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■2009年4月1日号 <vol.127>
書評 ─────────────

・書評   今村該吉  『日の砦』   
             黒井千次著   講談社文庫 
・書評   岡本弘昭  『花の履歴書』  
             湯浅浩史著   講談社学術文庫

・【私の一言】 岡田桂典 『シンガポール便り(19)』






2009年4月1日 VOL.127


 

『日の砦』
著者黒井千次    出版社:講談社文庫

今村 該吉    

 老人を主人公とした小説、いわば老人文学である。
 定年を迎え、新宿高層ビルのレストランで家族とお祝いをすることに始まり、向かいの家が取り壊されるまでの約5、6年間、60歳頃から65、6歳頃までの主人公とその家族を扱った連作短編集である。12編の小話からなる。

 およそ事件らしい出来事は何もない。主人公は健康であり、夫婦の間にはいざこざはない。政治や社会の話は一切出てこない。実に淡々とした毎日だ。あまりに平穏である。病気、介護、友人との付き合いあるいはその死、孤独感、趣味、生きがい、暮らしのお金、子供との軋轢などおよそ老人につき物のことは出てこない。それでは小説は成り立たないのではないか、と思われるかもしれないが、そんなことはない。読者を引きつける作家の力量は巧緻を極める。

 もちろん老人にはそれなりの気持ちの揺れがある。この平凡な日常性の中に、知らず知らずのうちに、得も言われない不安が忍び寄っているのだ。築30年の家にいくつか綻びが出てくるようなものだ。社会からも家族からもいつの間にか阻害され始めている。妻の発言力が増し、夫婦の間よりも妻と娘の間の方が濃密になり、夫の座は次第に影が薄くなってくる。

 だからといって男はこれを不満と感じたり、嘆じるわけでもない。自覚しているか否かはともかくとして、老化とはこういうものだろう、というひとつの諦観がある。

 このようにあるがままに老いを迎え、死に向き合えることができるならば、むしろこの主人公は幸せと言うべきであろう。読み終わったあと、ずしりとするものがあったが、その重みはむしろ心地よいものであった。 


 

『花の履歴書』
著者湯浅浩次    出版社:講談社学術文庫

岡本 弘昭  

 日本の国花といわれる”桜”の原産地はヒマラヤで、その昔は秋に花を咲かせていたという話を聞いたことがある。

 この”桜”と日本の縁は、福井県三方湖の鳥浜遺跡から出土した縄文前期の 弓のうち数本には桜の樹皮で補強されていたのが見つけられており、5000年 も前にさかのぼるが、その花はその年の農産物の生産の前触れとして重んぜられている。

 また、万葉集には50首も詠われているのをはじめ、吉田兼好の時代には既
に接ぎ木の技術があったといわれ、まさに日本人の生活とは多面的な接点が
ある樹木といえる。

 所で、花卉には、世界の歴史を動かすような力がある。
 例えば、1634年のオランダのチューリップ・バブルである。
これは、オスマン・トルコ から輸入されたチューリップの球根に人気が集中し、異常な高値がついた。その後価格は100分の1以下にまで下がり、オランダ諸都市は混乱に陥ったもので、世界最初のバブル経済事件であった。

 我々を楽しませてくれる花にもこのように夫々に歴史がある。
 この本は、我々の身近な100種の草花の履歴を独自の調査で簡潔に取り纏めたものである。
 著者は東京農大の先生で、読了後は、草花を見る眼も多少変わってくるし、栽培のコツも記載されており園芸にも役に立つ。





ご要望にお応えして、ジャンルを定めない自由評論コーナ ー【私の一言】を設けました。 評論の評論はもとより、社会評論等自由なご意見をお届けします。

シンガポール便り(19) 『メディカルツアー』
岡田 桂典

 今までにもご説明しましたように、シンガポール政府がすごいのは国の富を如何に増やすかを常に懸命に研究し、次々に新政策を実行することです。
 最近政府が熱心に取り組んでいるものに「メディカルツアー」があります。昨年海外からシンガポールの病院へやってきたのが40万人、2010年には100万人にする予定です。来訪者は通常家族で来るため、治療の傍ら楽しき観光で“癒し”の時を過ごしてもらうという魅力あるビジネスなのです。

 メディカルツアーにはフィリッピン、タイ、マレーシアも大変熱心で、昨年から“学会”も開かれるようになりました。それでは“お客”はどこから来るのでしょうか。医療水準が低い国のお金持ちは当然として、意外や先進国からも来るのです。アメリカは2010年に1000万人が海外で治療を受けるそうです。その理由は治療費です。たとえば心臓の手術には1000万円かかりますが、タイだと十分の一で済みます。欧州でも病院不足、医療保険会社がお客を医療費が安い外国へ送りたいとか、ニーズがどんどん増えているようです。お医者の質が気になりますが、東南アジアでも彼らは欧米で勉強した人達なので心配はないようです。

 日本では産科医が足りないそうだが“分娩ツアー”はどうかと聞かれました。都内の一流病院でも麻酔医不足で無痛分娩は月に5-6件しかやれない。シンガポールでは専門病院での無痛分娩はあたりまえ。フィリッピンでは妊婦の部屋の隣にお母さん用の部屋も準備され、専用の分娩室が隣にあって、産気づいたら病院へ行くまでもなく、お医者さんが走ってきてくれるそうです。如何でしょう。

 健康の維持、病気の克服には自己の治癒力・免疫力を高めることがもっとも大事です。豊かな四季と自然の魅力、最高級の食物、温泉、社寺の静謐さ、治安は良い、宗教に関係がない、世界一のサービス感覚、メディカルツアーには日本には最高の条件が備わっています。医療・検査機器の8割は日本にあるそうです。例えば、中国には健康診断システムはまだないそうですから検診に来てもらう。検診・治療に観光を加える、その逆でも結構です。特に地方経済の活性化につながる一大ビジネスになる可能性があるのではないでしょうか。お医者さんが不足?、特区にして足りない医者、看護婦さんは海外から連れてくれば良いのです。お金がない?、規制を外せば、投資したい人は世界中にあふれています。






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”労謙す。君子終わりありて吉なり。”をモットーに今後とも着実に発行したいと思っておりますので、皆様の引き続いてのご支援宜しくお願い申し上げます。
今号も創刊以来の常連の方々にご寄稿いただきました。
有難う御座いました。(HO)  








 
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