このサイトでは書評、映画・演芸評から最近の出来事の批評まで幅広いジャンルのご意見をお届けしていきます。
読者の、筆者の活性化を目指す『評論の宝箱』
意見を交換し合いましょう!

 
       

 

 

■2009年10月15日号 <vol.140>

書評 ─────────────
 
・ 書評    川村 清 『地図だけが知っている日本100年の変貌』 
             竹内正浩著  小学館101新書

・ 書評    岡本弘昭 『易経一日一言』  
             竹村亜希子編  到知出版社

・【私の一言】濱田克郎 『アメリカ便り(19) ”あたりまえのこと”』




2009年10月15日 VOL.140


『地図だけが知っている日本100年の変貌』
著者竹内正浩  出版社:小学館101新書

川村 清    

 我々の住む日本の国土は今どういう風に変化を遂げているのか、時に思いを致して振り返ってみるのも大切なことと思われる。

 本書は、国土地理院の地道な作業によって昭和50年代後半に2万5千分の1地形図が全国をほぼ網羅したのを利用して、時代ごとの土地の変化を追ったユニークな労作である。このような地図を、時代をずらして比較することによって、時代ごとの日本列島の歴史をたどることができる。

 地形の変化は様々な理由によってもたらされる。地震、噴火、洪水のような自然災害に対して大規模土木工事を施したり、海上島、干拓、長大橋、埋立による工業、都市用地造成などこの100年で『列島改造』まがいの自然破壊を行ってきた。今になってみると、農地造成のための干拓、新産業都市のような工業用地の埋め立て造成が長期に亘る国民、いや人間の生活見通しとして果して良かったのかどうか疑問をいだかざるを得ない。

 農地造成を例にあげれば、八郎潟の干拓で,琵琶湖に継ぐ日本で二番目の広さを誇る湖が水田に変貌してしまった。1972年、既に秋田県は米の自給を達成していたにも拘らず、干拓を決定。戦後の飢餓経験におびやかされるように水を掻きだしてしまったのである。こうして美しい湖面の風景とワカサギ、ハゼ、ボラ、シラウオなど70種に及ぶ魚介類の宝庫が3000人の漁業従事者の生活と共に失われてしまった。

 かつて、白砂青松の海岸が醜い工業基地に変貌してしまった例も多いが、GDP世界第二位のわが国が犠牲にしたものを忘れてはならないと思う。


『易経一日一言』
編集竹村亜希子  出版社:到知出版社

岡本 弘昭   


 四書五経の筆頭に上げられる易経は、占筮の書ではあるが、同時に、すべての事象は自然の摂理に従って変化するとして、これを基に、政治、経済、会社等組織、個人の人生に到るまで、あらゆる事象に通じる栄枯盛衰の変化の道理を説いているとされる。特に「易は変を尊ぶ」とし、変化するから成長と発展があるとし、時の変化の原理原則からその兆を察知することの重要性を説いているとされている。

 現代は、天災、地変、人妖の3つが重なり、想像以上の速さと不気味さがある変化と不安の時代で、これに対処するために易経に学ぶことも考えられる。
しかし、難解の書でもあり、とっつき難いと思っていたところ、NHK文化センターの講師である竹村亜希子さんが、人生の大則を知るとして、『”易経”一日一言』という本書を編集・出版された。 
易経に記されている366種類の原理原則をピックアップし、解説されたものであるが、簡潔に書かれ、わかりやすい。この原理原則には “あたり前のこと”も多く、時々読み返してみれば自らの生活を反省する契機にもなり、また、易経を学ぶ端緒にもなると思われる。

 同書に書かれている原理原則を3つばかり紹介する。

 『易は窮まれば変ず。変ずれば通ず。通ずれば久し。』繋辞下伝
物事には生き詰まりが無く、窮まれば必ず変じて化する。変化したら必ず新しい発展がある。それが幾久しく通じるという教え。なお、通じるとは成長するということ。

 『幾は動の微にして、吉凶の先ず見(あらわ)るるものなり。』繋辞下伝
幾とは物事が変化する兆しであり、兆しとは物事が動く前の機微であり、現象に先んじて吉凶の分かれ目が現れるものを言う。
物事が動き変化する前には、必ずそれを知らせる兆候がある。それを直観力、洞察力で察知することが必要という教え。

 『亢の言たる、進を知って退くを知らず。存するを知って亡ぶるを知らず。得るを知って喪うを知らざるなり。』文言伝
賞賛されつづける優れた人ほど危機管理能力を失いやすい。退くことを厭がり、省みることをしぶるのは自分も物事も客観視できなくなったことであるという教え。

 

 

 

ご要望にお応えして、ジャンルを定めない自由評論コーナ ー【私の一言】を設けました。 評論の評論はもとより、社会評論等自由なご意見をお届けします。

アメリカ便り(19)『あたりまえのこと』
濱田 克郎

  ちょっと昔の話である。

 平日は連日の残業や接待で帰宅は遅く、週末は接待ゴルフで殆ど不在、家族との会話も少ないかあっても上の空、“いったい仕事と家族とどっちがたいせつか?”と聞かれても、日本人のAさんの答は“そんなあたりまえのこと聞くなよ”だった。

 自分から口に出して言わなくても相手は分かってくれるということもあたりまえと思っていた。

 身内や組織の恥は口外しない、分からない顔をしていたら誰かが教えてくれる、タバコをポケットから出せばマッチと灰皿が出てくること、 救急車は無料、警官から止まれと言われて逃げても狙撃されないこともあたりまえと思っていた。
会社がつぶれることや、忠誠を尽くせば上司や会社が自分を守ってくれることにも疑念を抱かなかった。

 アメリカ人のBさんは、終業時間になれば残業なしにさっと帰宅、上司に飲みに誘われても謝辞、プライベートな時間を優先し、“いったい 仕事と家族とどっちがたいせつか?”と聞かれることがあっても、答は“そんなあたりまえのこと聞くなよ”だった。

 自分から口に出して言わなければ相手は分からないということや、
“アイラブユー”と口に出すこともあたりまえと思っていた。身内や組織で
も不正があれば正義がなされるべき、分からないことがあったら質問する、
タバコは他人の迷惑になる場所では吸わないということ、救急車は有料、警
官から止まれと言われて逃げたら狙撃されることもあたりまえと思っていた。
会社はつぶれるかもしれないし、自分の身は自分で守らねばとも思っていた。

 適齢期になれば結婚すること、結婚は異性とすること、全力で家族を守ること、約束を守ること、困っている人に手助けすること等はAさんもBさんもどちらもあたりまえと思っていた。

 Aさんは米国に転勤、Bさんは日本に転勤したがそれぞれ今まで自分があたりまえと思ってきたことが新天地では必ずしもあたりまえでないことに驚かされた。

 更に困ったことには、“なぜそうなのか?”と聞いてみても、“そんなことあたりまえじゃないか”と言う返事で論理的な説明はなく納得できない。言葉の理解度とは別に、良好なコミュニケーションの妨げとなることすらあった。

 人は“あたりまえ”と思ったとたん、本当にあたりまえかどうかはさておき、それに疑念を差し挟むこと、合理的な理由を考えることをしなくなる傾向があるのではなかろうか。(或はその逆かもしれない。)“信じる”にも同様 の効果があるように思われる。

 価値観、文化、宗教観、金銭感覚等が共通している狭い共同体の中なら通用する“あたりまえのこと”も、それらが異なる共同体では必ずしも“あたりまえ”ではない。同じと思われる共同体でも時代や背景が変われば変化するかもしれない。

 “そんなことあたりまえ”と自分で思った時には、“自分に取ってはあたり まえだけど相手に取ってはあたりまえじゃないかもしれないな”とか、
“果たして相手に分かるような論理的な説明ができるかな”、と考えるよう
にはしているつもりだが、コレがなかなか難しい。

ところで、AさんとBさんの“あたりまえ”はその後変化したのだろうか。

 

 

 

 

  最近、”あたり前”という言葉が色々出てきます。
例えば、”あたり前のことを、バカになって、ちゃんとやる”の意 の「ABC」という略語がはやっています。
 また、鳩山内閣は、事務次官会議を廃止したり、次官の定例記者会見を中止する方針を決め、これらについて、官僚たたきではなく、政治家が独り立ちして”あたり前”のことを行う第一歩だと理解してほしいと説明されたといわれています。
”あたり前”が色々採り上げられるのは、世の中が変わり目にあることを意味しているのでしょう。あたり前のことを改めて注視したいと思います。
 
 今号もご多忙の中、寄稿有難う御座いました。
(HO)




 
バックナンバー
2012/12/15
2012/12/01
2012/11/15
2012/11/01
2012/10/15
2012/10/01
2012/09/15
2012/09/01
2012/08/15
2012/08/01
2012/07/15
2012/07/01
2012/06/15
2012/06/01
2012/05/15
2012/05/01
2012/04/15
2012/04/01
2012/03/15
2012/03/01
2012/02/15
2012/02/01
2012/01/15
2012/01/01
2011/12/15
2011/12/01
2011/11/15
2011/11/01
2011/10/15
2011/10/01
2011/09/15
2011/09/01
2011/08/15
2011/08/01
2011/07/15
2011/07/01
2011/06/15
2011/06/01
2011/05/15
2011/05/01
2011/04/15
2011/04/01
2011/03/15

2005/03/01

2004/12/01

 
 
 
 
 
Copyright(c)2001-2009 H.I.S.U.I. Corp. All right reserved.
□動作確認はMac OS9.2 + IE5.1にて行ってます。
□当サイト内コンテンツおよび画像の無断転載・流用を禁じます。










SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送