配役 局岩藤(尾上菊五郎 音羽屋)
中老尾上(坂東玉三郎 大和屋)
召使お初(尾上菊之助 音羽屋)他
10月2日初日、人気の出し物と魅力的な顔ぶれで大入りの歌舞伎座である。
局岩藤は、日ごろから町家の出ながら才色兼備で大姫の信頼が厚い中老尾上が目障りで仕方がない。さらにお家横領の企てを知られてしまった岩藤は何とか尾上を失脚させようと盗人の濡れ衣を着せる。盗人呼ばわりされた上に満座の中草履で顔をぶたれた尾上はその悔しさと屈辱に耐えかねて自害してしまう。
尾上を慕う召使お初は主人の無念を晴らすべく、悪事の証拠の文書を腰にくくりつけて一人で岩藤と対決、斬り捨てる。そして亡き主人が受けた屈辱を思い知れとばかりに息の絶えた岩藤を草履で打ち据える。
別名「女忠臣蔵」とも呼ばれるように大詰は拍手喝采で胸のすく場面である。
岩藤率いる悪チームと尾上率いる善チームを区別するために、腰元たちの衣装の色、髪型、化粧、言葉遣い、立ち振る舞いに違いを持たせたのはなかなか面白い演出である。
悔しさ、ショック、屈辱でもはや立ち直れない尾上である。顔面蒼白、瞬きひとつしないで呆然と花道を帰って行く尾上の胸中は客席にもひしひしと伝わってきて、〜胸に満ちたる血の涙〜義太夫の語りと太棹の響きがいっそう緊迫感を増す。玉三郎、迫真の演技である。
大詰は音羽屋親子の一騎打ち。目張りを強調した岩藤役の菊五郎はベテランの余裕で悪の貫禄十分、かたやお初役の菊之助は健気にも主人の無念を晴らそうとする一途さが舞台全体に伝わってきて実に良い。
今回の舞台の一番の見所は菊之助ではないだろうか。姿美しく、声もよく通り、娘らしいきびきびした身のこなしがベテランの中でひときわ輝いている。
身分や性格の違う役を菊五郎、玉三郎、菊之助が三者三様、持ち味十分に演じて、長時間を感じさせない見ごたえのある舞台となっている。
通し狂言「加賀見山旧錦絵」四幕 十分に満喫いたしました。
|