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■2010年12月15日号 <vol.168>

書評 ─────────────

・書評    丸川 晃  『美しき姫君 /発見されたダ・ヴィンチの真作』
             (マーティン・ケンプ/パスカル・コット著 
              楡井 浩一 訳  草思社) 

・書評    岡本弘昭 『原因と結果の法則』
            (ジェームスアレン著 坂本貢一訳 サンマーク社)

【私の一言】 吉田龍一 『隻手音声(せきしゅおんじょう)』


 



2010年12月15日 VOL.168


『美しき姫君 /発見されたダ・ヴィンチの真作』 
(マーティン・ケンプ/パスカル・コット著 楡井 浩一 訳 草思社)

丸川 晃   



2008年、小さな子牛皮紙(330*239mm)に、チョークとインキで描いたひ
とりの少女の横向き顔の肖像画が、様々の最新技術を駆使して鑑定した結
果として、何とレオナルド・ダ・ヴィンチの描いた傑作であることが検証
されたという。本書は、この鑑定に携わったオックスフォード大学美術史
名誉教授をはじめ、デジタル写真技師、絵画修復士、指紋鑑定家などによ
る共書で、この絵の鑑定手法および経過を詳細に記述した、ある意味では
この『書評欄』に投稿するのはどうかと思われる専門書的なものかもしれ
ないが、筆者の趣味が高じて、最新の絵画鑑定技術水準を示す図書として
興味を持った結果ということで、ご容赦賜りたい。

それ迄は19世紀のドイツ人贋作作者の作品とされていたこの絵が、たまた
ま1998年にNYのクリスティ・オークションに出品され、これが唯の2万
1850ドルで競り落とされた後、ヨーロッパに渡って、2008年に当時の所
有者から鑑定に持ち込まれ、超解像度のデジタル画像撮影の外、赤外線画
像やマルチスペクトル解析など最新技術を駆使した分析の結果、ダ・ヴィ
ンチの眞作に間違いないことが判明した。

ダ・ヴィンチの作品が21世紀初頭に発見されるなんていうのは、希有の上
にも希有の出来事であるから、当然眉に唾を付けたくなるので、本書によ
り、彼の作品であると断定された経緯を簡単にトレースしてみよう。
先ず、この作品の制作時期および描かれた婦人を推定する。この絵が描か
れた子牛皮紙が放射性炭素年代測定にかけられ、95.4%の確率で、1440年
から1650年間のものという判定が出た結果、この作品が1490年代中盤に
作成されたとの説は裏付けられた。また当時のミラノは、ダ・ヴィンチの
パトロンであったスフォルツァ家(通称イル・モーロの時代)の全盛期であ
り、かつ、人生の節目(例えば婚約)を記念して横顔を描くことが貴婦人の
証とされる時期であったことから、イル・モーロ周辺の女性から推して、
彼の妾が産んだビアンカ(13、4才で結婚、同年腹部の激痛で死去)ではな
いかと推定する。以上から、ダ・ヴィンチがミラノ在住時代に描かれた絵
であることは殆ど間違いないとされた。

次に、この絵に用いられた画材と画法についてである。この絵は、白、赤、
黒三色のチョーク(このチョークとは、現在のコンテのようなものらしい)、
および薄茶色のインクという、それ程便利ではないのではと思われる画材
を用いている。この絵が描かれたと推定される15世紀末当時は、既に油絵
も出現していたし(1497〜98年作成の『最後の晩餐』は油絵の一種のテン
ペラ画)、クレヨン、その他もあったらしいが、ダ・ヴィンチは、基本的な
輪郭と影とを黒チョークで描き、そこに濃茶色のインクでアクセントをつ
け、緑色は黄色の子牛皮紙に黒チョークをすり込んで出すなど、彼特有の
テクニックが駆使されているという。更に、羽ペンで茶色のインクを使っ
て、精密な斜線で輪郭、影などを強調しており、特にこの斜線は、左利き
のダ・ヴィンチ特有の流れになっていた。また、顔の大きさと顎、首の長
さなどとの比率は、ダ・ヴィンチが主張した黄金法則通りであった。
更に最新のデジタル撮影技術によって、520年も昔のダ・ヴィンチのこの
作品から、彼の指紋までが発見されたというのは、ロマンである。
 
本書の最後で、本鑑定を主導したオックスフォード大名誉教授ケンプ氏は
云う。『美しき姫君』の鑑定の結果、この絵が本当にダ・ヴィンチの作品
だという決定打となる証拠は何もなかった。有名な『モナ・リザ』がダ・
ヴィンチの作品であり、1503年以降長年月かけて完成されたという通説に
も、何の証拠もない。しかし、幾つかの情報を結びつけた結果、今ではダ・
ヴィンチの作品であることは疑いの余地はないものとなっており、『美し
き姫君』の場合も同様であるという。
 絵画の鑑定も、一種の情報処理の問題であり、また一種の興味ある探偵
物語であるという感を深くした次第である。


『原因と結果の法則』 
(ジェームスアレン著 坂本貢一訳 サンマーク社)

岡本弘昭   


著者ジェームズ・アレンは、19世紀末から20世紀初めにかけてのイギリスの
著述家。代表作の本書"As A Man Thinketh"(日本語訳「原因と結果の法則」)
は、過去1世紀にわたって、英語圏では聖書に次ぐベストセラーといわれて
います。デール・カーネギーなど、現代自己啓発の祖たちにも影響を与えた
といわれています。
著者は、仏教の影響を受けたといわれていますが、この本の骨子は、よきに
つけ悪しきにつけ心の中の「思い」が原因となり、環境や健康と病気、成功
や失敗、富や貧困、喜びや悲しみといった結果をもたらすし、また、成功す
るには、気高い夢を見て目標をもち、成功を願うだけではなく、欲望を犠牲
にし「自分はそれを達成できる」という信念をもって努力をしなければなら
ないと教えています。

因果応報の法則という言葉を身近に知っている日本人にとっては、読めば
「当たり前」と感じる面もあります。
しかし、現代の日本は、何事も他人や環境のせいにしがちな風潮があり、
このままでは、社会崩壊もあり得ると考えられます。我々は、今の諸現象
はすべて自分の行動や考えの結果であることを改めて認識する必要があり、
改めて原理原則である「自己を見直し、自己の責任」を確認し、社会生活
を考え直すべきときにあるといえます。将来が見えず閉塞感のある現在の
日本人が、大切な原理原則を再確認するために、本書は読みやすい事もあ
り、大変に参考になると思われます。

なお、環境に関して、「私たちの環境を創っているのは、私たち自身であ
る」ということに加え「私たちは良い結果に狙いを定めながらも、その結
果と調和しない思いをめぐらすことによって、その達成をみずから妨害し
続ける傾向がある」という文章がありますが、これも考えさせられる重要
な指摘と思われます。

 

ご要望にお応えして、ジャンルを定めない自由評論コーナ ー【私の一言】を設けました。 評論の評論はもとより、社会評論等自由なご意見をお届けします。

『隻手音声(せきしゅおんじょう)』
吉田龍一

臨済宗・中興の祖とされる白隠慧鶴(はくいんえかく)禅師の公案(修行者を
思慮分別や日常的な思考を超えた悟りに導くための問い)のなかに、
「両掌相打って音声あり、隻手に何の音声かある」(白陰全集)があります。
「隻手」とは片手のことを指しますが、両手を打つと「パン」と音が響きま
す。しかし、片手の場合の音を聞けという意味で、打てない片手の音をどう
やって聴くか?それまで当然と思っていた思慮分別を根本から疑い、理屈や
言葉を超えたものと対峙し、我々自身で定めた「常識」を根本から疑わせ、
理屈や言葉を超えた「何か」と向き合う事を考えさせる問いだそうです。

生活が便利になり、合理的なルールが整備されるに従って、日常生活は、
「昔からそうだから」という常識、「こうあるべき」という思い込み、定型
的な言葉などでルーティン化し、大切な事が覆い隠されてしまう事がままあ
ります。
このため、一旦は、自分に都合良く解釈された「常識」や「思い込み」を忘
れ、原点に戻って自分に向かって無言で訴えているメッセージを聞く必要が
あるということのようです。

最近のわが国は何十年に一度起こるか起こらないかという難題に取り囲まれ
ています。このような時期こそ、国民全員が特に施政者がこの国の先行きに
ついて、これまでの思考や想念や感覚を払い去り、原点に立ち戻って将来を
真剣に考えていくべき時期にあると思われます。
本来のリーダーの出現が待たれる昨今です。
 

 

 

いよいよ本号が、今年最後の号となります。
この1年、順調に発刊できましたのは、ご寄稿者ならびに読者の皆様のご支
援の賜物と心から御礼申し上げます。
最近は世代に関係なく難問山積の時代のように思われます。こういう時代
でもあり来年は”書評”はもとより”私の一言”にも力点を置いていきたいと
考えております。ご寄稿のほど宜しくお願い申し上げます。
皆様にとり新年がよい年となることを祈念申し上げます。(HO)






 
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