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■2010年7月1日号 <vol.157

書評 ─────────────

・書評    石川 勝敏   新訂『徒然草』  
               西尾実,安良岡耕作 校注       
               岩波書店ワイド版
                   
       前川 彬   『茜色の空』
               辻井喬 著(文芸春秋社)

・【私の一言】 岡田 桂典   『世相雑感』






2010年7月1日 VOL.157


新訂『徒然草』
( 西尾 実,安良岡 耕作 校注  岩波書店ワイド版 )

石川 勝敏    

校注者 西岡 実: 1889 年長野県生まれ、東京帝国大文学専科修了、東京女子大教授、法政大教授、国立国語研究所初代所長、徒然草、世阿彌、道元の研究で有名な日本語学者

校注者 安良岡(やすらおか)康作: 1917 年埼玉県熊谷市生まれ、東京帝国大文学部卒業、東京学芸大教授、徒然草、方丈記.歎異抄、正方眼蔵の研究で有名な中世文芸研究者

(以上いずれもウイキペデイア)

つれづれ草の名前は日本人の 80 %の人が知っているだろう。私も高校の古文でその一部を学んだ記憶がある。今回は校注を読みながら全文を初めて読んでみた。

簡潔で的確な文章である。内容も(つれづれなるままにそこはかとなく)書かれたものでは無く積極的な取材があり、綿密な思考論証があり、主張がある。徒然草の著者兼好の伝記については現在も不明な部分が多い。生年は 1283 と推定されている。吉田 兼好という呼び名は江戸時代以降のものである。卜部兼好が正しい。卜部姓は天児屋根につながり、代々神祇官として朝廷に仕えてきた家系である。兼好は父兼顕(太政官、神祇官)の三男であり、朝廷に仕え蔵人を経て左兵衛左に至った。推定年齢三十歳頃官吏の身分を離れ兼好御房と呼ばれる遁世者となっていた事が確認されている。

兼好法師家集にある ( さてもなほ世を卯の花のかげなれや遁れて入れり小野の山里 ) の一首により京都山科の峠の東の小野の里に住んでいた事が知られている。

兼好は歌人、古典学者、能書家、有職故実家として世に認められていた。

兼好は本書の中で世俗 ( 恩愛と名利 ) と仏道(恩愛も諸縁も断ち安心を願う境界)そして遁世(非僧非俗第三の社会身分)を明確に区分している。その中で自分がどう生きるか模索をし、その結果 閑暇境こそ心身の安静にいたる道だとし、そこに生の意義を見出している。現実に押し流され埋没して生きる人生を批判し心身の安静を得る遁世の道を勧奨している。

兼好が読者として想定した人達は仏教経典、中国の古典、日本古来の和歌、物語、有職故実、律令格式にわたる広範な知識教養をもつ読者である。当時の貴族社会公家階級である。

徒然草は世俗社会の煩雑を超えて自己を生かす道を求める人のいる限り将来も読み継がれるだろう。

七百年前の随筆も校注無しでは読めなくなっている。言葉、文化、倫理の変化の速さに驚くばかりである。私は七十五歳、形は閑暇境にあるが兼好の心境とは大きく違う。囲碁を打っては連泊して深夜に至り、家屋内に物多く更に新しい機械も欲しがる。諸縁を求めて宴会を持ち歌まで唄う。信仰心の薄さ故か。徳性に劣り、兼好法師に厳しく批判されそうである。



『 茜色の空 』
( 辻井喬 著  文芸春秋社 )

前川 彬    


本書は、 1978 年(昭和 53 年)から約1年6ヶ月間内閣総理大臣を務めその在職中に急逝した大平正芳氏を主人公とした小説であり、著者は、辻井喬氏(元セゾングループ代表の堤清二氏のペンネーム)である。

著者は、本書で、大平氏を、日本の政治家の中では稀に見る読書家であり、思慮深く誠実な人柄で、優れた識見を持つ人物として画いているが、膨大な資料と実在の人の行動・発言に基づいて書かれているだけに、その見方には説得力があり間違っていないと思われる。

氏の高松高商時代から始まり、東京商大から大蔵省を経て戦後政治家となり、 70 歳の生涯を終えるまで、その時々の出来事を追い、周辺の人との会話を交えつつ、読み応えのある一つの小説として組み立てている。氏の愛した郷里の燧灘の夕陽(タイトルの”茜色の空”である)や氏を父としてまた恋人として慕う女性秘書の山村由美の存在は、小説に必要な道具立てであろうが、これらによって、氏の人物像をより鮮明にし、またこの小説を詩情豊かなものにしている。

この小説を読んで、城山三郎『賢人たちの世』(文芸春秋社)を思い出した。城山氏は、同時代の政治家三人(椎名悦三郎・前尾繁三郎・灘尾弘吉)を賢人として評価し、「政治屋ではなく政治家であって、その存在感は歳月が経っても褪せることがない」と言っているが、この基準からすれば、本書の主人公大平正芳氏はまさにそれ以上の「賢人」といえるのではなかろうか。

私は、優れた政治家は、国の針路を示し、国民に夢を語り、その夢を実現するための具体的な方法を示さなければならないと思うが、そのためには、相当な読書をベースにして、広い視野を持ち、問題の本質をつかみその解決策を見出していく能力を備えなければならないであろう。いまの日本を取りまく難しい状況や政治に携わる人たちの情けない姿を見るにつけ、早くこういうしっかりとした政治家の現れるのを切望したいと思うのである。

 

ご要望にお応えして、ジャンルを定めない自由評論コーナ ー【私の一言】を設けました。 評論の評論はもとより、社会評論等自由なご意見をお届けします。

世相雑感『日本は狙われている』
岡田桂典

 

ギリシャ危機に始まるソブリン危機(国家財政の信任危機)を見ていますと、昔日本の老人達がよく「身の丈を知って(収入の範囲内で)生活しないとやがて破滅する」と教えていたのを思い出します。国の借金がGDPの約2倍に達しつつある日本。バブル破綻後の 92 年をピークに税収は 60 兆円から下がり続けて 10 年度予算では約 37 兆円に、歳出は 69 兆円から増え続けて 92 兆円になりました。まさに「身の丈を超えた生活」をしてきたわけです。

かくて、 10 年度予算の税収約 37 兆円に対し、国債費として約 21 兆円も払わねばならないことになりました。これを支払うとおカネは約 16 兆円しか残りません。さらに地方交付金約 18 兆円を払うと中央政府が使えるおカネは“全然ない”のです。税収の6割が借金の支払いに消え、国の一般歳出約 54 兆円すべてを毎年新規に借金するのでは ( 埋蔵金も終わりだそうです ) 誰が考えても財政破綻は明確で、時間の問題でしかありません。

では税収を増やす、歳出を減らすことは可能でしょうか。まず富を生むべき企業が衰弱しています。

今年度の法人税は約6兆円しかなく、その典型的な例は経済の基盤を支えるべきメガバンク3社の株価は3年前のピークの5分の1で、過去 15 年間法人税を払っていないことです。企業の海外進出は当然で、給与は輸入品が安ければ対抗上減る一方です。税収が増えるはずがありません。次に、一般歳出 53 兆円の半分が社会保障費 27 兆円です。残りは 26 兆円、これから教育・技術振興、防衛、公共事業費を払うと 10 兆円しか残りません。歳出の改善はいくら仕分けをしても僅かなものでしょう。

かつては「生れ、育ち、教育、治療,働き、老、死」の人の一生は家族・親族、地域、働く場等の共同体の責務でした。今や森羅万象すべての損害・不安・不満の解決は国の責任で、国がカネを払うのが当然とされています。しかし、“国のおカネ”とは“国民の貯蓄”を国債・地方債として政府に使われたものです。すでに約 900 兆円も使われると蓄えを使い果たした“宴”の終焉はまじかです。

毎年の新規国債発行が 45 − 50 兆円では大変危険です。過去 20 年ほどの世界の金融危機を見ますと、すべて財政や外貨事情の“ムリ”や"矛盾”をヘッジファンド等に突かれて自国通貨や国債が売られて暴落し、国民の貯蓄が急減するうえに、インフレを招いて国民は塗炭の苦しみを味わされました。

私は直接税 ( 法人税・所得税 ) の増収や大幅な歳出減は不可能だと考えますので、直ちに消費税を 20 %上げて財政赤字を止めなければならないと考えます。国債の暴落を招き貯蓄の価値が減少するより消費税を払った方がよほど国民生活の安心、安定に役立つと考えるからです。

世界中の金融資産は 90 年の 48 兆ドルから今や 200 兆ドルに迫るそうです。世界中の投機家が儲けのタネを鵜の目タカの目で探しています。私は早く財政再建に乗り出さないとユーロ情勢が落ち着くと日本が次の投機の対象になりかねないと恐れます。 Market Watch というNYの金融情報誌の5月 18 日号に「国家財政危機でいかに儲けるか」という記事が出ています。5項目のトップが「日本の円と国債を売れ」です。投機家を責めても意味がありません。彼らに絶対に“隙”を見せてはならないのです。

 

 

日本において、技術やサービスなどが市場で独自の進化をとげ、世界標準からかけ離れてしまうという現象が見られます。これを、ガラパゴス諸島の生物が、大陸とは異なる独自の進化をしている現象にたとえて「ガラパゴス化」といわれています。

今後ますます人口が減少し成長が見込めない日本では、この「ガラパゴス化」からの脱却が重要な課題です。これには、海外に対しさらに広く門戸を開き、また、自らも積極的に出て、世界の変化・多様化を日本の発展に結び付けることが必要となります。

しかしながら、日本では豊かさを反映してか、若者の内向き志向、海外離れの風潮が高まり、アメリカへの日本人留学生は 2003 -04年度から減少傾向にあり、2008 -09年度にはアジアの国別順位では第 5位へと下降しました。これでは、グローバル化も覚束きません。

国の財政にも問題がありますが、日本には人材づくりにも課題があるようです。

若者の活発な活躍に期待したいところですが。
  

 今号も多面的なご寄稿有難う御座いました。(HO)

 




 
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