2004年3月1日 VOL.5
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■書評
・『「ボス」と慕われた教師』─ さとうとしお
・『青年は荒野をめざす』─ 田島正和
・『海軍』─ 山本俊一郎
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『「ボス」と慕われた教師』
著者:小山内美江子
出版社:岩波書店 価格:1,900円
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さとうとしお
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著者は「翔ぶが如く」や「金八先生」というテレビドラマのシナリオライターで有名であるが、1993年に「JHP・学校をつくる会」を組織して、ポルポト派によって荒廃したカンボジアの学校を復興するボランティア活動をしている。
その運動に感動し、共鳴した教師がいた。
彼は北海道出身、小中学校の校長を歴任して定年退職した後この運動に参加した。若い人々と共に現地に赴き、あの過酷な気候と不衛生や不便を克服しながら活動している。
彼の人柄は若い人々に慕われ、小山内氏の片腕として運動を盛り上げていった。彼にとってはもっとも生甲斐を感じた時期だったろう。だが、病に倒れ、現地で亡くなった。
この本はその教師が中心であるが、日本の若い人々が懸命に活躍している様子が書かれており、そして著者が年に何度も現地に行き細かい配慮をしていることを伺わせ、感動を与える。
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『青年は荒野をめざす』
著者:五木寛之
出版社:文春文庫 価格:480円
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田島正和
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14年前のある日、「今日は何の本を電車で読もうか?」と本棚を探していたら既に読み終わった本ばかりで、未読の本が何もない!
しかたなく全く趣味の違う父親の本棚から選んだのがこの一冊。
ストーリーは、ジャズのトランペッターを目指すジュンという青年が、自身のアイデンティティを確認するための放浪の旅に出て、様々な人と出会いながら少しずつ成長していくというもの。
“自分にとっての音楽とは?”“魂の入ったトランペットとは?”“自分に欠けているものは?”“女性とは?”“人間とは?”“燃焼する人生とは?”
それらの葛藤を模索する主人公が、国籍も年齢も思想も異なる老若男女の青年達と出会いながら成長していくその姿は、まさに“日本の青年版ハックルベリーフィンの冒険”そのもの!
どこにでもあるストーリーだが、何回読んでも「自分は今でも青年だ!」という元気がでる自分の座右の書になってしまった。
当時50歳を超えていた父がこの本を読んで、「俺も青年だ!」と元気に会社に向かったかと想像すると思わずニヤリと口もとが緩む。
“何か”を始めたくなる本です。
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『海軍』
著者:獅子文六 出版社:中央公論新社 2001年初版 724円
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山本俊一郎
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獅子文六(1893−1969)という作家は、「てんやわんや」、「自由学校」など多数の作品で知られ、1969年には文化勲章を受章している。この小説は、本名の岩田豊雄名で、開戦直後の昭和17年1月−12月24日の間、朝日新聞に連載され大変な評判を得た。さらに開戦後60年を経た2001年に中央文庫から出版された。
本作品は1941年(昭和16年)12月8日、太平洋戦争(大東亜戦争)勃発に際し真珠湾の米国太平洋艦隊を航空部隊と同時に攻撃すべく同港に潜入を図った特殊潜航艇5隻の乗員の一人、横山正治少佐をモデルに、作中では谷真人として描かれた。
戦後の分析では、この攻撃は米海軍の対潜網や潜航艇自体のトラブル発生等のため成功しなかったが、5隻に乗組み、戦死した9名の士官・下士官達のニュースは開戦直後の高揚した気分の中で大変な感激をもって迎えられ、九軍神として報道されて半ば神格化された。(実際は10名による特別攻撃隊であったが、うち1名は攻撃に失敗して米軍最初の捕虜となったため、捕虜の存在は敗戦まで伏せられた。)
作者は、谷真人を勇士・軍神として神格化せず、寡黙で忍耐強く、決してでしゃばらない、心温かな日本の若者として描いている。個人賛美ではなく、当時の「日本帝国海軍」をテーマに、その規律、信義、自己犠牲、勇気といった好ましい性格の人間を描いている。旧海軍にも、組織体がもっている暗部もあったろうが、そうしたことには触れていないので、この小説は日本海軍をやや美化しすぎているとの批判はあるにしても、この作品は単に軍隊・軍人をテーマにしたものではなく、人間を描いて当時の雰囲気をよく伝えており、ここに描かれた主人公はいつの時代にも好ましい人間像であろう。
現在の眼で読むと、よき若者達のひたむきさを描いているだけに、彼等の生命を多数奪っていく戦争というものの残酷さといたましさを強く憶える。
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