという平和主義的な誓い、であることは日本人には当たり前であるが、それを外に対し発信し続けること。アラブ世界では日本は原爆への復讐を意図しているはずだ、と思っている。

2)「菊と刀」の、欧米は「罪の文化」、日本は「恥の文化」の誤解。
恥とは他人の目に対するもの、というのは自分自身の目も含む。人の目のないところでは悪いことをしてもかまわない、と理解している人がいるのは、ベネディクトがこれを書いた背景が日米は第2次大戦中で、敵である日本をどう理解するか、にあったからである。

日本を知る人たちの高い評価をさらに広め、真に日本的な何物か、が世界の人たちのためにも役立つように日本人の発信力を磨き、強めようではありませんか、が結論である。

 

『白団(パイダン)  −台湾軍を作った日本軍将校たち』
(中村祐悦著 芙蓉書房出版)

亀山 国彦   



国民党軍が、根本元陸軍中将らの指導で、金門島を共産軍の攻撃から守った史実の背景を探っているうちに本書に辿り着いた。ジャーナリストである著者は、生き残りの関係者等から直接取材して本書を著している。
第二次大戦終了後、中国大陸では国共合作が崩壊し、国民党軍は共産軍により大陸から追い出される寸前であった。蒋介石(元日本陸軍将校)は、大戦中、敵軍にあった岡村寧次(やすじ)元陸軍大将(元支那派遣軍総司令官)に、旧日本軍幹部士官による国民党軍再建の支援を要請した(根本元中将の件とは直接関係がないようである)。当時の国民党軍将兵は、満足な教育を受けておらず、士気も低下しており、蒋介石にとっては、旧日本軍のマネジメントが大陸反抗に不可欠だったことが背景にあり、また、アメリカは、この時期、国民党を見限る姿勢を見せたこと、その後も、国民党にはアメリカ流の軍隊を維持する財力がなかったためでもある。
他方、岡村は、戦後処理にあたって、天皇制存続を是とし、賠償請求を放棄し、分割占領に反対し、大陸に残留した日本人も、拘留することなく食糧 まであたえて帰国させた、「徳をもって怨みに報いる」蒋介石の器量の大きさに感服していた。岡村自身も戦争犯罪について中国内で無罪判決を得ており、中国大陸の赤化を防ぐ必要があると考えていたことからも、蒋介石の申し入れを承諾。占領下で苦労して、数人の旧士官を台湾に密航させた。旧軍人の失業救済という側面もあったようだ。

これが、「白団(パイダン)」(団長である富田直亮元陸軍少将が使っていた中国語での偽名「白鴻亮」に由来。)と呼ばれる元日本軍将校軍事顧問団に発展した。総勢83名の団員によって台湾軍教育を担当し、台湾軍が表向き米軍の教育を受けるようになっても、裏では「白団」による台湾軍若手将校の育成が残り、1969年まで通算約二十年続き、台湾軍の基礎を築いた。「白団」は、台湾軍士官の教育に加え、その教育システムも (必要な教本入手などは日本にあった旧日本軍将校らが協力)、また、それまでなかった台湾軍の徴兵制をも確立させたという。

評者は、日本と台湾の絆のひとつを見つけた思いを持ったが、加えて、国際情勢を良く見通し、恩を売って旧敵国軍の力を自国軍強化に役立てた、蒋介石の政治力に強い感銘を受け、韓国等アジア各国建国・建軍時の旧日本軍とのかかわりについても探って見たいとの欲求に駆られた。

 

ご要望にお応えして、ジャンルを定めない自由評論コーナ ー【私の一言】を設けました。 評論の評論はもとより、社会評論等自由なご意見をお届けします。

『コミュニケーション』
 吉田 龍一 


過日、菅直人内閣に対する不信任票が反対多数で否決されました。 当日未明まで可決される可能性が高いと思われましたが、前首相との会談以後事態は一変しました。前首相は、会談内容を「復興基本法の成立、第二次補正予算の早期編成をメドとして退陣する」と語り、その時期は「夏が来る前」としたと伝えられました。一方、首相は退任時期の明確な発言はせず、その後「言った」、「言わない」の喧嘩が始まり、コミュニケーションのあり方の難しさを教えてくれました。

コミュニケーションを日本語で言えば「 伝達」ということで、つまり伝えること、それが相手に達し理解されるということです。さらにその結果何らかの結末が生ずるということです。これがコミュニケーションの本質ですが、最近、コミュニケーションは、単に「伝える」と思われがちのようです。上記の争いも自分の考えが伝わったと思ったが、現実には色々の思惑から理解されなかった結果ということでしょう。

日本を取巻く内外の情勢は極めて厳しいものがありますが、この状況のもとで、表面的なコミュニケーションでは世界には伍せません。言葉の本質を理解し、併せて、それは結果をうるための手段であるということも認識し、円滑な事の推進、折衝を図る必要があるといえます。

 

 

わが国の政治の動向は梅雨以上に湿っぽくジメジメと見通しの悪い日々が続いていますが。パートナーであった人からペテン師と呼ばれれる人が、一国のリーダーであることからすれば当然の結果といえます。
「小才は縁に気付かず、中才は縁を活かさず、大才は袖すりあう縁を生かす。」といわれます。大才が出現し人を裏切ることなく可及的に新しい政治の展開が図れることを心から祈念したいと思います。
本号も、多面的なご寄稿をありがとうございました。(H.O)





 
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