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2005年12月1日 VOL.47

 

 

『男性自身 木槿の花』
著者:山口瞳    出版社:新潮文庫

今村 該吉 
 最近は新刊書をさっぱり読まなくなり、むかし読んで感心した本や、当時は歯が立たず、いずれ読むかと退蔵していたしたものを書架から引っ張り出してきては読んでいる。
 この「木槿の花」もこれまで何度読んだことか。週刊新潮に連載された「男性自身シリーズ」は都合30冊ぐらいはあろうが、その中でもこの「木槿の花」は最高傑作であり、著者57歳の脂の乗り切った時期のものである。最初の1章「一粒で三度」から「木槿の花(8)」までの11章、90ページに亘る部分は作家、向田邦子の直木賞受賞による颯爽たる登場から、飛行機事故による不慮の死までのことを綴っている。最初の作家の意図は第3章「戦友」で終わりにするつもりであっただろうが、書き尽くせなくてその後に「木槿の花(1)から(8)まで続けた。
 通夜の席で山口がいたたまれなくなって、軍歌「戦友」を歌う場面がある。途中で声が詰まって歌にならない。
「おい、豊田さん、頼むよ、俺、この後知らないんだから」
 私は、かろうじて、次の歌詞を思いだした。
<思いもよらず我ひとり
 不思議に命をながらえて
「豊田さん、それから何だっけ。・・・・おおい、神山、助けてくれよ」
神山茂も中学の後輩である。
「ああ、そうか、わかった」
<赤い夕日の満州に
 友の塚穴掘ろうとは
その夜の軍歌「戦友」は、だから、そこまでで終わった。
 私はこの箇所を読むたびに、音痴な山口が懸命に歌い、同席していた、吉行実子、いしだあゆみは目を赤く泣き腫らし、男たちは絶句し、何かをこらえているシーンを思い浮かべて、こちらまで胸が熱くなってしまう。
これはまさに山口瞳の向田邦子への鎮魂歌である。
 なおこの文庫はなかなか書店で手に入らないが、最近発行された同文庫の「男性自身傑作選 熟年編」に一部分だけ収録されている。残念ながら肝心の「戦友」は入っていない。



『映画「ALWAYS三丁目の夕日」』 上映中
監督:山崎貴 キャスト:吉岡秀隆、堤真一、小雪、堀北真希

片山 恒雄 

 昭和33年の春、青森から先生に引率されて集団就職に向かう一団。希望と不安の織り交ざった一人の少女を上野駅に迎えたのは、鈴木オートの社長。従業員も置かず自動車の修理工場を営む気の短い男で、「特技は自動車の修理」と書いてあったのを見込んで採用したものの、「ジャッキを持って来い」と言われ、どの道具かわからず、うろうろする少女に向かって、「ジャッキも知らないのか。お前は詐欺だ。」と怒鳴り、少女は恐ろしさのあまり向かいの駄菓子屋に逃げ込み、押入れに隠れる。その父を追いかける息子は「特技は自動車の修理ではなくて、自転車の修理と書いてあるよ。」と言って履歴書を見せる。父は素直に少女に謝る。
 その少女が逃げ込んだ駄菓子屋の主人は、文学賞を狙っているものの落選を繰り返す貧乏文士。ほのかに思いを寄せる居酒屋の女主人から、もてあましている小学生の養育を懇望されて引き取り、三人での水入らずの生活を夢見る。
 昭和33年といえば私の就職した年である。戦後の混乱が色濃く残る東京の下町で、路面電車の横をミゼットが疾駆し、力道山のプロレスのテレビ中継に近所の人々が集まり、土管の転がっている空き地ではフラフープが流行している。おりから東京タワーが劇の進行につれて立ち上がっていく。
 その年の暮れ、クリスマスプレゼントにもらった青森行きの切符を手に、はじめて帰郷する少女をミゼットに乗せて家族中で見送る中、夕日を背景にその年完成した東京タワーがそびえたっている。その夕日を同じように眺める文士と居酒屋の女主人と小学生の三人。
 日本が高度成長期に入る前夜で、人々は豊かさを求め、三種の神器(テレビ・電気洗濯機・電気冷蔵庫)をそろえることを夢見ていちずに働きながらも、互いに心が通じ合っていた時代。物質的には豊かであっても、おれおれ詐欺やカード詐欺、老人をだますリフォーム詐欺、悪質化する少年犯罪といった現代の世相と思わずひき比べてしまう。いったいどちらが幸せな時代なのであろうか。



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『首相の靖国問題  一人の国民の感想』
櫻田 薫
最近のテレビ朝日で民主党の小沢さんは、次のように首相を批判した。「小泉さんが胡錦涛首席との会談で靖国参拝を見送ってくれと言われた時に、「分かった、適切に考える」と答えたが、その後に靖国参拝をしたので中国人は小泉さんをウソツキと怒っている。分かったなどと言うから相手は騙されたと思う、本音で話さないと信頼関係は生まれない」と。『(分祀を)検討する』という表現も同じだが、日本人が外国人と対話して真向からぶつかるような議論を避けて曖昧にする傾向は確かにあるから、小沢さんの話しももっともだという気がする。『本音で話し合わねば信頼関係は生まれない』とも述べているが、小沢さんは靖国参拝に反対しているわけではないようなので、議論をしても参拝の正しさを主張すべしと言うことだろう。小沢さんほどの方が言うのだから激論になっても両国の間で決定的な対立には発展しないという根拠もあるのかもしれない。首相は、いつも「過去の戦争の美化や正当化ではなく、多くの戦没者に対する哀悼の念から参拝している」と説明しているので、胡首席にも同じ説明をしたと思われるが、小沢さんの意見は、「相手の主張を分かる」などと言わず、小泉さんに強い信念があるなら反論すべきだった、ということだ。胡首席が簡単に納得するとは思えないが、個人的な気持ちを述べるだけではパンチが足りない。国を代表するトップ同士の対話は、『小沢さんレベルで本音を話す』ほど簡単ではないだろうが・・・・・。靖国問題については、国民の多くは参拝もしないし、各方面の専門家ほど深く考えもしないが、外国からやかましく介入されることに不快感がある。国のトップ同士がフランクに議論して外交関係がよくなるなら、それに越したことはない。中韓の首脳の態度はともに国内向け政治であって、一般国民の考えとは必ずしも同じではないという説があるが、それが正しければ、首脳間で議論が対立しても、「この問題に限られるなら」そのほうが両国の友好に繋がると思う。




 
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