私たちの年代は、先の戦争中、銃後の小国民として鬼畜米英と徹底的に戦うよう教育を受けた。しかし敗戦と同時にいとも簡単に改宗して、骨の髄まで民主主義と平和主義の信奉者として生まれ変わった。悲惨な焦土の中から立ち直った日本をブッシュさんは引用したが、イラクでは抵抗が止みそうにない。東洋人は権威に服従する傾向が強いからか、宗教の違いか、ともかく日本国民は馬鹿な軍国主義者に操られた被害者となり、1億総ざんげをして過去を反省した。尊敬するマッカーサーとGHQは血を一滴も流すことなく、日本に空前の大変革をもたらした。当時、上陸した進駐軍は焦土の日本で「敗者の卑屈や憎悪はなく、改革の希望に満ちた民衆の姿を見た」(本書の箱書き)。本書で紹介されるリンゴの歌、闇市、カストリ雑誌、ガード下の浮浪児、パンパンなど敗戦後の社会現象(写真も)も、今は懐かしい思い出である。アメリカ人の著者は、客観的な事実と公正な目で敗戦から立ち直りつつあった日本社会を観察し、米軍の占領政策を分析する。
本書の中で、憲法制定の経緯と天皇の戦争責任問題が特に印象に残る。新日本憲法は理想に燃えたリベラルな若いアメリカ人たちが一週間で草案を作成した、日本側の異論もあったが、ほぼ原案が国会で承認された。9条について言えば、当時の吉田首相は、日本は交戦権だけでなく自衛権も放棄したと答えた。しかし間もなく朝鮮戦争が始まり、日本の危機を感じたマッカーサーは警察予備隊創設を命じる。昭和天皇とマッカーサーの会見も興味深い。東京裁判で東條元首相は『天皇の命令に反することをするわけはない』と証言したが、戦犯を含む周囲はその発言の取消しに動き、マッカーサーは占領を円滑に進める手段として利用して(それだけではないが)、戦犯として責任を追求しようとするソ連などから昭和天皇を守った。
平和、民主主義、平等など世界の普遍的な価値が日本に根付いているのは、なんと言ってもアメリカのおかげであることは否定できないが、また憲法問題のように上から押し付けられた革命がもたらした矛盾も尾を引いている。
この大作でダウアー氏はピューリッツア賞、日本では第一回大仏次郎論壇賞を受賞したが、日本人必読の書だと思う。
|