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■2010年5月15日号 <vol.154>

書評 ─────────────

・書評    川村 清 『2時間で教養が身につく 日本史のツボ』   
            (童門冬二著  青春新書)
 
・書評     前川 彬 『ベートーヴェンの生涯』
            (青木やよひ著  平凡社新書)
                              
・【私の一言】幸前成隆 『郷源は徳の賊なり』



2010年5月15日 VOL.154


『2時間で教養が身につく 日本史のツボ』
(童門冬二著  青春新書)

川村 清   
生きた日本史のツボがつかめると表題のついている本著は一読して「なるほ
ど」と思わせる点を幾つか提示してくれる。

特徴は、時々の歴史を『主権の流れ』として捉える・・一般生活者が生きて
行く上で必要なモノやサービスを実質的に支配できる力を持っているのは誰
か、つまり政治の主人公は一体誰かと言う視点から見てゆこうとする。

著者は日本の政治変革事件が3回あったという。大化の改新(645年)、建武
の新政(1334年)、明治維新(1867年)で、いずれも天皇に主権が戻った変
革である。600年下がっていた主権が逆上昇して大きなうねりを見せる。蘇
我氏に代表される豪族から天皇に公地公民の形で主権が移り、天武帝の専制
が始まったが、律令制の形をとりつつも摂関政治の藤原氏が栄えて主権が分
解する。やがて武士が台頭して源平の争いとなり、鎌倉幕府が潰えて建武の
中興となる。やがて足利氏は北朝を立てて天皇親政は崩壊する。

一時的に主権を回復しても、その後の設計図もなく、人材も乏しいために長
続きしない。応仁の乱、下克上の時代、戦国時代を経て信長、秀吉、家康に
時代が移る。この3人の性格、能力の対比は大変興味深い。巧妙に作られた
徳川幕府の行政機構は、基本的には分断を第一とし、安定的に運営できるよ
うに設計されていたが、人口の江戸集中と、高度成長と所謂改革の繰り返し
は人心を疲れさせ、特に徳川家斎のバブルのあとの天保の改革は幕府に対す
る庶民の怒りを引き起こしたために明治維新は天保に始まったといわれる。

1853年ペリーの率いる黒船の来航は、もとは中国との貿易を目的にして
いたものを、薪炭、水、食糧の供給を受ける中継点として日本を考えていた
のだといわれている。周章狼狽の幕府は、老中首座阿部正弘がフィルモア大
統領の国書を和訳させてバラまき、国論を沸騰させる。統治力の弱っていた
幕府に対し、密貿易や藩内改革などで力をつけていた雄藩を巻き込んで開国
か攘夷の幕末動乱の時代を迎える。結局は薩長土肥の藩閥政府に至って27
0年続いた徳川幕府の私政府が終わりを告げる。

こうして出来上がった天皇親政よる新政府は、西南雄藩の下級武士の力によ
るものであったが、太政官制のもと、下級武士たちは要職につき、武士の貴
族化が始まった。山県有朋の作った官僚制に対して、困窮する下級武士を援
助せよと言う西郷隆盛の怒りは徴兵制に象徴される新制度に押さえ込まれて
ゆく。

歴史は繰り返すのである。



『ベートーヴェンの生涯』
(青木やよひ著  平凡社新書)

前川  彬   


著者は、昨年11月82歳で死去され、本書は、昨年12月に発刊されてい
るから、これは遺作ということになる。クラシック・ファンで最も好きな作
曲家としてベートーヴェンを挙げる人は多いが、その専門家でもないのに
(著者は女性学が専門である)、ここまでベートーヴェン研究に取り組んだ
人は稀であろう。「あとがき}によれば、ベートーヴェンとの出会いは、著
者が18歳の頃、戦後の混乱期に彼の晩年の『弦楽四重奏曲第15番』を聞
いて、人間として生きる意味の啓示を受けたことに始まるというのであるか
ら、これは、終生の研究テーマついて著者の考えを集大成したものといえよ
う。

著者は、本書によって、ベートーヴェンがどのようにしてあのすばらしい音
楽を作り出すことができたのかを、時系列で物語風に描いている。その生い
立ちにはじまり、その時々の恩人・友人・恋人、そして彼の音楽や人間形成
に影響を与えた人々を紹介し、周辺にいた人の証言も交えて、この希代の天
才作曲家の人となりを浮き彫りにしている。それは、これまで定着してきた
「陰気で悲劇的な英雄」という人間像とは相当違っているが、それこそが従
来の誤ったベートーヴェン像を一掃したいという著者の思いなのである。

時系列的には、彼の56年の生涯を五つに区分して書いているが、最も力が
入っているのは最終の第5章「人類へのメッセージ」である。ここでは、晩
年(48歳以降)の作品である『交響曲第9番(合唱付)』や6曲の『弦楽四
重奏曲』には彼からの人類に対するメッセージが込められているとしており、
そこに著者の思い入れの強さがよく表れている。前者の曲は、「ベートー
ヴェンという一個の人間の中に宿った思想が、人類普遍の願望と夢と、そし
て希望となって音楽的に具現した奇蹟のように思われてくる」と言う。また、
後者の曲は、「自らは一個の矛盾のかたまりのまま、星星の輝く天空の下で、
宇宙という大洋に身をゆだねて、時にはそれと戯れているかのよう」であり、
「人間存在の究極の意味がそこに感じられる」と言うのである。さらに、彼
は臨終の直前に、目をかっと見開き、天の方を凝視しながら、しばらくの間
右手の拳を高くかかげたのであるが、そのことにも著者の独自の解釈が展開
されている。

巻末には、出典や参考文献など詳しい解説があり、また「略年表」(ベート
ーヴェン関係、主要作品、関連事項)も用意されており、読みすすむ上でた
いへん便利である。

 

ご要望にお応えして、ジャンルを定めない自由評論コーナ ー【私の一言】を設けました。 評論の評論はもとより、社会評論等自由なご意見をお届けします。

郷源は徳の賊なり
幸前成隆

「郷原は、徳の賊なり」(論語・陽貨)。えせ君子は、徳を害するものだ。
礼子の言葉である。

礼子は、似て非なるものを悪まれる。似て非なるものは、一見してその非が
分からないから、害が大きい。古註に、「真の非は、もって人を惑わすに足
らず。是に似て非なるものは、最ももって人を惑わし易し。故に、夫子、
もって徳の賊となす」とある。

 孟子・尽心章句下に詳しく出ている。

 万章が、孟子に、郷原とはどういう者をいうのかと尋ねた。

 孟子が、答えられた。曰く、「この世に生まれては、この世をなさんのみ。
善ければ可なりと、閹然として世に媚びる者は、これ郷原なり」。この世に
生まれては、評判さえよければそれでよいではないかと、媚び諂う者が、郷
原だ。

 万章が、重ねて聞いた。「一郷、皆原人と称し、往く所として原人たらざ
るなきに、孔子、徳の賊となせるは、何ぞや」。村中の評判がよく、また、
行いもよいのに、どうして孔子は徳の賊と言われるのでしょうか。

 孟子、曰く。「これを非とせんとするも挙ぐべきなく、これを刺らんとす
るも剃るべきなし。流俗に同じくし、汚世に合す。居ること忠信に似、行う
こと廉潔に似たり。衆、皆これを悦び、自らもって是となす。しかも、とも
に蕘舜の道に入るべからず。故に、徳の賊というなり」。表面をよく飾り、
ぼろを出さず、迎合して、忠信廉潔のように振る舞うので、世間ももてはや
し、自らもよしとしているが、蕘舜の道には入れない。だから、徳の賊とい
うのだ。

 

 

民主党による前回の事業仕分けで、スーパーコンピューターの開発予算はそ
の段階では事実上の凍結になりました。この時の質疑で、”世界一にならな
ければいけない理由はなにか、2位ではいけないか”という質問がありこれ
がその後の議論に影響を及ぼしたように思います。

しかし、今の日本の問題は何事にも一番になるという意欲が欠けつつあるこ
とでないでしょうか。先日の石川遼選手の和合ゴルフクラブでのプレーは、
一番になるという意欲の重要性を教えてくれたように思います。今一度一番
の意味を考える時が来ていると思いますが。

今号も多面的なご寄稿有難う御座いました。(HO)




 
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