このサイトでは書評、映画・演芸評から最近の出来事の批評まで幅広いジャンルのご意見をお届けしていきます。
読者の、筆者の活性化を目指す『評論の宝箱』
意見を交換し合いましょう!

 
       

 

 

■2009年11月1日号 <vol.141>

書評 ─────────────
 
・ 書評    丸川  晃 『私の昭和史・戦後篇上・下』
              中村 稔 著  青土社 

・ 書評    石川 勝敏 『一流の思考力』
              雑誌シンク別冊 NO1  東洋経済新報社

・【私の一言】 新田 恭隆 『サイエンスカフェ』





2009年11月1日 VOL.141


『私の昭和史・戦後篇上・下』
著者中村 稔  出版社:青土社

丸川 晃    

 本書は、数多い個人名を冠した『昭和史』の中で、そのVolume(3冊計約100万字で、それでも未完?)といい、そのVariety(詩、社会、法律、経済、友人etc.)といい、更に出版賞を得た数(朝日賞、毎日賞外)でも、白眉の『昭和史』といえよう。
 一高を経て東大法学部卒、府立5中時代から詩作にいそしんで戦後詩壇の一翼を担い、特許関係の弁護士としても活躍したという多才な著者が、2002年から2008年にわたって間欠的に詩誌『ユリイカ』に掲載した文章を、単行本として上梓したもので、著者と同年齢の評者にとっては、比較するのもおこがましいが、いろいろの意味で最近のまたとない刺激剤になった。

 3冊の内容を分類すると、幼稚園から大学卒業までの記述が全体のほぼ60%を占め、弁護士・詩人時代が40%という割合で、しかも前者の約45%が一高時代の回想に費やされている。
 そして、莫大な資料の収集・調査の下で展開された著者自身の生き様や戦後日本詩壇のトレースもさることながら、われわれ同時代人が同じく経験した昭和時代の主要な社会・政治・経済を巡る事件・変化から、趣味のプロ野球に到るまでの広範囲の分野にわたり、弁護士で詩人らしく切れ味鋭い分析・評価を与えているのが、本書の圧巻であろう。
 特筆されるのは、この『昭和史』のなかで、一高時代の思い出が質量共に重要な役割を占めていることである。

 筆者も、殆ど同時期に田舎の旧制高校生活を経験したが、著者が過ごした一高時代の寮生活をはじめとする充実した、しかし多少観念的で、ややエリート臭のする青春時代の諸経験に比べたら、その内容、水準共に月とスッポンの観があったと、今更ながら脱帽せざるを得ない。
そして、共に詩を謳った友、原口統三の逗子海岸入水自殺を巡る記述には、ほろりとさせられるものがあった。
 本書について難点を云えば、著者の本業(?)の特許関係弁護士としての業績・経験については、富士フイルム、ソニーなど2、3の事件について簡単に触れられている程度に過ぎないが、特許制度が昭和時代の経済発展にとって要の一つであったという意味も含め、すでに時効になったような特許関連事件について、もう少し書いてもらいたかったということのみである。
 なお評者は、『詩』の分野については殆ど素人なので、詩人としての著者の自伝に関する評価についての言及は省いた。


『一流の思考力』
 出版社:雑誌シンク 別冊 NO1  東洋経済新報社

石川 勝敏   


 著書は雑誌シンクの別冊1号であり、13人の著名なコンサルタントの論文をまとめたものである。私の思考力を整理する上で参考になったので、内容を要約し図書紹介をしたい。

御立尚資 ボストンコンサルティンググループ 日本代表
組織戦略や個人の能力をつくる戦略が重要だが、それにはknowからactへ、actからknowへの繰り返しが必要である。知識の蓄積、現場での実施を繰り返すことで加速度的に能力が向上していく。このループのエンジンは志である。

斎藤嘉則 ビジネスコラボレーション 代表
考えることは無限の作業、思考の粘着力を高めるトレーニングが必要である。
思考回路を鍛えるためには、大局観をもって考えること、常に何かモレがないかチェックすること、切り口を変化させて考えること、因果関係に固執してかんがえること、結論−構造−論点の検証の作業を身に付けることが必要である。

細谷功 ザカティーコンサルティング ディレクター
フエルミ推定で地頭力をきたえろ。日本全国に電柱は何本あるか。仮説思考力、前提条件の設定能力、短時間に結論をだす力を訓練する必要がある。全体俯瞰力、最適切り口で分解構成する力が重要である。これらのベースは知的好奇心、論理思考力、直観力である。

内田和成 ボストンコンサルティンググループ シニア アドバイザー 
早大教授
仮説が立てられれば結論を早く出せる。仮説思考力は経験や学習と集中力から生まれる。
情報洪水に溺れず大局観をもって、仮説を検証し、見直しながら結論を出していく。

遠藤功 早大教授 ローランド ベルガー 会長
すべての思考は三現(現地、現物、現実)から始め、実行性のある戦略を考える。
戦略は仮説にすぎず、これを実行しながらその結果を検証修正しながら進化させる。 石倉洋子 一ツ橋大学院国際企業戦略研究科 教授
今、経営戦略の短命化が起こっている。変化を想定したダイナミックでかつ生きた戦略が必要な時代になった。急速に変化する状況から情報を変化を意味合いを考える必要がある。

菅原章 マッキンゼー アンド カンパニー ディレクター
デザイン思考力とは既存のものをもとに工夫を加え価値を高めるものである。5つのキーワード(仕組む騙す組み合わせる完璧である再現性がある)を自問自答し思考の型を造る。

田村誠一 アクセンチュア エグゼクティブパートナー、グロービル経営大 客員教授
変化し続ける環境のなかで既存の戦略フレームでは通用しなくなりつつある。戦略フレームワークの本質的活用により、ビジネスプランを確固としたものにする。

鈴木敏文 セブンアンドアイ ホールディングス 代表取締役会長 CEO
顧客のニーズは絶えず変化する。仮説、検証、修正の繰り返しで顧客のニーズをとらえる。
仮説は顧客の立場でたてる。POSデータは立てた仮説の検証のために使う。

杉田浩章 ボストンコンサルティング シニアパートナー。マネージングディレクター
成熟消費社会で市場を読み解くには脱常識(市場と思っていなかったところ、未充足のニーズ、パラダイスシフト)に注目し5つの分析(因数分解、ばらつき、彼我比較、今昔比較、市場の法則性)が必要である。現場の観察から事実を読み解く。

照屋華子 コミュニケーション スペシャリスト
論理的に考え、伝えるためには3つの鍵が必要である。論理の組み立て方をマスターする。
納得感を持って論理を導く。日本語の表現力を磨く。思考結果を紙に書く事も有効だ。

三品和弘 神戸大学大学院経営学科 教授
40代でCEOになり長期にリーダーシップを発揮しなければ企業の競争優位は得られない。個人の価値の成長には情報−知識―理解−スキルの段階がある。個人の努力と経営方針が必要である。30代からスキル獲得の練習が必要である。今やそうした時代である。

池谷裕二 脳研究者 東大大学院薬学系研究所 准教授
年齢による記憶力低下は迷信に過ぎない。子供は知識記憶、大人は理論的記憶。記憶を司る海馬の神経細胞は使うほど増える。脳は努力に見合った成果で応じてくれる。
大人の脳に効果的な方法は他人に説明して見せることだ。

雑誌 シンクが推薦する(一流の思考に近ずく)7冊
問題解決プロフェッショナル 斎藤嘉則/ダイヤモンド社
戦略脳を鍛える       御立尚資/東洋経済新報社
思考の整理学        外山滋比古/ちくま文庫
仮説思考          内田和成/東洋新報社
考具            加藤昌治/阪急コミニュニケーションズ
ロジカルシンキング     照屋華子/東洋経済新報社
新装版 企業参謀      大前研一/プレジデント社

 

 

 

ご要望にお応えして、ジャンルを定めない自由評論コーナ ー【私の一言】を設けました。 評論の評論はもとより、社会評論等自由なご意見をお届けします。

『サイエンスカフェ』
新田 恭隆

 われわれの生活は科学に支えられて成り立っている。
 現代においては、科学の恩恵なしに人間は一日たりとも生存はおぼつかないほどである。それにしてはわれわれは科学の中身を余りにも知らなさ過ぎる。

 そちらのことは一部の人たちがきちんとやってくれているからお任せしておけばそれでいい。別に問題はない、という人もいるだろう。仮にそうだとしても、科学の中身を少し覗いてみると、実は興味津々たるエキサイティングな景色が次々に拡がっていることが分かる。目から鱗が落ちる場面に出会うことも多い。

 それでは普通の人が気軽に科学を覗いてみるにはどうすればよいか。科学雑誌や科学読み物を読むのは面倒であるし、よくある講演会などに行くのはなにか億劫である。そこで私は、科学者と気軽に話し合うことが出来るサイエンスカフェを薦めたい。

 サイエンスカフェとは、第一線の科学者が象牙の塔を出て町中の喫茶店まで出向きそこで話をしてくれるところであるから、だれでも行き易く聞き易い。

 サイエンスカフェ(これは多分和製英語で、欧米ではカフェシアンティフィックというらしい)は1998年イギリスのリーズ市で産声をあげたと云われているが、その後欧米を経て数年前から日本でも行われるようになった。たとえば、インターネットの「サイエンスポータル」SciencePortalというウエブサイトの中の「サイエンスカフェ」をクリックしてみると、毎月国内のあちこちで多くのサイエンスカフェが開かれていることが分かる。
 しかし、何にでも光と影はある。われわれは科学をただ享受するだけでなく、科学の進歩といわれるものが人間や環境などにどのような影響を及ぼすか、注意深く見守る必要もある。

 サイエンスカフェは科学者の話をただ静聴するだけではなく、むしろ科学者と話し合うことに多くの時間を割いているところに最大の特徴がある(従って大勢の人は入れない)。科学者と話し合うことに怯むことはない。こちらは素人なのであるからどんな質問でも意見でもここでは許される。それが意外に科学者の虚をつくこともあるだろう。サイエンスカフェを経験したある科学者の、「そしてなによりもサイエンスカフェのスピーカーを務めることは研究者の意識改革に役立つようである。自分の研究を一般社会がどのようにみているのか、どのように評価しているのかを知ることも、…研究者には必要なことであろう」という感想もある。

 サイエンスカフェは、科学―社会インターフェイスという先端的な役割を担っているとも云えるであろう。

 

 

 

 

毎日長時間の練習と時折の演奏会を開いている知人の89歳の女性ピアニストは、現役最高齢ということで、いろいろなメディアからの取材が多いそうです。

その彼女が、「長寿がおめでたいなんてとんでもない、‘生きているうちに死ななくちゃダメよ’と漏らしていました。

多くの人が‘生きているうちに死にたい’という願望する時代のようですが、このためには常に緊張し、同時に人に役立つ生活をすることが重要なようです。

評論の宝箱をそういう観点からもご活用いただけたらと思います。
今号もご多忙の中、寄稿有難う御座いました。
(HO)




 
バックナンバー
2012/12/15
2012/12/01
2012/11/15
2012/11/01
2012/10/15
2012/10/01
2012/09/15
2012/09/01
2012/08/15
2012/08/01
2012/07/15
2012/07/01
2012/06/15
2012/06/01
2012/05/15
2012/05/01
2012/04/15
2012/04/01
2012/03/15
2012/03/01
2012/02/15
2012/02/01
2012/01/15
2012/01/01
2011/12/15
2011/12/01
2011/11/15
2011/11/01
2011/10/15
2011/10/01
2011/09/15
2011/09/01
2011/08/15
2011/08/01
2011/07/15
2011/07/01
2011/06/15
2011/06/01
2011/05/15
2011/05/01
2011/04/15
2011/04/01
2011/03/15

2005/03/01

2004/12/01

 
 
 
 
 
Copyright(c)2001-2009 H.I.S.U.I. Corp. All right reserved.
□動作確認はMac OS9.2 + IE5.1にて行ってます。
□当サイト内コンテンツおよび画像の無断転載・流用を禁じます。










SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送