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■2011年8月1日号 <vol.183>

書評 ─────────────

・書 評      丸川 晃 『経営戦略の巨人たち』
               ---企業経営を革新した知の攻防---
             (ウォルター・キーチェル三世 著 藤井清美 訳
               日本経済新聞出版社)
              
・書 評     桜田 薫 『原発のウソ』
             (小出裕章著 扶桑社新書)  
            
・【私の一言】 クレア恭子『ロンドン便り(12)- Uターン』


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2011年8月1日 VOL.183


『経営戦略の巨人たち』 ---企業経営を革新した知の攻防---
 ( ウォルター・キーチェル三世 著 藤井清美 訳
日本経済新聞出版社)  

丸川 晃   

本書は、フォーチュンやハーバード・ビジネス・レビューなどの編集に携わ ったことのあるジャーナリストの著者が、主にアメリカで『経営戦略』を編 み出した主要コンサルティング企業およびM.ポーターを初めとする幾多の学 者達の足跡を、ほぼ時系列的に検討したものである。
先ず、本書での前提になる用語を規定しておくと、『経営戦略』という概念 は、ずばり企業の株価を上昇させて株主を豊かにするという、『株主資本主 義』の実現を目的とするものであり、また主要コンサルティング企業とは、 マッキンゼー(1926年設立)、ボストン・コンサルティング・グループ(BCG、 63年設立 )やベイン(73年設立)を指し、何れも上記のような目標を掲げて『戦略』の確立、普及に貢献したと、肯定的な評価を下している。
この種の本は、今までの日本では殆ど見当たらないと思うので、本書の内容 を極く簡単に紹介しよう。
アメリカで『戦略』という言葉が企業のあいだで普及しだしたのは意外に遅 く、1962年にA.D.チャンドラーが『経営戦略と組織』を著してからのことと し、65年に出版されたE.アンゾフの『経営戦略論』と共に、何れも実務的に は役立たず、66年にBCGが有名な『経験曲線』を編み出して、これのロジッ クが初めて『競争』、『コスト』に対する意識を喚起したことをもって、本 格的な『戦略論』の嚆矢とするとのこと。そして60年代末に同社は、プロダ クト・ポートフォリオ・マトリックス(PPM)を発案して、『戦略コンサルティ ング』を本格化させる。なおこの頃のマッキンゼーは、権威主義などで停滞 しており、『経営戦略』の草創期には余り貢献しなかったが、70年代後半以 降反撃に転じると、逆にBCGの栄光は薄れだしたという。
次に、70年代末期以降、別の分野から『戦略論』が現れた。ハーバード・ビ ジネス・スクール教授M.ポーターは、専門の『産業組織論』の概念を『経営 戦略論』に持ち込む研究を重ね、『戦略』とは『選択』であり、企業は自社 の競合他社と『差別化』する戦略を選ばねばならないと主張して、次々に出 版された図書によって、アメリカでも、日本でも一躍『戦略論』の寵児にな った。
更に80〜90年代にかけてのアメリカでは、製造業の凋落と蘇生を背景にして 株主資本主義ないし効率的市場仮説が全盛期を迎えると共に、『戦略』の重 点も、日本企業の研究などから、製品、市場、シェアなどの構造的要因から、ヒト、管理、組織などの変革に重点が移行して、この間エクセレント・カンパニー論、企業文化論、タイム・ペース競争、コア・コンピタンス、リ・エンジニアリングなど、次々と新しい戦略的概念が、一種の流行商品のように生まれては消えていった。当時、評者の私見では、例えばリ・エンジニアリングの考え方は、ITの発達に伴う必然の戦略だと思っていたのだが、アメリ
カでは、ダウン・サイジングと同義に誤解されて、いつの間にか消滅したと
いう。
そして2008年の金融危機後のアメリカでは、当然のことながら、短期間で大 儲けできるような事業分野が見当たらなくなるのに比例して、株主資本主義 的ないし効率的市場仮説的な考え方は急激にその権威を失いつつあるという のが、本書の結論になっているようである。例えば1980年代に『切り裂き ジャック』と云われて、大胆なM&Aと大規模な馘首で、GEを変革したCEOの J.ウェルチでさへ、09年3月のファイナンス・タイムズ誌で『株主価値は、表 面的には世界で最も愚かな考えだ。株主価値は、結果であって、戦略ではな い。…企業の主な基盤は、社員と顧客と製品である』と述べたという。
一言付け足すと、最近の日本企業では、このようなアメリカの動向とは逆に、短期の利益数字にとらわれ過ぎるようになって、長期的視点からの経営マインドが乏しくなってきているのでは、という懸念が脳裏を走る。
なお、本書の『日本語版への序文』で、日本的経営を世界に広める役割を果 したJ.アベグレンについて、BCGとの関係を詳述しているのが興味を引き、また蛇足だが、本書の題名『経営戦略の巨人たち』の『巨人たち』というの はLoadsの訳で、むしろ『立役者たち』程度にして良かったのでは…というのが、読了後の感想である。

 

『原発のウソ』
(小出裕章著 扶桑社新書)

桜田 薫   


福島原発事故の大惨事を受けてメディアから原発推進の声が消え、本屋さん の店頭に多くの反原発本が並ぶようになった。著者は40年にわたり原発の危険性を訴え続けてきた筋金入りだが、60歳でも京大の助教という地位から想像すると業績の不足なのか、それともエスタブリッシュメントから疎外されていたのか? 私たちはこれまで原発の安全性を疑っていなかったし、起こりうるリスクを真剣に考えたいとも思わなかった。しかし現状のように放射能は当初発表の2倍になり、メルトダウンは発生しなかったはずが実際には当初からあったように、東電や政府には間違いや訂正が続発している。
遅々として進まない修復作業に加えて農産物の汚染は広がり、汚染水や瓦礫 の処理など私たちの不安に終わりが見えない。

本書はいろいろな原発の危険や問題点、(例えば発電所から出る高レベル放 射線廃棄物の処理の難しさや排水による海水の温度上昇など)や実際の発電 コストの高さを列記して原発危険とその廃止を説いている。福島における最 悪のシナリオとして「水蒸気爆発」の可能性をあげているが、これは歴史上 経験したことのない大惨事になる。そこまで行かないことを祈るばかりだが、現状を楽観することもできない。素人の私たちは著者の提示する恐怖を信じるほかはないが、その中で異論がありえるのは放射線による人体の被害の問題である。政府の「直ちに健康に影響を及ぼす量ではありません」という発表は、それで急性障害が起きないということらしいが、人体に影響のない被爆はありえないと米国科学アカデミーの委員会が報告している。しかし一定の限度内なら安全を主張する日本の学者もいる。法律で許容された年間1ミリシーベルトの限度は1万人に1人がガンで死ぬ確率だそうだが、おそらく説得力のある限度の線引きは難しい話だろう。空気中に低いレベルでも放射能が存在する以上、私たちは汚染されている野菜でも魚でも全く食べないわけにはいかない。若ければ若いほど放射線の影響を受けやすいので、放射線に鈍感になっている大人や高齢者が食べるほかはない。

著者の説くように、原子力発電所は機械であり、機械は必ず壊れるものであ り、大津波のような未知の事故だけでなく、運転する人間はミスをすること があるので、事故は必ず起きると想定される(想定外ではない)。今回の事 故の解決は原子炉をほぼ何十年にわたり冷却し続けることしかないが、結論は永い年月にわたり子孫に負債を残さないために原発を廃止するしかないということだ。
なお代替するエネルギー源には海底のメタンハイドレードなども発見された ように著者はあまり心配していない。 

 

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『ロンドン便り(12)- Uターン』
 クレア恭子 



英国で連合政権が発足して5月で1年経過、前労働党政権が残した大財政赤 字解消の各種政策を発表しては、変更を余儀なくされ 実施が遅れている。
首相は‘国民の言葉を拝聴し、学びながら歩んでいる’と強気の説明。
ただ予定している財政再建は遅々として進んでいない。
大学の年間授業料を£3,000から最高3倍の£9,000へ引き上げ可能と昨秋政府が提案した時 若者中心の大規模な抗議デモが全国で続いた。ロンドン
ではチャールズ皇太子夫妻が車で公式行事出席途上にデモ隊一派に巻き込ま
れ、たまたま開いていた窓から棒でつつかれる、という一幕があった。
実施予定は2012年9月入学者からである。 
政府は‘学生ローン’の返済条件を改定し、卒業後年収が£21,000(現行は£15,000)以下であれば返済不要と説得。財政再建どころか将来のブラック・ホールとの声がある。
NHS:国民医療制度の改革は保守党が民間競争原理の導入を推進、予算管理をGP:家庭医へ委ねて患者に最適の治療を選ばそう、としたが、多くの医療従事者は商業主義の会社や機関に牛耳られる恐れあり、と同調せず再検討となった。 
混雑している刑務所の費用削減を狙って、刑の軽減を提案した法務大臣は被害者、特に暴行被害者への理解に欠けていると非難を受け、やり直し。
福祉政策の見直しは庶民の賛同を得ているものの、住宅補助の急激な引き下げは都会に貧民街を作ってしまう、とか、非婚女性への不当な差別は許せない、とか意見もあり、具体策不明。統計によると現政権設立後創設された雇用の87%が移民に占められているそうである。
確かに周囲の店ではナマリのきつい英語が飛び交う。大臣が‘英人を優先的に採用しよう’と発言した時、庶民は喜んだが、雇用者側に‘移民の方が意欲あり教育あり優秀’と反論され、EU法にも抵触する、と実現は困難な模様である。自民党所属のエネルギー大臣が、グリーン・エネルギー政策を発表したのは6月。原子力発電を是認し 今後8箇所の建設を推進する、との案に、かつて原子力反対だった自民党最大のUターンとマスコミが騒いでいる。また実現できない新政策か、と状況を見守っている。

 

 

  地震、津波、放射能、電力不足、台風、大雨と、天災と人災のなかで暮らし、政治は混迷のままで日本はどうなることかと心配の尽きない昨今です。
しかし、別の分野ではこのところ朗報も続いています。
コンピュターの京の1位獲得であり、女子サッカーの世界選手権の優勝です。
かつて2番でもいいという人もいましたが、やはり一番でないと物事は始まりません。これらを契機に日本も再上昇に向かうことを期待してやみません。

本号も、多面的なご寄稿をありがとうございました。(H.O)





 
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