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2005年6月15日 VOL.36

■書評
・『天使と悪魔(上下巻)』― 片山 恒雄
・『半島を出よ』― 後藤田 紘二 
【私の一言】『アメリカ便り(5)― 躾』 濱田 克郎

 

 

『天使と悪魔(上下巻)』
著者:ダン・ブラウン  出版社:角川書店

片山 恒雄  
 昨年から今年にかけて、「ダ・ヴィンチ・コード」というアメリカの小説が話題を呼んだ。近くの図書館で購読申し込みをしたら、半年待たされるという。やむなく人から借りて読んだ。確かに今までになく手の込んだ推理小説であり、解読本まで出ている。しかし、その後同じ作者の標題作を読んでみて、本書のほうがもっと面白いと思った。残念ながら、題名の平凡さが災いしてか、あまり話題にならなかったのだと思う。
 先ほど、ローマ法王ヨハネ・パウロ二世が逝去され、恒例により、カメルレンゴ(法王の侍従長職の呼称)の主導の下、世界中の枢機卿を召集して、コンクラーべという秘密会議を開催して、次期法王を互選したのは、記憶に新しいところである。それと同じ内容が本書に詳述されており、その過程で、法王の有力候補である4人の枢機卿がローマ市内の教会で、次々に予告のうえ惨殺されていくというのが、話の大きな流れになっている。 
 事件の発端は、宇宙のビッグバンのエネルギー源として知られる反物質を作り出した欧州原子核研究開発機構(略称セルン)の研究員が惨殺され、父の仇を討つべくセルンの女性研究員が、ハーヴァード大学の宗教象徴学教授(ダ・ヴィンチ・コードにも登場する人物)と組んで謎解きを進め、犯人を追い詰めていく。舞台となるローマ市内の教会、美術館などの建築物はすべて実在しており、現実味を帯びて迫ってくる。読者は、一体どこまでがほんとうなんだと思いながら読み進める。そして最後に展開される意外性も十分に堪能できる。 
 また、西欧文明の発達過程においてせめぎあった宗教と科学の相克について著者の深い見識が底流に色濃く投影されているのも見所である。最後にもうひとつ。枢機卿殺人の過程で重要な役割を果たすイルミナティ(17世紀にガリレオが創設したとされる)という組織を、たまたま本屋で立ち読みした(これまたせこい)「世界の秘密結社」という本の中で、フリーメーソンなどと並んで見つけたときはちょっと驚いた。




『半島を出よ』
著者:村上龍  出版社:幻冬舎

後藤田 紘二

 久しぶりに長編ものを根気よく読破した。400字詰原稿用紙1650枚分という力作なのである。ストーリーは次のようなものだ。
 北朝鮮の反乱軍と称するわずか9名の武装戦闘員が、突如、日本の北九州の小島に上陸し、乗客にまぎれてフェリーで福岡市にやってきて、プロ野球開幕戦最中の福岡ドームに押し入り、武力を誇示して制圧し、まもなく後続の反乱軍500名の特殊部隊が空路福岡市に乗り込み、福岡市を占領する。日本国政府は、危機管理センターを立ち上げるが、人質をとられている為、何の対策も打てないまま、モタモタする。やがて暴走族の手を借りた命知らずの不良若者グループが、この北朝鮮特殊部隊に対して立ち上がり、爆弾を仕掛けて、北朝鮮特殊部隊を全滅させる。こんなストーリーになっている。
 あらすじは風刺漫画のようなのであるが、文体が読みやすく、話の運び方が巧みで、かつ情景描写が精緻な為、思わず読者はストーリーの中に引き込まれてしまう。フィクションであると分かっていながら迫真力のある筆の運びに、思わず現実の世界との境を失ってしまうほどである。作者が北朝鮮兵士のことやらを、よく下調べをしてあるからだと思う。
 真顔で日本の危機管理を考える立場の人にとっては、ヒントも多く、単なるフィクションといって笑ってもいられないかもしれない。
 拉致問題、イラク問題やら憲法論議が盛んになってきた昨今、著作としてはタイムリーであり、また、スリラー物として、お盆シーズンにも向いている本のようだ。





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アメリカ便り(5)― 躾』
濱田 克郎

 最近視たテレビ番組で興味深かったものから。一つは“ドッグ・フィスパラー”、犬に囁きかける人というような意味だろう。やたらと人に吠えかかる、他の犬に吠えかかる、ひどいケースでは人や犬に噛み付くといったような飼い犬を矯正する過程を紹介する番組である。犬の訓練士でも匙を投げたような犬が対象である。主人公は飼い主に対し何が問題なのか、どういう風に犬に接してきたかを丹念にインタビューした後実際にその犬に接し、問題の原因を探し出して問題行動を矯正していく過程が実に面白い。
 飼い主の方は犬の種類の所為と考えているケースが多いが、実はたいていのケースでは飼い主の態度、接し方自体に問題があるそうである。実際に主人公がその犬に接すると、別人(犬)のようになるのはマジックを見ているようであるが、躾をしているつもりが実は甘やかしになっているケースが多いこと、問題行動を抑えようとしているが実は助長していることなどを具体的に、且つ犬の心理状況の解説を入れながら説明すると、たいていの飼い主ははっと気づくのである。主人公は、自分は犬の訓練をしているのではない、飼い主を訓練しており犬はリハビリしているのだという。飼い主主導による(犬主導ではなく)充分な散歩、躾、愛情が三本柱だそうである。問題を発見したらすぐにその場で躾をすること、怒り、恐怖の心情で接しないこと、毅然とした態度をとること、群れのリーダーの態度、そして終始一貫した態度が何より大事だそうである。
 もう一つは“ナニー911”。こちらは自分のことが自分でできない、親に殴りかかる、兄弟で諍いが耐えないなどで親の手に負えない子供をイギリスから呼んだプロの乳母が矯正していく過程を丹念に紹介する番組である。乳母は子供の日常の行動を観察した後、親にインタビューし、問題の原因を探し出し矯正していくが、こちらの主役は親と子供である。乳母は守るべきルールを提案し、親にはとるべき態度を助言し、基本的にはそばで見守るというスタンスである。多くの場合は親に問題の原因があるのだが、親はなかなかそれを認めたがらない。乳母は、親の気分や状況次第で態度や言う事を変えないこと、怒りの感情と躾とを混同しない、決めたルールをしっかり守ること、子供と一緒に遊び体を動かすこと、愛情と甘やかしを混同しないこと、片親だけでなく両親がかかわることの大事さなどを体を張って根気強く説き続ける。時間はかかるがやがて子供の態度が変わり、親や乳母と抱擁するようになる様は感動的である。終始一貫した態度をとることの大事さをこちらでも強調していた。
 何だか一緒じゃないか。





 
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