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2005年10月15日 VOL.44

 

 

『アメリカCEOの犯罪』  2004年11月
著者:D・クィン・ミルズ  訳:林大幹 
出版社:シュプリンガー・フェアラーク東京刊

稲田 優 
 この本は、個別企業や特定の事件を扱ったものではない。“不幸なことに、アメリカの殆どの上場企業はなんらかに不正会計を行ってきた”という驚くべき基本認識の上に立って、本書は書かれている。
 冒頭部分で、サンビーム、エンロン、ワールドコム、に始まってなんと、GE、IBM、ゼロックス、マイクロソフト、といった一流企業を含む13の企業の、近年のスキャンダルを概観した後、すぐにそれらのスキャンダルに見られる不正会計の手口を平易に解説する。そして、それらの企業スキャンダルが洪水のように頻発したのは、1980年代の遅くから1990年代にかけて、大手上場会社の経営者に広く供与されたストック・オプションのインセンティブによるものだ、との本題に入ってゆく。
 大量のオプションの供与を受けたCEOや経営者は、会社の長期的な価値の増加を図るのではなく、株式の短期的なパフォーマンスを操作し、株価を引き上げたいという強い動機に駆られたのだという。監査人、証券アナリスト、ブローカーのような専門家には、これらの会計上のごまかしを見逃す動機が十分に準備されており、社内の取締役会は、CEOからのもろもろの利益提供を受けることによって、投資家のためのチェック・アンド・バランス機能を諦めてしまったと指摘する。
 エンロン、ワールドコム等の一大スキャンダルの後、アメリカ政府は企業改革法制定したが、問題は根本的には解決されていない。
  “ほんの数年前までは、大会社のCEOは、アメリカで最も畏敬の念をもって見られる人々であった。今日では、中古車の販売員と並んで、アメリカで最も信用の置けない人と見られている”ーアメリカの現状は日本の比ではない。
“最も重要なのは、手段のいかんにかかわらず、金儲けしたものを賞賛するアメリカの風潮を捨て去ることである”。ハーバード・ビジネス・スクール教授の著者が、この本で繰り返し訴えている「規制当局をひとつに統合し、規制ルールをシンプルなものにする」との改革案は、納得性が高く、またCEOは取締役会会長を兼務しない等の提案は、コーポレート・ガバナンス論の研究の上でも、意義深い。
 なお、エンロンやワールドコム等の不正事件は、1990年代のアメリカで流行した「株主資本主義」の所為だと捉える概論的な見方もある。西部邁著、「無念の戦後史」、2005年8月講談社刊




『希望のニート』 2005年6月
著者:二神能基  出版社:東洋経済新報社

堤 貞夫

 若い人がちゃんとした定職につかないことについて、それこそ、国を挙げてさまざまな施策がなされているが、肝心の若い人たちの心にどれだけ届き、彼、彼女たちが、自分の人生について考え、前向きに取り組むようになっているのだろうか、と思う。
 二神能基氏は、現在61歳、10年前から、不登校や引きこもりの若者を支援する活動を続けておられ、その体験から、「ニートに希望を持つ」発想転換のメッセージとしてこの本を書かれている。二神氏は、学生時代には学習塾を経営、大成功し、その反動で隠居、35歳からの15年は「ニート中年」とでもいう生活であった、そうである。
この仕事は、まず子供の対応に悩んでいる親御さん(年間約200組)の面談から始まり、子供が納得すれば寮に入れて、他人と一緒にいろいろな「仕事体験」をさせる。場所は、自ら経営している喫茶店や食堂、デイサービス、託児所、イタリア、フィリピンなど海外4箇所にある寮など。そこで、人と共同して何かをすること、誰かの役に立つことを体験させ、同時に親離れ、子離れ、自分の将来を考えることを実現する。
 この本のキーワードを並べて、現場からのメッセージの一端を窺って見ると。
●真面目な親が、優しい、真面目な子供たちを追い詰めてしまう。
●「自分で好きな仕事を探しなさい」といわれても、「やりたいこと」はない、分らない。
●「ニートとは働く意欲がない甘えた若者」というのは誤解、正確には「働けない」。
●学校中退者、若年退職者の就職が難しいこと、その前に生き方が定まっていない。
●人生や、仕事に希望がないからニートになる、まず「人間体験」をさせること。
●あらゆる家族は出来そこない、家族をひらき、他人の力を借りて問題を解決しよう。
二神氏が今、計画していることは「雑居福祉村」、老若男女、障害者、健常者の共同村の建設である。一昔前の長屋暮らしのように、日常生活を共有する、もちろん子育ても、である。定年者、優しい若者が協働する、生きやすく、働きやすいスローな生活への発想転換こそ日本の希望であることを実証したい、と二神氏は言っています。





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『芸術祭十月大歌舞伎 通し狂言「加賀見山旧錦絵」4幕』
クレマチス尚美

配役 局岩藤(尾上菊五郎 音羽屋)
   中老尾上(坂東玉三郎 大和屋)
   召使お初(尾上菊之助 音羽屋)他


10月2日初日、人気の出し物と魅力的な顔ぶれで大入りの歌舞伎座である。
局岩藤は、日ごろから町家の出ながら才色兼備で大姫の信頼が厚い中老尾上が目障りで仕方がない。さらにお家横領の企てを知られてしまった岩藤は何とか尾上を失脚させようと盗人の濡れ衣を着せる。盗人呼ばわりされた上に満座の中草履で顔をぶたれた尾上はその悔しさと屈辱に耐えかねて自害してしまう。
尾上を慕う召使お初は主人の無念を晴らすべく、悪事の証拠の文書を腰にくくりつけて一人で岩藤と対決、斬り捨てる。そして亡き主人が受けた屈辱を思い知れとばかりに息の絶えた岩藤を草履で打ち据える。
別名「女忠臣蔵」とも呼ばれるように大詰は拍手喝采で胸のすく場面である。
岩藤率いる悪チームと尾上率いる善チームを区別するために、腰元たちの衣装の色、髪型、化粧、言葉遣い、立ち振る舞いに違いを持たせたのはなかなか面白い演出である。
悔しさ、ショック、屈辱でもはや立ち直れない尾上である。顔面蒼白、瞬きひとつしないで呆然と花道を帰って行く尾上の胸中は客席にもひしひしと伝わってきて、〜胸に満ちたる血の涙〜義太夫の語りと太棹の響きがいっそう緊迫感を増す。玉三郎、迫真の演技である。

大詰は音羽屋親子の一騎打ち。目張りを強調した岩藤役の菊五郎はベテランの余裕で悪の貫禄十分、かたやお初役の菊之助は健気にも主人の無念を晴らそうとする一途さが舞台全体に伝わってきて実に良い。
今回の舞台の一番の見所は菊之助ではないだろうか。姿美しく、声もよく通り、娘らしいきびきびした身のこなしがベテランの中でひときわ輝いている。
身分や性格の違う役を菊五郎、玉三郎、菊之助が三者三様、持ち味十分に演じて、長時間を感じさせない見ごたえのある舞台となっている。

通し狂言「加賀見山旧錦絵」四幕 十分に満喫いたしました。






 
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