2004年4月15日 VOL.8
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■書評
・『渡邊恒雄 メディアと権力』─
板井 敬之
・『アジア 新しい物語』─ 今村 該吉
・『生命の暗号(あなたの遺伝子が目覚めるとき)』─ 雪野 照
【私の一言】『私のメールファイルから-新入社員諸君!』高橋
紀元
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『渡邊恒雄
メディアと権力』
著者:魚住
昭 出版社:講談社文庫
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板井 敬之
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本書は、当代屈指の権力者・渡邊恒雄・読売新聞社会長の評伝である。
この本を読むと、今や読売グループが、渡邊恒雄の個性そのものとも言うべき体質になり、その結果、なぜジャイアンツが金に糸目をつけずに選手集めをするのか、なぜ日本テレビが視聴率の不正事件を起こすのか等が、良く分かるような気がする。
渡邊恒雄にとっての権力とは、東大時代に共産党細胞を経験することによって、その面白さ・妙味に目覚め、次に自家薬籠中のものにし、更には手放すことが出来なくなっていったと思われる。読売入社後は、如何にして社内の権力に接近するか、己を売り込むか、しかる後に如何にして自己のものにするか、権力掌握後はこれをどう保持するかに心を砕く様子が、いくつものエピソードをとおして描かれている。
著者は、同じ記者出身の渡辺恒雄に対して綿密な取材を行い、事実についての裏付けを疎かにしていない。
巻末には、“えぐい”ノンフィクション作家である佐野眞一の解説が掲載されているが、本書の“比類ない面白さ”を強調しつつ、渡邊恒雄と、自らが伝記を著した正力松太郎との比較を行い、渡邊恒雄の“限界”を明らかにしている。
実に権力とは不思議なもので、人間の“業”の深さを示すものだ、ということを再認識させる書物だと思う。
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『アジア 新しい物語』
著者:野村
進 出版社:文春文庫
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今村 該吉
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いまアジアが面白い。
1956年生まれの著者は上智大学を中退して、フィリピン・マニラに留学し、現地語(英語ではない)を学び、現地人と生活をともにした。以後アジアの各地に出かけては精力的にルポを書いている。
この本では中国の花卉農夫、サイゴンの不動産屋、マニラ・スラム街の神父、タイの焼肉屋、インドの柔道指導者など9人の日本人を追っている。彼らは狭い日本を身一つで飛び出して、アジアで働いている人々だ。そこには日本で食い詰めて、後身国に行くといった、かつての出稼ぎのような悲壮感はかけらもない。また後身国の発展のためにといった気負いもない。日本にはないものを求め、行きたいから行くだけだ。いわば新人類、新アジア定住日本人だ。1匹狼である。
筆者の彼らを見る目は優しい。実際には生きるか死ぬかの苦しみもあっただろうが、あえてそれには触れないで、働き場所を見つけ、現地の人と同化し、彼の地に骨を埋める覚悟の彼らを淡々と紹介している。彼らアジア定住日本人が現地人を見る眼差しも同じく優しく、読んでいて気持ちがいい。
小泉首相も新年に靖国神社に参拝するよりも、彼らの話を聞くほうがよっぽどアジアで戦死した人への供養になり、アジアを理解できるはずである。
なお筆者は97年に「コリアン世界の旅」で大宅壮一ノンフィクション賞を受賞した。この本(講談社+アルファー文庫)も実に面白い。というより深く考えさせられる。
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『生命の暗号(あなたの遺伝子が目覚めるとき)』
著者:村上和雄 出版社:サンマーク出版
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雪野 照
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生命科学は日々発達しているが、まだまだ解明されていないことは数多い。
著者は高血圧に関係する酵素レニン研究に携わる中で、遺伝子の持つ不思議さに出会う。研究の現場で導き出された仮説は、人間の遺伝子は心の状態によって変化する、つまり人生を成功に導いたり、幸せを感じたりする生き方も、心が遺伝子にはたらきかけるのではないかということである。
人間の遺伝子の中で実際にはたらいているのは、わずか5%程度で、ほとんどは眠っており、その眠っている遺伝子をいかにはたらかせるかにより、人生のあり方も変わってくる。幸せになるためには、幸せを感じる遺伝子をONにすればよい。心の状態によりよい遺伝子をONに、悪い遺伝子をOFFにする、その方法を本書は示唆してくれる。
人間の幸せは生まれつき遺伝子で決まっているのではない、という説には勇気づけられる。またこれだけ精巧な命の設計図をみるにつけ、人間を超えた何者かの存在を考えずにはいられないとする著者に共感を覚える。
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