生きた日本史のツボがつかめると表題のついている本著は一読して「なるほ
ど」と思わせる点を幾つか提示してくれる。
特徴は、時々の歴史を『主権の流れ』として捉える・・一般生活者が生きて
行く上で必要なモノやサービスを実質的に支配できる力を持っているのは誰
か、つまり政治の主人公は一体誰かと言う視点から見てゆこうとする。
著者は日本の政治変革事件が3回あったという。大化の改新(645年)、建武
の新政(1334年)、明治維新(1867年)で、いずれも天皇に主権が戻った変
革である。600年下がっていた主権が逆上昇して大きなうねりを見せる。蘇
我氏に代表される豪族から天皇に公地公民の形で主権が移り、天武帝の専制
が始まったが、律令制の形をとりつつも摂関政治の藤原氏が栄えて主権が分
解する。やがて武士が台頭して源平の争いとなり、鎌倉幕府が潰えて建武の
中興となる。やがて足利氏は北朝を立てて天皇親政は崩壊する。
一時的に主権を回復しても、その後の設計図もなく、人材も乏しいために長
続きしない。応仁の乱、下克上の時代、戦国時代を経て信長、秀吉、家康に
時代が移る。この3人の性格、能力の対比は大変興味深い。巧妙に作られた
徳川幕府の行政機構は、基本的には分断を第一とし、安定的に運営できるよ
うに設計されていたが、人口の江戸集中と、高度成長と所謂改革の繰り返し
は人心を疲れさせ、特に徳川家斎のバブルのあとの天保の改革は幕府に対す
る庶民の怒りを引き起こしたために明治維新は天保に始まったといわれる。
1853年ペリーの率いる黒船の来航は、もとは中国との貿易を目的にして
いたものを、薪炭、水、食糧の供給を受ける中継点として日本を考えていた
のだといわれている。周章狼狽の幕府は、老中首座阿部正弘がフィルモア大
統領の国書を和訳させてバラまき、国論を沸騰させる。統治力の弱っていた
幕府に対し、密貿易や藩内改革などで力をつけていた雄藩を巻き込んで開国
か攘夷の幕末動乱の時代を迎える。結局は薩長土肥の藩閥政府に至って27
0年続いた徳川幕府の私政府が終わりを告げる。
こうして出来上がった天皇親政よる新政府は、西南雄藩の下級武士の力によ
るものであったが、太政官制のもと、下級武士たちは要職につき、武士の貴
族化が始まった。山県有朋の作った官僚制に対して、困窮する下級武士を援
助せよと言う西郷隆盛の怒りは徴兵制に象徴される新制度に押さえ込まれて
ゆく。
歴史は繰り返すのである。
|