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福島和雄
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あなたは、『相続』について、どれだけの知識を持っていますか。どんな幸 せな家庭でも、遺産相続の問題では必ずもめる。この問題は他人事ではない
のです。遺産分割協議では、何を話し合えばいいのか、遺言書を作成したい けど注意すべき点を知りたい。以上のような問題について、著者の、弁護士
長谷川裕雅は相続について、サザエさん一家を例にしてわかりやすく解説し ています。
『磯野家の相続』という本は、
第1章 相続の基本知識
第2章 こんな人たちも遺産はもらえる
第3章 どうなる相続・承継をめぐる疑問
第4章 遺産分割の話し合い
第5章 家族を守る「遺言書」を今すぐ準備しよう
第6章 「遺言書」の書き方、決まり事
の6章から成り立ち、きわめてわかり易く説明している。
第1章はサザエさんの父親波平が亡くなった時、磯野家では波平とフネ夫婦 の下に3人の子供から成り立ち、長女サザエにはお婿さんのマスオとの間にタ
ラちゃんがいる。その他弟に長男カツオ、次女ワカメちゃんがいる。 最も優先的に相続人になれるのは配偶者と子供である。サザエさん一家では
波平未亡人とサザエさん、カツオちゃん、ワカメちゃんら3人の子供がいる。 配偶者のフネさんが2分の1、サザエさんら子供たちが2分の1を相続する権
利がある。
1章から4章までは遺産相続に関する基本知識、遺産分割などをテーマにし て、磯野家をモデルにして具体的に解説している。5章6章は遺言書について
詳しく説明している。遺言書は「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証 書遺言」の3方式がある。遺言は故人の意思を整理し、それらを相続人に言
い残すことです。どんなに子供たちの仲が良くても、被相続人からは「もら えるものなら、少しでも多くもらいたい」という心理になるのです。だから
相続人同士で、相続争いに発展する可能性が非常に高いのです。その意味で 遺言書は自分の意見を文書で整理し、伝えることで相続人たちのトラブルを
避けられるのです。
相続に関してきわめてわかり易く解説した本である。
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『バナナの世界史』
(ダン・コッペル著 黒川 由美訳 太田出版)
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丸川 晃
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数年前,朝食時にバナナを食べる『バナナ・ダイエット・ブーム』というの が流行して,わが家でも,かみさんが真剣に実行したものだが,バナナといえ
ば,若い頃は別として,今では値段が比較的安く,皮は手で容易に剥け,腹の足 しにもなる安易な『果物』という印象しか持っていなかった。そういう平
凡な『果物』バナナついて,まともに議論せねばならない歴史の経過があっ たと主張するこの本を入手して,当初は愚劣な本を衝動買いしたなと思って
いた。
そして,折角買ったのだからと読み始めてみたところ,この本は,実はバナ ナを主人公とした社会批判とでもいえる著書であることに気付いた。即ち,
バナナという植物の特異性もさることながら,森林破壊の典型としてのバナ ナ・プランテーションのグローバルな展開とそこで働く労働者の悲劇,食料
としてのバナナの普及と,バナナの伝染病との闘いの歴史,そして,バナナの 栽培,輸送,販売の歴史を色々の意味で典型的な形で具現した過去完了の企業,
ユーナイテッド・フルーツ社が辿った歴史などを展望・分析したものであっ て,結論的には,主として中米諸国が辿ってきた強権的な独裁政治,強引な商業
主義の貫徹,そして,病原菌の伝播でバナナ・プランテーションか全滅した結 果,深刻な飢餓か発生したことなどから,バナナ危機の警鐘を鳴らす。
平凡に見える果実(?)バナナは,実に怪奇な植物であることを,初めて知った。
先ずバナナの木は,世界最大の『草本』(植物の地上部分が柔軟・多漿で,木質 をなさないものの総称《広辞苑》)であり,従って『果物』ではなく,『野菜』
(果菜)に分類され,その茎のような部分は『偽茎』と呼ばれ,その先端から長楕 円形の葉(葉身)が伸びる。その花(花序;花粉はない)は,偽茎の先端から下向き
にでて,花序には1本の果軸に複数の果房(果段)が付き,各果房(房)には10 ̄20本 の果指から成っており,この果指の1つ1つがバナナになるという妙な植物であ
る。
特徴的なことは,主要な食用バナナ(世界中で野生バナナを含め1000種を超える 品種の中で,われわれが実際に食べているバナは僅か数種類のみ)には『種』が
ない(『不稔』)ので,クローン(分子,DNA,細胞などのコピー)により,即ち偽茎の 地下茎部分の根分けによって繁殖させる方法か取られているので,どのバナナ
の木も同じ遺伝子を持つため,等しく同じ病気に対する抵抗性が弱いことになる。
本書の著者ダン・コッペルは,科学,自然分野を専門とする米国のジャーナリ スト,従って,本書の議論が米国を中心に展開されているのはやむを得ない。そ
して,バナナの食糧としての歴史を主軸として,中米でのバナナ・プランテーシ ョン開発と同地域諸国の独裁的政治形態,これに対して米国か軍事的に関与す
る深刻な問題が展開され,更に,バナナ産業の発展を牛耳ってきたユーナイテッ ド・フルーツ社(以下,U.F.社と略称)とバナの伝染病に関する物語が語られるな
ど,話題が植物・遺伝・品種改良,悲惨な弾圧政治の推移,バナナ企業の盛衰等々 と,バナナを巡って話題が目まぐるしく変化していくので,読者は大いに戸惑う
というのが,本書に対する苦言である。
上掲の諸問題を凝縮していると考えら, 主として第二次世界大戦前に米国の
バナナ産業を支配したU.F.社の盛衰過程をケース・スタディとして, 簡単に眺
めてみよう。
南北戦争後,米国ではバナナの需要が増加して,1885年にU.F.社の前身ボスト ン・フルーツというバナナ輸入会社が誕生,99年にU.F.社に改称,当時の米国で
は,バナナ1本が10セント(現在の貨幣価値で約2ドル),朝食時にバナナを食べる のがステイタスだったという。同社は,バナナ栽培に気候的に最適の中米で,
熱帯雨林を伐採し,バナナ・プランテーションを開発,バナナ輸送のための鉄道 を敷設,港湾施設を整備していった。しかし既に94年には,グァテラマでバナナ
労働者など改革運動が始まり,U.F.社の要請により,これを鎮圧するために米軍 が介入し,以降,これが慣例となる。更に,当時,中米で栽培されていたバナナは
グロスミッチェル種という種類であったが,この種にバナマ病というバナナを 枯死させる病気が発見されたのが20世紀初め,この伝染病に罹ったプランテー
ションは放棄され,新たな開発が行われて,森林破壊が進行する。
かくてU.F.社は,1920年代には,売上高1億ドル以上,従業員67千人,1500万ヘク
タールの土地所有,砂糖,カカオ,コーヒーも含め世界市場で最大の市場シェアー を有し,32カ国で事業を展開,5600kmの自社通信網を有する大企業に成長したが,
他方で,労働強化などによるストライキの頻発(米軍が鎮圧),中米諸国指導者との 賄賂などの暗い関係,特に,伝染病に対する予防,新種開発などの改革は行われず,
しかも米国のバナナ消費量は,1910年頃の4000万房をピークとして低下傾向を 辿り,周辺ではバナマ病に強いキャベンディッシュ種(現在の米国では,この種の
みが流通している)が栽培されだしたのに,同社はなかなかこの種に転換しなか ったなど,時代の潮流に適応しなかった。
そして1950年頃には,米国のバナナ需要は年間450万房迄減少し,バナナ農園 の生産性も徐々に低下していき,U.F.社に支配されないバナナ農家も増えだす
ようになると共に,U.F.社は,益々商売というよりも,強引な外交に偏向していき, その結果は,71年には業績が200万ドルの赤字に転落,この間UF.社はM&Aの対
象になり,その3代後の後継企業『チキータ』は,遂に2002年に破産宣告して,消 滅した。
なお,今日のバナナ産業は,そのプランテーションは現地の下請け業者が所有
し,米国企業はこうした業者からバナナを購入するというシステムになってい
るという。
以上を総括して,本書の最終的な主張は,以下のような点にあるとみる。即ち
バナナは,本来は,世界の人口爆発・飢餓を支えるべき有用な食用植物資源であ
る筈だが,今迄のところは,ヒトが余りにも恣意的に儲け仕事として処理してき
た感があるという反省の上に立って,今後は,食糧としてのバナナに関して,病気
に強い種の改良や,プランテーションの運営,輸送・流通システムの合理化など
も含め,グローバルな規模で考え,対処していくことが緊急事であると,警鐘を鳴
らしている。 |
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