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2004年3月15日 VOL.6

■書評
・『クライマーズ・ハイ』─ 阿部和義
・『クライマーズ・ハイ』─ 片山恒雄
・『完本 戒老録』─ 佐藤孝靖
・『エ・アロール(それがどうしたの)』─ 鷲太郎 

 

 

 

『クライマーズ・ハイ
著者:横山秀夫   出版社:文芸春秋   価格:1,571円+税

“クライマーズ・ハイに見る新聞社の販売局蔑視”
阿部 和義 
 1968年2月から2年間、朝日新聞社の前橋支局に勤務した。最初の任地の長崎支局からの転勤であり、「かかあ天下とからっ風」という厳しい試練を浴びての赴任だった。長崎に比べると取材の対象が少ない中で、谷川岳の遭難は大きなニュースであった。警察周りを担当したこともあり、職安,営林局の汚職などの取材で飛びまわっていた。東京経済部に転勤した後、連続殺人の大久保事件や連合赤軍事件が起き群馬が舞台になった。
 こうした大事件にはめぐり合わなかったが、前橋支局ではライバルの地元の上毛新聞社を相手に抜いた抜かれたを演じていた。
 上毛新聞社に12年間いた横山秀夫氏が「クライマーズ・ハイ」を書いた。横山氏には面識はないが、上毛新聞の記者は後に社長になった鈴木さんや取締役の牟田さんなど知っている人は多い。谷川岳と日航機が墜落した御巣鷹山を舞台にした「クライマーズ・ハイ」を興味深く読んだ。85年8月に起こった日航機の墜落事故をどのように報道したかということが、「北関東新聞」の社会部のベテランの悠木和雅記者(40)を主人公にして書かれている。悠木記者を通した販売局に対する見方に複雑な思いがした。
 「元々あの局は得体が知れない。県内各地にある新聞販売店の『お守り』をするのが主たる仕事だというが、では実際に何をしているかと問われれば浮かぶのは販売店主に対する酒や麻雀の接待くらいのものだ。――接待費は使い放題と言う話だが、その一方で『局』と名乗っていながら局員は10人足らずのちっぽけな世帯だ。部屋も薄暗くてひどく狭い」
 悠木記者が山仲間の販売局の安西耿一郎を訪ねて居ないときの描写である。編集局の記者が販売局を一段と低く見ていることが赤裸々に書かれている。
 新聞の販売については「インテリがつくってヤクザが売る」と言われて久しい。私自身も社内で編集権の優位と言うことを若い時から言われてきたので販売を見下す考えが残っている。考えてみればおかしなことである。メーカーや商社などは販売部門の人がトップになっている。販売部門は栄光のポストでもある。
 こうした会社に比べて新聞社は良い紙面を作れば売れると言うことで売る努力をしてこなかった、といって良い。この不況の中で本来中心になるべきいわゆる販売局は新聞社にとって何なのか考えさせられた。





『クライマーズ・ハイ
著者:横山秀夫   出版社:文芸春秋   価格:1,571円+税

片山 恒雄 
 昨年のミステリー界でMVPを選ぶとしたら、最右翼候補にあげられるのが、横山秀夫という聞いたこともない作家だという。その人の書いた「クライマーズ・ハイ」を娘から借りて読んだ。舞台は、地方(群馬県)新聞社。社内でも目立たない存在の中年記者である主人公は日航機が県内の御巣鷹山に墜落し、その全権デスクを命ぜられた瞬間から生活が一変する。まるで人が変わったように、同僚はおろか上司、役員などとも相手かまわず喧嘩して信念を貫いた紙面づくりに専念するというのが話の中心である。中でも新聞各社がしのぎを削る墜落原因について、社内の若い記者が持ちこんできた圧力隔壁原因説を信じて良いかその取り扱いに煩悶する。一時は、この特ダネで一地方紙が全世界を席巻する夢に酔う。
 題名の「クライマーズ・ハイ」は、ランナーズ・ハイでも知られるように、激しい運動により脳内モルヒネの分泌が促され、精神的昂揚感が生ずる現象をさすのだが、新聞社のむかし亡くなった山仲間の息子と二人でザイルを使って一の倉沢の衝立岩に挑む最後の場面で、読者にも胸の熱くなる昂揚感を味わわせてくれる。これ以上書くと読む意欲をそぐことになるのでやめておくが、その前年に書かれた「半落ち」とともに一読をお勧めする。




『完本 戒老録
著者:曽野綾子 出版社:祥伝社黄金文庫 平成11年刊 600円  

佐藤孝靖 
 この本は著者が37才からメモを取り始め、41才で「戒老録」として初めて世に出した。その後、50才のときに改訂版を出し、65才直前で三版を「完本 戒老録」と改題して出版、その3年後に祥伝社が文庫本にした。
 著者曽野綾子氏は現在72才になられたはずであり、この本は著者が35年かけても揺るがない“晩年の人生の送り方”、いや人生そのものを考える書であるといえる。その根本的な人生観、宗教観はカトリックの教えに裏打ちされたものであろうが、仏教の宇宙観、自然観、傍観のようなものが横糸に織り込まれており、東洋的聖人、達人の極意に触れたような感動がある。内容は小さな項目ごとに独立していて読みやすい。
 あとがきにある、汚辱にまみれても生きよ、の項にエッセンスが凝縮されているようで、特に味わい深く感じられる。





『エ・アロール(それがどうしたの)
著者:渡辺淳一 出版社:角川書店 1,600円  

鷲 太郎 
 医者でもある著者は、『人間60歳を超えたら自分の思うままに生きるべきであり、そういう生き方をしている人ほど若々しく健康。』と考えている。
さらに、『高齢者にとって重要なのは、単に長生きすることではなく、クォリティ・オブ・ライフ、いわゆる生活の質を高めることで、それは同時にクォリティ・オブ・ラブである』としている。
 本書は、この思想のもと、仕事や世間の枠から解放され自由になった高齢者が楽しく気侭に人生を楽しめるように創られた銀座の施設『ヴィラ・エ・アロール』に住む高齢者のさまざまな人間模様が描かれている。
 WHO(世界保健機関)によると日本の平均寿命は、男性78.4歳、女性は85.3歳であるが、健康寿命(平均寿命から日常生活を大きく損ねる病気、怪我の期間を差引いた年数)となると男性72.3歳、女性77.7歳と平均寿命と大きくずれている。この一致が日本人の課題であるが、これには適切な食事、運動、休息、そして個性的生き方が必要という指摘がある。
 大多数の日本人にとって、健康で長生きは初挑戦であるが、本書は、そのための重要な要素である「年甲斐も無く」自分の思うままに生きること、クォリティ・オブ・ラブ等について色々な示唆を与えてくれる。
テレビ化もされた小説であり、面白い。









 
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