2004年8月1日 VOL.15
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■書評
・『音速弁護士の超巨大がん闘病記』― 佐藤 孝靖
・『新撰組読本』― 鷲 太郎
【私の一言】『定められた筋書き』伊藤
友美
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『音速弁護士の超巨大がん闘病記』
著者:福島正 出版社:文芸社 03年8月刊
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佐藤 孝靖
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タイトルにある「音速弁護士」とは、著者の書類作成方法が独特で、音速のように手早く仕上げるためにそう呼ばれているらしく、この本はパリパリの弁護士さんが自ら綴る、驚くべきがん克服記である。
腰に強い張りを感じながら1年間ほど放置し、がんを告知されたときは、すでにお腹のがんは20センチにもなっていた。このがんの正体が、13年前の精巣腫瘍(セミノーマ)が再発した後腹膜腫瘍(後腹膜のリンパ節のがん)だと判明するのは、ずっと後のことになる。
著者はそれまでのがんに対する知識から、「現代医学の最先端のがん治療を受けても、もはや助かる見込みがない」と思い、手術や抗がん剤治療、以外の途を模索し始める。妻が友人から借りてきた「医者のすすめる尿療法」(佐野鎌太郎著、徳間書店)に啓発され、その作者が経営するユニークな佐野外科医院に入院する。ところがその佐野医院の勧めで、地域の大学病院で手術を受けることとなり転院するが、そこで手術の代わりに抗がん剤治療を受ける羽目になる。それが劇的効果を挙げて、佐野医院に戻る。それから近大病院腫瘍免疫等研究所の検査で、がんが完全に消滅したという「CR」の診断をもらうまでの、約2年間の壮絶な闘病記だ。様々な治療法、きわどい診断など手に汗にぎる。
評者はこの本を、私立医大の常務理事をしている親友から紹介された。親友はこの本の作者に仕事を依頼している関係だそうで、「このような大病を抱えながら仕事を続けていたとは知らなかった」とのこと。そういえばこの著者は家庭にダウン症児を抱えているが、家族全員が何の気負いもなく手分けしてその子の介護にあたり、小さなことにクヨクヨせずに、少しでも余裕が出来れば、すぐにでも遊びたくなるいろいろな“趣味=生きがい”を有しており、まばゆいばかりの生き方にも教えられる点が多い。
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『新撰組読本』
著者:司馬遼太郎他・日本ペンクラブ編 出版社:光文社文庫
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鷲 太郎
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新撰組ブームである。
新撰組は、当時の日本にはない機能的組織で、また、隊長の近藤勇をはじめ幹部は個性的であり、その一途な生き様は共感を呼ぶものがあった。しかし、敗軍であり維新後しばらくは存在が無視されたが、歴史の真実を知りたいという日本人の願望も加わり、子母澤寛の新撰組始末記(昭和3年)が刊行されて以来、戦後は司馬遼太郎をはじめ多くの作家により、その歴史が掘り起こされ、現在テレビの影響もあり、第3次ブームの最中である。
新撰組は、文久・慶応年間のころ、幕府の命により、時の京都守護職・会津参議の松平容保の下に付属し、近藤勇が隊長に就任以後は、責任の重さを自覚、隊規を護り守護職の命を奉じて行動した適法の警察隊である。
一方、志士と称した過激派の浪人らは、この新撰組の取締りを受け、勝手な振舞いが出来ず、多くの犠牲者も出したため新撰組を不倶戴天の敵とした。
維新後これら浪人と同系統の人々が新政権を握ったため、例えば近藤勇の場合、罪は、甲州勝沼における一戦と関東で戦闘準備をしたということにとどまるが、新政府は、京都に於ける勇の適法行為までも犯罪とし、断罪に処し、首を京都でさらした。
これは、新撰組が坂本竜馬・中岡慎太郎を暗殺したという誤解に基づく土佐藩の復讐の一念からの私怨に他ならないが、敗軍のためこのような結果となる。
何時の時代も、勝てば官軍であり、官軍の行動が歴史上の正史となる。
歴史には、敗軍であるがため、正しい主張が取上げられず、事実が無視され、あるいは曲解され、葬り去られる“もう一つの歴史”がある。
本書は、子母澤寛、司馬遼太郎、池波正太郎等日本の代表作家の新撰組関係作品を編纂したもので、当時の歴史的背景、人物観と共に、薩長史観ではない“もう一つの歴史”がさまざまな角度から画かれ、各編とも面白い。
われわれにもう一つの歴史を意識する重要性を教えてくれる本でもある。
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