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2005年7月1日 VOL.37

■書評
・『国家の罠』― 板井 敬之 
・『鎮魂 吉田満とその時代』― 岡本 弘昭 
【私の一言】 『シンガポール便り(5)― 隣国とのお付き合い』岡田 桂典

 

 

『国家の罠 ─ 外務省のラスプーチンと呼ばれて』
著者:佐藤優  出版社:新潮社刊

板井 敬之  
 本書は、鈴木宗男事件に関連して逮捕・起訴され、一審で「懲役2年6ヶ月、執行猶予4年」の判決を受けた佐藤優元外務省主任分析官による『拘留記』である。本年3月25日に第1刷が出たが、あっという間に売り切れ、4月5日に第2刷が出たが、これまた品切れとなる本屋が多かった。私にとっては久々に入手に苦労し、寝る間を惜しんで読んだ本である。
本書の『結論部分』と思われる第6章に向けて、序章から5章までの各章を収斂させていく構成力や、文中で描かれている“情報マン”としての類まれな仕事振りは、著者の傑出した能力を余すところなく示している。著者を「背任」および「偽計業務妨害」容疑で取調べた西村検事とは、互いに能力を認め合い、立場の違いを超え、人間としての信頼感を共有するまでになる。“国家権力”が、鈴木宗男事件によって著者の外交官生命を奪ったのは、“わが国”にとって大いなる損失ではなかったのかとさえ思わせる。
「国策捜査」についての西村検事とのやり取りや、“被告人最終陳述”における「1.その国家的意義、2.同じくマスメディアとの関係、3.組織防衛に名を借りた自己保身最優先の外務省幹部のそれへの便乗」等への言及によって「国策捜査」なるものの本質が明らかにされ、大変に興味深い。
「評論の宝箱」読者各位にご一読をお薦めする所以である。



『鎮魂 吉田満とその時代』
著者:
粕谷一希  出版社:文春新書

岡本 弘昭

 「吉田満」氏は、学徒出身の海軍少尉として戦艦大和に乗務しその特攻出撃に参加、九死に一生を得て生還した。その体験を綴ったのが“戦艦大和ノ最期”という記録文学である。同氏にはそのほか“提督伊藤整一の生涯”などの著書があるが、これらを通じ、一貫して太平洋戦争の意味、及びその遺産はなにであったかを問い続けている。
 本書の著者粕谷一希氏が、その理由を吉田氏に問うたところ、“日本人は、戦中・戦後の一貫したアイデンティティを喪失し、日本民族の集団であり、民族としての過去の記憶である歴史の意味をはっきりと把握することなく今日まで終始しており、これが国家観を確立できない理由で、同時に、今日の不安と混沌の一因を為している。この解決には、戦争の原因、経過、結末を客観的に分析しアイデンティティを確立する必要がある”ということであった。
 吉田満氏の友人である本書の著者にも共通の認識があり、本著は、今後の日本の方向を知るためにも、吉田満氏の生きた時代を尋ね、その時代の吉田満氏という人格を核とし、同氏の問いに対する展望をおこなうことを企図して書かれた伝記であり、追悼の書である。
 本書後半に紹介されている“戦艦大和ノ最期”は、当初の発刊時には戦争肯定、軍国主義鼓舞の文学ということから発禁処分となった経緯がある。
これは、当時の社会を包んだ全体の雰囲気が原因であるが、物事の評価は、全体の雰囲気により、ゆれ動くものである。それだけに、事実については、客観的分析・把握が不可避であり。同時に、評価の客観性のためにも日本人のアイデンティティの確立が望まれることは本書の指摘するところである。
 戦後体制の総決算の声も高まり、また歴史的認識問題、時代の変革期からくる様々な社会的事象の評価等が問題となっている今日、本書は示唆の多い時宜を得た出版である。




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シンガポール便り(5)― 隣国とのお付き合い』
岡田 桂典

 隣国と仲が悪いのは世界の通例ですが、シンガポールはとても“利巧”に隣の国々と付き合っています。インドネシアは2億の人口、広大な地域に島嶼が散らばっています。この国との「貿易統計」はありません。お金を動かすのは自由ですし、隔たる海は台風もなく静かです。もうお分かりでしょう。みんな上手く儲かるようになっているのです。
もう一つのお隣さんはマレーシアです。紛争の種は山ほどありますが、必要に応じて“喧嘩の種”をもお互いに上手に使う“阿吽の呼吸”は芸術的です。一例です。マレーシアの総選挙が近づくと、シンガポールのお偉方がマレーシアの悪口を言ったり、自国の利益を強調したりします。マレーシアのマスコミは大騒ぎ、かくて与党が大勝利となるわけです。
さて、日本の隣人どものうるさい事。中国は日本と違って「不言実行」よりも[有言不実行]の方が大事な国です。それゆえ、共産党内では“相手を言い負かす”ことが生存の条件になります。中国も韓国(中国文化の信奉者)も政権は不安定ですから、自己の有用性を党内・国内に示す為に“金持ち喧嘩せず”の日本は“有言”である為の格好の標的なのです。“男は黙ってビールを呑む”日本人が[論戦]に巻き込まれたら勝てるはずがありません。
「惚れられて結婚して損したわ」という“歴史認識”に旦那は嫌気しますが、奥方に何かと搾られます。それと同じく両国の真の狙いは日本をいろいろ“恫喝”し、気後れした日本側から様々な譲歩を得ることだといわれます。雑誌[選択]の6月号に、小泉さんは[政冷経熱]でも何も困らない、靖国参拝を対日攻勢を食い止める為の[防波堤]と位置づけているという記事がありました。結構な事ですが、お互い“芸”も“味わい”もありませんね。  
島国は大陸の国々に深入りしてはならない、英国に学べという説があります。島国の良き友人は島国だということでしょう。米・カナダ、台湾、比国、インドネシア、豪州・ニュージランド、シンガポール。つまらぬ文句を言わないマレーシア、タイも入れましょう。





 
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