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■2011年4月1日号 <vol.175>

書評 ─────────────

・書 評  桜田 薫    『トーラーの名において』
              ヤコブM.ラブキン著 菅野賢治訳 平凡社

・書 評  浅川博道     『梅棹忠夫語る』
              聞き手:小山修三 日経プレミアムシリーズ

・【私の一言】 岡田桂典  『大きな覚悟が必要な時』


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2011年4月1日 VOL.175


『トーラーの名において』
 (ヤコブM.ラブキン著 菅野賢治訳 平凡社)  

桜田 薫    



トーラーとはユダヤ教の聖典でモーゼに啓示された律法のことである。ユダヤ人とは正しくはユダヤ教徒としてトーラーの教えを遵守する人びとのことで、民族的、人種的な概念でなくその中にはアラブ系もアフリカ系も含まれる。1000年以上の流浪や混血で血統的な民族集団が維持されているとは思えないが、母親がユダヤ人の子供もユダヤ人とされる。したがって世間でユダヤ人と呼ばれるのはユダヤ教徒だけでなく、世俗的なユダヤ人、キリスト教に改宗したり無神論者のユダヤ人も多い。

19世紀末にヨーロッパの非宗教化の流れにのってユダヤ民族主義が出現し、ユダヤ人としてエルサレムに自分たちの国家を建設しようとするシオニズム運動が生まれた。その背景にはBC10世紀にソロモン王がパレスチナの地に古代イスラエルを建国して以来、ユダヤ人はたびたびの亡国によって離散し、欧州では迫害と差別の長い歴史がある。1948年、英国などの支援でパレスチナの地にイスラエルが建国されたが、そこは伝統的なユダヤ教徒だけでなくイスラム教徒も共存していた土地であった。

それが現代の世界が抱える大きな問題を産んだ原因であるが、敬虔なユダヤ教徒たる本書の著者が告発するのはシオニズム自体である。シオニズムは、信仰に基づくユダヤ・アイデンティティを他の西欧諸国にならって民族アイデンティティに変容させ、パレスチナの地に支配権を確立したいというナショナリズムになった。パレスチナ人の軍事的な抑圧はトーラーの教えに背く行為で神への反逆である。著者によれば、世俗的なイスラエル国を「ユダヤ国家」と称することは信仰と民族性を混同することになる。

シオニズムの政治イデオロギーは、反ユダヤ主義が世界中に存在する中でイスラエルをユダヤ人が安全に暮らすことができる唯一の土地とするが、イスラエル国民よりもはるかに多い世界中のユダヤ人は信仰を守り、それぞれの国の国民として属する国に忠誠を誓っている。
イスラエル建国により世界各地のディアスポラ(離散)の地にいるユダヤ人がすべてイスラエルを祖国として収容されることで自立させるとする考え方は正統的なユダヤ教の伝統と相容れない。現在、世界各地でイスラエルの独立記念日を祝うデモがり、それに反対するユダヤ教徒との衝突があるが、シオニズムに対するユダヤ教の根深い抵抗を示している。

 

『梅棹忠夫 語る』
(聞き手:小山修三 日経プレミアシリーズ)

浅川博道   


梅棹氏は、民俗学・比較文明学の権威で、「文明の生態史観」、「知的生産の技術)など実に多くの著書がある。その業績に加えて、時代を動かす思想家とも言われてきた。本書は、教え子である文化人類学者の小山氏が、梅棹氏が亡くなる数年前から聞き取りしてきた話をまとめたものである。その意味で、本書は梅棹氏がその直前まで語り通した我々への熱きメッセージだといえる。その中から、私なりにいくつか抜き出してみたい。

「自分の足で歩いて、自分の目で見て、自分の頭で考える。これが大事や」。梅棹氏の学問のスタイルは、徹底した現場・現物主義で、自分で見たことしか信じない。机上論や聞きかじりの知識でもっともらしく評論することが多い昨今の風潮とは、まさに相容れないものである。

「請われれば、一差し舞える人物になれ。人には逃げてはならない状況がある。その時、ちゃんと舞って見せることが必要だ。責任を果たす覚悟と能力がいる」。若手の研究者によく話していた言葉だそうだが、今の混迷する政治のリーダーは、この逆のような人物である。請われながら(選挙に勝利しながら)、ちゃんと舞ってみせない(約束を果たせない)、その責任をとる覚悟も能力もない。

「困難は何んぼでも出てくる。けど、困難は克服されるためにあるんや。ほんまに、いろんなことを乗り越えた」。旧制高校時代の落第、マナスル登頂直前の肺病、60歳代での失明。大きな挫折を経験し、克服してきた梅棹氏ならではの勇気をくれるメッセージである。
「あきらめたらあかんのです!」

 

ご要望にお応えして、ジャンルを定めない自由評論コーナ ー【私の一言】を設けました。 評論の評論はもとより、社会評論等自由なご意見をお届けします。

『大きな覚悟が必要な時』
岡田桂典


東日本大地震で亡くなられた方々にただただ合掌、被災者の皆様には悲劇を乗り越える勇気と叡智を与えたまえとお祈りするのみであります。自然は人知に勝るものだと再認識させられました。政府の予測によれば30年以内に発生するM8以上の地震の確率は三陸沖では99%でした。また100年前の三陸沖津波は38mに達していたのです。原発にとっての地震・津波の危険は多くの人々によって説かれてきたのですから、福島原発の事故は地震・津波の影響を想定できなかったというより想定しなかった政府や大企業による“人災”であることは明らかです。大惨事は必然的に起こったと考えるべきです。

日本人はここで“大きな覚悟”が必要だと思います。第一に福島原発の状況は予断を許す状況に至らず(菅首相、3月25日夜)、今後深刻な事態を迎える可能性があります。放射能被害に電力不足を加えた東日本の食料・水、電気等の日常生活、生産・消費等ビジネス、交通・物流等への悪影響ははかり知れない状況です。生活基盤を失った人々への援助は如何に費用がかかっても国民全体の責務です。

第二にいやなことですが、同じ条件の地震の確率は首都圏70%、東海84%、東南海58%です。日本の政治・産業の中心に地震が明日起こっても不思議でない国に私達は生きているのです。これらの地域の災害を最小に抑える対策を直ちに取らねば日本は壊滅します。これにも巨費が必要です。特に静岡の浜岡原発の危険性は多くの方が指摘されています。私はただちに運転を止めるべきだと考えます。

第三に日本の信用は地に落ちています。輸出品の販路を確保し、人の交流を元に戻すためにも原子力発電所を止めるか,国際的な監視体制下に置く必要がありえます。佐賀県の玄海原発2基は既に定期検査後の再起動は行わないと発表しました。これは今後各地のトレンドになりましょう。しかし、火力発電への移行、工場等の自家発電の総合利用は新たな燃料が必要で電力料金は自動的に大幅上昇します。

第四に輸出減、エネルギー輸入増は必至で、生産設備の海外移行は加速するでしょう。国際収支の赤字化、国の税収減、支出増で財政危機の悪化は目前です。日本経済の変調が世界経済のかく乱要因になるとあればG7,IMFの干渉、圧力が当然で、財政自体が国際管理下におかれるかもしれません。

第五に毎年変わる首相に、災害救助法は昭和22年制定で、食品安全法は放射能の規定がないとか “人災”は地震・津波対策を越えますが,今更恨んでも選挙民が悪いといわれるだけです。“がんばれ日本“、“政府が負担・補償”といっても政府にカネがあるわけではありません。被災地の復興、来るべき災害への対応は焦眉の急で巨費が必要です。要するに弱者を支え、少しでも安全な生活を目指すためには、国民は社会保障費削減等の給付減、増税、電力費等の高コストの負担等を甘受しなければなりません。オール電化等の夢を捨てて生活水準を30−40年前に戻して耐える“大きな覚悟”をすべき時です。

 

 

「未曾有の国難」と言える巨大地震、相次ぐ余震、そして原子力発電所での事故等で、多くの人々が避難生活を送り、関東などでは計画停電が実施され引続き緊張の日々が続いています。このような状況の中風説に注意が要ります。例えば原発の事故の被害に関連し、消毒剤やうがい薬などのヨウ素を含んだ市販品や海藻類等が買い占められ店頭から姿を消しましたがこれは風説によるもので、現実には、放射性ヨウ素が集まるのを抑制する効果はないそうです。
このような時期は、色々な情報について「発言者は本当のプロか」「いつの情報か」「データの出処はどこかを目安に自分でしっかり判別することが重要なようです。
本号も時宜を得た、多面的なご寄稿をありがとうございました。(H.O)






 
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