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■2010年4月1日号 <vol.151>

書評 ─────────────
 
・書評   稲田 優  『金融危機にどう立ち向かうかー
            「失われた15年」の教訓』
            (田中隆之著   ちくま新書)

・書評   新田恭隆  『暴走する脳科学』(河野哲也著 光文社新書)

・【私の一言】岡田桂典 『最近感ずること』


 



2010年4月1日 VOL.151


『金融危機にどう立ち向かうか----「失われた15年」の教訓』
著者:田中隆之   出版社:ちくま新書
稲田 優   
 著者は銀行エコノミストから10年前に専修大学に転じた気鋭の学者で、08年11月に日本経済新聞出版社から『「失われた十五年」と金融政策」なる本を刊行した。
 本書はその新書版という意味のほかに、その後のサブプライム問題をきっかけとするとする世界的な金融危機、それに対する世界各地の異例な対策がどのような狙いと効果をもつのかという問題意識で、「失われた15年」の時期の日本の経験を整理しようとしたものである。
 この間、金融政策安定化のための政策(プルーデンス政策)はようやくその体系を整えた。日本の貴重な経験、金融、財政、プルーデンスの3政策の展開が丁寧に分析されている。
 日本では現下のデフレ懸念の景気のさなか、政府による安易な日銀批判、もしくは日銀への景気対策のつけ回しのような発言が散見される昨今だが、冷静な議論が望まれる。
 
 なお「あとがき」に記述されている著者のこの本に対する意気込みは好感が持てる。
 「(自分は)大学院におけるアカデミシャンとしての専門教育を受けていない。ただし、民間エコノミストとして生の経済に接し、現実の事象やデータの中からファクト・ファインディングを行うというトレーニングを積んできた。このような者が、大学で研究を行い、学生を教える立場に立ったとき、いったいどのような貢献をすることが出来るのか。本書はこの問いに対する、現時点での回答でもある。」

『暴走する脳科学』
 著者:河野哲也   出版社:光文社新書

新田 恭隆   


 21世紀は脳科学の時代だと言われている。20世紀前半の量子力学、相対性理論など物理学の成果、1953年のワトソン、クリックによるDNA二重らせん構造提唱以来の目覚しい生物学の発展、医学の進歩などを経て、いよいよ人智の要である脳の研究が始まった。
 脳研究の対象は、医療分野に留まらず非侵襲的脳機能計測手法の発展で感情、思考、認識、言語等高次の脳機能解明に向かっている。(「非侵襲的機能計測」とは外部から体を傷つけないで観察することで、PET、MRIなどで実用化されている。それにしても医学ではなぜ侵襲的などという難しい言葉を使うのだろう。)

 ところが脳の場合には、病気を治して元の体に戻す治療を超えた分野にまで研究が進む恐れがあるところに他の諸科学の発展と異なる問題が生じてくる。それは、人間改造の領域にまで脳科学が足を踏み入れることが懸念されるからである。

 このような問題を哲学で考えてみるのがこの本の著者の立場である。著者によれば、哲学の重要な役割の一つが専門知識の批判的検討にあるからである。科学を駆動する力は科学者の知的関心であり、これまでもそれが人類に対して非常に大きい貢献をしてきたが、脳科学においては何か聖域のような限界があるようにも感じられる。

 例えば、自由意志はそもそも存在するのか、という問題があるらしい。リベットの実験というものがその端緒になった。この実験は、人が手首を動かそうとする前に脳の運動領域が活動を始めたということを示したのである。そうだとすれば、ふつう人は自由に意志を決めると思っているが実はその前に脳という器官が勝手に行動を決めたということになり、結局人は自由意志を持たないことになる。自由意志がなければ人間ではなく、それは機械に過ぎない。これは決定論の立場であり、人間存在の特殊性が失われてしまう。
まだまだこの問題は論争の最中であるが、更に一層脳の研究が進むと、研究者は意図しなくても結果として脳を人工的に支配する恐れのある研究などが出てきていろいろ問題を引き起こすことも予想される。

 脳の研究は実際にはまだ僅かしか進んでいないようであるが、これは本当に人間の根源を研究するものであるだけに、それこそ「暴走」しないうちからわれわれふつうの市民も強い関心を持つべきであろう。この本を読んでみると、つくづくそのように思われてくる。
 そして科学が社会化して来た現代において、この本のようなアプローチは必要不可欠であると、私は思う。

 

ご要望にお応えして、ジャンルを定めない自由評論コーナ ー【私の一言】を設けました。 評論の評論はもとより、社会評論等自由なご意見をお届けします。

『老人の杞憂』
岡田桂典

 “日本破綻”とか“国債暴落”とかいう本や雑誌の記事が月ごとに増えてきました。ハーバード大のロゴフ教授の過去800年の金融史研究によると「政府債務が持続不可能なレベルに達した国家は急激な金利上昇に見舞われ、高い確率でデフォルト(債務不履行)か高インフレによる借金棒引に追い込まれる」そうです。またそれに伴う通貨価値の低下(円安)も警告されています。

 しかし、政府には危機感が薄いようですし、国民も政府は最後には財政規律を守るだろうという楽観的な信頼があるようです。
 私は選挙第一で、37兆円の税収で92兆円の予算を組む政府を信用できません。合理的な行動ができないところは戦前の日本政府と同じに見えます。日本国は鉄鋼生産が10倍の米国と“大和魂”で戦った挙句に敗れた翌年、戦時公債等の債務を払えなくなって、“債務不履行”を行ったのです。預貯金を封鎖して、流通している貨幣を“旧円”と呼び、“新円”への切り替えは一人100円に限度を設けました。国は債務をチャラにして一息ついたのでしょうが、国民はお国のために買わされた国債や株券は紙切れとなり、貯めた現金も預金もほぼ無価値になって塗炭の苦しみを味あわされたのです。
 生産能力を戦争で失ったうえ、人々がおカネを信用出来なくなりモノの確保に走った結果は大インフレでした。昭和19年から24年の5年間に物価は60倍になりました。最も哀れだったのは都会の給与所得者でした。月給が鮭一匹分でしたから、人々は家の中のモノを次々に売り、食料に換えたのです。その有様を箪笥の衣類が1枚ずつ無くなる状況になぞらえて“竹の子生活”と自嘲したものです。その後も1973・78年のオイルショックによる“狂乱物価”、71年のニクソンショック、85年のプラザ合意による“円価値の大変動”等の経済の大混乱が実際に起こっているのです。

 近頃心配になりました。現役の政治家、官僚、マスコミの人々は「日本政府も債務不履行を行った」、「大インフレが実際に起こった」、「円の価値の大きな変動が起きた」ということを知らないのではないかという危惧です。金融関係で一人前になるためには金融商品の上げ基調も下げ基調も十分に経験しないといけないのに、過去20年はデフレでほぼ下げのみだったと嘆いているOBがいます。同様に実際の経済状況の大変動による恐怖は実務に携わっている30歳以上でなければ経験できないと思います。そうすると、「日本国の債務不履行」を覚えているのは73歳位以上でしょうから現役にはまず皆無、「インフレ、円の大変動」も30年以上も前の出来事ですから、現役の政治家、官僚、マスコミの人々にとっては実際に起こりうることとは想像できないのではないでしょうか。

 ソブリンリスク(国家の財政危機)の発生はギリシャの次は日本だと世界中の投機家が舌なめずりをしているそうです。“ばらまき”を続ける政府、いざとなったら日銀が国債を買えという政治家や評論家を見ていると「歴史は繰り返す」のではないかと心配するのは老人の“杞人の憂”と嗤えるでしょうか。

 

 

 

  東京都の65歳以上の人の人口割合は、20%を超えたそうです。まさに老齢化社会が到来したといえます。この人口構成の変化とグローバル化によって日本の社会システムは大きく変わらざるを得ません。しかし変革への対応には時間がかかりいまだ出口が見えないまま社会も政治も経済も右往左往しているのが現状のように思えます。
 時代は拡大しつつスパイラルに動いているように思います。歴史を振り返りながら新しい時代の潮流を読み取り対応することが重要であると考えつつ 各ご寄稿文を読ませていただきました。 
今号も多面的なご寄稿有難う御座いました。(HO)




 
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