この本は、日本画家である著者が、著者の画業を通しての体験と勉強とから、絵とは、美とは、芸術とはという難しい命題に、大胆で明快な答えを出しており、写実的な絵を描くことに何となく不安を感じていた私も共感するところが多々ありました。
A 著者は、サワラ砂漠を遊牧民の案内人と旅をした体験や、ニューヨークに住んで色々な人種の人達と接した経験から、人間は皆同じと強く感じる。美しいものは、皆美しいと感じる筈である。
アルタミラの洞窟の天井に、最初は神への祈りで動物を描いていた人達が、その内に描く楽しみ、見る楽しみ、見せる喜びを知ったのではないか。アリストテレスも「似せる喜び」も「見る喜び」も人間の本能と言っている。
B 著者は中国の昔の絵を見て圧倒され、絵に対する考え方を変える。日本の美を詩歌論から学び、「余白」の意味を知る。更に、鎧兜の祈りに通ずる美しさに触れ、圧倒的な美は、宗教、思想を超え、同時に何百年という時を超えると考える。
C 19世紀末から20世紀にかけて科学万能の時代に入り、神は死ぬ。モネは日本庭園を作り、「虚」の絵を描く。アンディ・ウオーホルは,大量消費社会を象徴する絵を描く。これはやり切れない虚無感を表したミニマルアートに迄行き着く。
D 同時テロ発生と共に、これらの虚無的な現代美術は人々から見向きされなくなり、美術家は、再び人々に感動を与え、生きる力を与えるような創作活動をはじめている。著者は、人の心や痛みを思いやるイマジネーション豊かな創造の世界を通して、美がすべてを超える大切なメッセージを発信し続けていることを改めて感じる。また、この辺りに21世紀の美術の活路があるのではないかと考えている。
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