2004年12月1日 VOL.23
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■書評
・『アングロサクソンは人間を不幸にする』 福島 和雄
・『ムーンライト・シャドウ』 藤尾 由紀
【私の一言】『ちょっとひと呼吸』 久米千仁
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『アングロサクソンは人間を不幸にする』
著者:ビル・トッテン 出版社:PHP研究所
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福島 和雄
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この本は3年前に書かれた本であるが今日の日本経済の状態を的確に予言している。1998年の金融ビッグバン以降日本は数々の規制を緩和し、政府のコントロールから、市場メカニズムの支配というアメリカ型の経済システムの導入を急いでいる。トッテン氏は「日本は衰退の道を選択している。日本人にはアングロサクソン(英米人)が作り上げた、資本主義のシステムは似合わないと思う。日本は戦後独自の経済システムを発展させてきた。そして松下幸之助が唱えたように、利益を大多数の国民に分配し、共に豊かになる社会を築いた」と言う。そしてアングロサクソンが資本主義を作り上げた歴史をわかり易く説明している。
経済学の最初の理論家アダム・スミスは彼の著書「国富論」で「労働者の賃金は、多く与えすぎると仕事をしなくなるから、最低限の賃金で充分」と言い、マルサスは彼の著書「人口論」で「人間は余裕を持つと、子作りに励んで人口が増える。労働者には最低の賃金を支払って、余裕を持たせないようにするのが良い」と言っているそうだ。
アメリカ経済は活況を呈しているが、その恩恵を受けているのは一部の資本家だけで、労働者の実質収入は下がり、いまや夫婦共働きでなければ家計を維持できない。貧富の差は益々広がり、治安も悪くなったそうだ。イギリスで誕生し、アメリカが世界中に浸透させたこの経済システムは、基本的には強者がより強くなるものであり、多くの犠牲を前提にしたものである。近頃声高に叫ばれるグローバル化や規制緩和がいかにインチキな万能薬であるとトッテン氏は断じている。日本においてもこの数年グローバルスタンダードや規制緩和がもてはやされて、日本の企業も最近アメリカ型弱肉強食の経営方法を真似しているが、その結果失業者が増加し治安が悪くなっている。
アメリカが日本に対して不良債権の処理を早急に求めたのは、貪欲なアメリカの投資家に対して、日本の資産を投売り同然の安い価格で売らせるためであると予言していた。日本長期信用銀行や九州のシーガイアが外資系企業に安く買われているのを知ると納得できる。
著者のビル・トッテン氏はアメリカ人で日本に来て、アシスト社というコンピユ―ターソフトの会社を経営している。アシスト社の社員は終身雇用で、新卒者のみ採用で、中途採用はしないそうである。その他の著書に「アメリカ型社会は日本人を不幸にする」がある。
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『ムーンライト・シャドウ
』
著者:よしもとばなな
訳/マイケル・エメリック 絵/原マスミ
出版社:朝日出版社
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藤尾
由紀
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ひとつのキャラバンが終わり、また次がはじまる。(中略)私はあいさつを交わしながら、どんどん澄んでいくような気がします。流れる川を見ながら
、生きねばなりません。────
愛すること、哀しむこと、苦しむこと、そして生命にむきあって生きる、という当たり前のことが、よしもとばななのピュアな感性に奏でられる。日常的な対象すべてが、彼女を通ると何ともいえない生きいきとした命を与えられて展開していく。折々に入る挿画も不思議な強さとやさしさで負けていない。
インパクトのある原マスミのイラストが表紙のB6判サイズ、本文も120頁、全カラー印刷のおしゃれな装丁。まるで、詩集のようだ。しかも、この本は、もうひとつおまけがある。本文は横書きで、日本語の下に英語の対訳が小さな字で寄りそうように入っている。気になるフレーズを声を出して読んでみたりすると、妙に世界が広がっていく楽しさもある。
発刊は昨年の夏。新作にも見えるが、実は22歳の時の処女作で、「キッチン」に収録されたのを16年目にバイリンガルというお色直しで再登場させた。「ばなな本」は、残念ながら読みそびれていたが、お孫さんと一緒に読む本を探していて見つけられた、素敵なマダムにいただいた。
なお、朝日出版社の日英バイリンガルシリーズには、司馬遼太郎、瀬戸内寂聴らの著書もあるようで、興味深い。
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