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■2009年12月1日号 <vol.143>

書評 ─────────────
 
・ 書評    堤 貞夫 『凄い時代 _勝負は2011年』 
             堺屋太一著 講談社

・ 書評    石川 勝敏 『日中戦争』 
             北村 稔著 林 思雲 PHP研究所

・【私の一言】 クレア恭子 ロンドン便り(6)『優しい気持ち』





2009年12月1日 VOL.143


『凄い時代---勝負は2011年』
著者堺屋太一   出版社:講談社
堤 貞夫    

 ご存知、堺屋太一氏の最新の本だが、私はこの方の本を「団塊の時代」から時々ではあるが継続的に読んでいて、いろいろと教えられることが多い。
 今回は、「凄い時代」という表題になっているが、1年前は大昔、2年後はまったく新しい世の中になるだろう、そのときに備えて何をしておくかというのが、基本的なプロットになっている。1年前とは、インフレと地球環境を心配した洞爺湖サミット、2年後とは、100年に一度の大激動の後、少しの回復に続く「2番底」の到来に続く時代である。
凄い時代の内容を説明するより、私が得たメリットの感想を述べてご紹介とする。

 堺屋さんは、はしがきの中で「私はこの本を長い時間をかけて書いた。」と書いておられる。この本は、確かに時間的にも空間的にも一段と多くの切り口があって、それぞれを丹念に調べ、堺屋さんなりの解釈をしていただけるという点では、大変ありがたい。

 最初にあげるこの本のメリットは、この数十年の歴史から、そうだったかと思うことが、なぜ、そうなったのかという解釈により整理され、世界の方向が示されていることである。堺屋氏が以前から主張されている「知価社会」の考え方が基本になっており、「人間の幸せは物財の豊かさ」ではなく「満足の大きさ」であるということは、心理学でも学ぶ通りで、納得出来る。知価社会(モノ離れ)に進んだアメリカは、ペーパーマネー体制が過剰に働いたことによる損失をこうむったとはいえ、経済の回復とともに次の「全き知価社会」に進むだろう。最適工業社会を作り上げ、東京一極集中、地方の疲弊を招いている日本は、知価世界の方向からは大きく遅れているということである。
 次に、世界各国の現状・課題が具体的な事実とともに説明され、世界の現状をさまざまな切り口から俯瞰することができる。毎日の新聞を読んでいるだけの私などは、このように一括して世界の現状を見ることは大変便利なことである。米、欧、中に加えインド、ブラジル、ロシアの現状や、商品市場・国際金融の成り立ちが、歴史的な事実や今後の方向と一緒に一望でき、情報収集とともに視野が広がったいい心持がする。

 最後に、「今こそ『明治維新』的改革を」で、知価社会に遅れ、『物』にこだわっている日本は、今こそ明治維新的改革、武士の身分廃止、廃藩置県、税財政の抜本的改革、教育、情報公開の改革が必要であり、今日の日本が誇れるのは、世界に先駆けている高齢化の活用で、高齢者が誇りと楽しみを持って生きられる「好老文化」の形成が日本のパワーになるだろうといわれている。
高齢労働力の活用の技術、高齢者の心理の研究、市場の開発など、「高齢者学」の開発が必要といわれる部分は、その通りと、声をかけたいところだ。


『日中戦争 … 戦争を望んだ中国 望まなかった日本』
 著者北村 稔、林 思雲  出版社:PHP研究所

石川 勝敏   


  この著書は従来の歴史観念―侵略を起こした日本と侵略された中国―という枠組みを外し、日本と中国の研究者が、柔軟な観点から日中関係と日中戦争を共同分析している。
北村氏は京都大学文学部卒、立命館大学教授、法学博士。林氏は南京大学卒業、九州大学工学部で博士号取得 他に日中関係著書あり。
著書では1930年代に発生した日中戦争をドイツやソ連との関係を含む国際政治の中で分析している。北村氏が強調しているのは、日本側が中国との和平工作を何度も試みたこと、日本が三国同盟をむすぶドイツは、日中戦争中も中国国民政府に大規模の武器援助と軍事指導を行ったこと、国民政府は見返りとして希少金属のタングステンを提供し、ドイツの軍備を支えていたことである。

 林氏が明らかにしたことは、日中戦争開始前の中国では、農民を除く都市の住民は日本との戦争を熱望し、勝利を確信していたことである。
中国軍が緒戦で大敗すると都市の住民は抵抗を放棄し兵役を逃れ、農民が兵士となり悲惨な待遇の中で戦争を戦ったこと。占領した都市の住民の食糧確保のために日本軍は傀儡政権との協力のもと農村から食糧を強奪したが、これが農民に共産党を支持させた最大の原因であること等が詳細に論じられている。

林氏は更に中国の伝統的歴史観をも解説している。それは中国における『罪と罰』の考え方と伝統的社会心理である『忌避』である。
中国では、罪は死んでも終わらない。千古罪人であり、刑罰を受けても罪は消えない。時効の概念はない。
春秋穀梁伝によれば、孔子は春秋を編纂するさい『忌避』の原則をたてた。即ち偉人のためには醜いことは隠さなければならず、高尚な人物のためには過ちを隠さなければならない。

 中国人は現在国家自体を偉大な人物と同様に見なしており、国家の醜い出来事をかくし国家の過ちを隠すことが中国人の基本的義務となっている。国のために虚言を弄し嘘をつくのは賞賛に値する。このような忌避文化を背景にしているので、中国では事件の真相究明が困難である。南京虐殺事件然りである。

 

 

 

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ロンドン便り(6)『優しい気持ち』
クレア恭子

 ヒットミュージカルを次々と生み出し 本年のヨーロヴィジョン・歌謡大会では英国の地位をかなり挽回してくれた著名作曲家のAndrew Lloyds Webber氏(61歳)が前立腺癌の治療を受けているとの報道があった。すぐに回復して仕事に復帰するはずとか。ああ、貴方も-- と思わずニュースに聞き耳を立てる。
 最近のサンデータイムズによると前立腺癌の予防接種が間もなく可能になるそうである。ただ 彼にとっては手遅れ。この癌にかかりやすい年齢は60歳。そういえば 誕生日を目前にした主人宛に『家庭で簡単に検査ができる器具を送付する』とNHSより連絡があった。本人はもちろん喜んでいない。

統計によると3人に一人が癌患者。ただ、近年の医学の発展には目を見張るものがあり、癌告知は『死の宣告』とは言えなくなった。5年以上生きる乳癌患者は2007年の統計で78%にのぼり、最低5年という長期にわたる治療が本人および周囲の人へ及ぼす影響の認識と対策が必要、とタイムズの論調は続く。XX癌になりやすい染色体が発見された、とか 心が躍るような新薬発見の記事が 連日の如く新聞を賑わす。 NHSは高額の薬代捻出に悩んでいる。反面、検査の結果がいい加減だったり間違っていた為に手遅れになった不運な人々の怒りの声も聞こえてくる。
※NHS(National Health Service):イギリスの国営医療サービス事業 (編集部注)
 
 Sさんは3年前に検査で乳癌が見つかり、科学療法とラジウム治療を受け一時は髪の毛を失ったが、今は元通り元気に仕事を続けている。Kさんは2度手術を受けたが勤務継続。食事には神経を使っておられる。「病気になってからは、毎日、元気に過ごせるだけで感謝。優しい気持ちになったわね。」とSさん。そう、同感。怒りや憎む気持ちが消えてしまった。
 残念ながら英国の癌対策は大陸各国に比してかなり遅れており 生存率が低いそうである。民間・政府が一丸となって研究を続け、的確な情報交換を続ければ きっと世界中で『癌』を克服できる日がくるものと信じている。

 

 

 

 『大知は閑閑(カンカン)たり、小知は間間(カンカン)たり。大言は炎炎(タンタン=淡淡)たり、小言はセンセンたり。』という言葉があります。
大知のあるものはゆったりとして落ち着いているが、小知のものはこせこせとして、こまごまと穿鑿(せんさく)する。偉大なことばは、あっさりと淡泊であるが、つまらぬことばは、いたずらに口数が多く煩わしい、という意味だそうです。また、小知は亡国の端(いとぐち)という言葉もあります。
最近、テレビで予算編成に係わる事業仕分けの映像をよく見ます。小知によらない議論が行われ、大知による予算編成が行われることを期待したいものです。
 今号もご多忙の中、ご寄稿有難うございました




 
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