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■2010年6月1日号 <vol.155>

書評 ─────────────

・書評   片山 恒雄『眠れなくなる宇宙のはなし』
           (佐藤 勝彦著 宝島社)

      丸川晃  『からだの一日
             あなたの24時間を医学・科学で輪切りにする』
           (ジェニファー アッカーマン著 鍛原 多恵子訳 草思社)
                              
・【私の一言】幸前成隆 『与うる所を視る』




2010年6月1日 VOL.155


『眠れなくなる宇宙のはなし』
(佐藤 勝彦著 宝島社)

片山 恒雄   

昔聞いた落語の中に、長屋の店子が集まって日頃物知りを自慢している大家さんをとっちめようと、地球の果てがどうなっているかを息も絶え絶えになるまで問い詰める噺がある。聞きおわって、「しかし、本当のところ地球はともかく宇宙の果てはどうなっているのか、また宇宙の始まりは何もないところからどのようにスタートしたのか」と考えると、底知れない興味が湧いたものである。

世界有数の宇宙物理学者として現在も活躍している著者が、ギリシャ時代の天文学から説き起こして、最新の宇宙論までを寝物語にし7夜に分けて丁寧に解き明かしてくれ、近頃読んだ中では最も知的興奮をかき立てられた本といえる。

宇宙論とか天文学などは日常生活には縁もゆかりもないようであるが、アインシュタインの相対性原理や近年急速な進歩を遂げている量子論の成果の一つとして、携帯電話やGPS(汎世界測位システム)の技術などにも広く応用されていることを考えれば、あながちそうともいえまい。この本の中で面白そうな話を2つ紹介する。

最新の宇宙論では物質の究極の基本要素は小さな粒子ではなく、超ミクロのひも(紐)から構成されており、これがさまざまな方向に振動することにより、数十種類の素粒子に変化するという。ひもの先はブレーンといわれる膜にくっついていて、10次元の空間に浮かんでいるというまるで雲をつかむような話しである。このブレーン(3次元)どうしが衝突したのがビッグバンといわれている宇宙の始まりであると説くが、客観的な証明までにはいたっていない。

また、宇宙に存在する物質のうち現在解明されているのはわずか5%で、後の23%が暗黒物質で、大部分を占める残りは暗黒エネルギーである。これらは未知の物質ではあるが、その存在は科学的に証明されている。これも考えてみればお化けのようなそら恐ろしい話しである。
著者は最後に「自分を取り巻く世界を見つめ、その中で自分の立ち位置を再確認することが新たな価値観を築き、自分を取り戻すことを可能にしてくれる」と結んでいる。アメリカのボストン美術館にあるゴーギャンの絵「われら何処(いずこ)より来たるや、われら何者なるや、われら何処へ行くや」の問いに答えてくれるのは宇宙天文学かもしれない。

『からだの一日』
あなたの24時間を医学・科学で輪切りにする
(ジェニファー アッカーマン著 鍛原 多恵子訳 草思社)

丸川 晃   


70万時間(約80年)を超えて生きていても、自分の身体については、案外知らないことが多い(私だけかも・・?)。逆に、素人が身体や病気について生半可に知り過ぎても、精々ノイローゼになるのがオチかも知れないが、矢張り適度には知っておくべきであろう。この意味で本書は、様々な類書のある中で、ヒトの朝の起床から夜の睡眠に至るまでに身体が変化していく驚くべき様相について、最新の医学情報に基づいて説明しているという意味で、独自のものであるといえよう。

本書の核心は、『概日リズム』(ラテン語のcirca(概ね)とdies(日)とに由来)という名の『体内時計』の時間帯によって、体温、心拍数、血圧、白血球、諸々の内臓、ホルモン、神経伝達物などが常時変動しているため、そのリズムに合わせて生きることが最適の条件だということにある。

例えば、心臓発作に気をつけねばならない時間は午前8時前後(血小板が最も殖えて、粘着力が高くなる時間帯)であり、歯を抜くのは午後にすべきで(歯の痛覚閾値が最も高い)、有酸素運動などは、午後、遅くとも宵の口までが最適、高齢者は、午後の方が物忘れの頻度が増し、アルコールの影響を最小限にするには、その代謝作用が最高レベルに達する午後5〜6時に飲むのが良いなど、一見ばかばかしくみえるが、これらは医学的に厳密な根拠があるということを巡り、細胞数からいえばその99%が微生物で埋められており(例えば、一度熱のこもったキスを交わしただけで、当人たちは500万個以上の細菌を交換したことになるという)、残り僅かに1%しか実態?のないヒトという生物の、主として生理的特徴について、朝の起床から始まって、昼食、午後の倦怠感、夜の就寝、熟睡の不思議に至るまでを、時間の経過に従って、最新の医学情報を駆使して興味ある肉体的・精神的話題が平易に説明されている。

人の一生は70万時間前後、これを日数に換算すると約2万9千日、既に3万回弱も朝・昼・晩・就寝を繰り返してきている者としては、数字的には大変長い筈だが、この厖大な時間が経過した現時点に立ってみると、この繰り返された日数は、余りにも早く、儚く、無為、かつ残酷に流れ過ぎてしまったように感ぜられる。本書で引用しているVirginia Woolfの言葉『人生の問題は、あなたにとって、時をどれだけ自分の手元に留めておけるかになる。時は、余りにも早く流れていくゆえに、途方もなく大切なものになる』を、遅蒔ながら改めて噛みしめているこの頃である。
 

 

ご要望にお応えして、ジャンルを定めない自由評論コーナ ー【私の一言】を設けました。 評論の評論はもとより、社会評論等自由なご意見をお届けします。

与うる所を視る
幸前成隆

「富みてはその与うる所を視る」(李克)。「富めばその養う所を視る」(呂氏春秋)。金ができたとき、何に使うか。その使い方で、人物が分かる。
通常の人は、自分の私欲のために使う。多くは、これまで抑屈させられて来た欲望を、この際一挙に果たそうとする。豪邸を建て、ブランド物を買い、豪遊し、酒食にふける。また、私利を増やすために、利殖、投資に走る人もいる。

「金の使い方ほど難しいものはない。人格が、そっくりそのまま反映する」(伊藤肇)。 徳ある人は、人のために使う。「富めるは、よく施すをもって徳となす」(呻吟語・修身)。
史記に、范蠡の故事がある。范蠡は、越王句践が覇王になった後、越を去り、

「斉に適きて鴟夷子皮となり、陶に之きて朱公となる。…十九年の中に、三たび千金を致し、再び分散して貧交疏昆弟に与う。これ、いわゆる富めば好みてその徳を行う者なり」。
また、世説新語には、宗の劉凝之が衡陽王から銭十万を餉られて、市内の飢色ある者に分与した話がある。 最上の使い方は、人の育成に使うことである。「修身の計は、人を樹うるに如くはなし」(管子)。米百俵の教えがある。戊辰の役後所領を減らされた長岡藩に、米百俵が届いた。これをどう使うか。藩士に分けるべしとの意見が強い中で、小林虎三郎が一人反対して、人材育成に充てた。
金は生かして使うことが大事である。

 

 

首都大学東京の星教授によると、病院や診療所、特養がたくさんあればあるほど寝たきりが多く、高齢者がたくさん働いている県ほど寝たきりが少なくなることがわかったそうです。
寝たきりを減らし健康長寿を維持するには、自分の持っている特技を生かし社会に参画し、生きている幸せを感じることが重要だそうです。
この”評論の宝箱”もご寄稿者にとっても読者にとっても健康長寿の基になることを願っております。なお、今号のご寄稿者の丸川晃氏は80歳を越えられました。

今号も多面的なご寄稿有難う御座いました。(HO)




 
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