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■2012年8月15日号 <vol.208>

書評 ─────────────




・ 書 評   丸川 晃 『ブラック・ストーンーKING OF CAPITAL』
         (D・キャリー&J・E・モリス著 土方 奈美訳 東洋経済新報社)         
・ 書 評   石川勝敏 『超マクロ展望、世界経済の真実 』 
             (水野 和夫 萱野 稔人著 集英社新書)                                
・【私の一言】  川井利久『民族の劣化』

 

 

 


2012年8月15日 VOL.208

『ブラック・ストーンー KING OF CAPITAL』
(D・キャリー&J・E・モリス著 土方 奈美訳 
東洋経済新報社) 

丸川 晃    


   先ず、この本の異様な名前は、アメリカ最大と称される企業投資・買 収会社の社名である。
 最初に本書に基づいて、同社の概要を紹介しよう。この社名は,共にリー マン・ブラザースを退社した共同創設者のS.シュルツマンのSchwarz=ドイツ 語の『黒』と、P.G.ピーターソンのpeter=ギリシャ語の『石』とを合わせて 名付けたもので、1985年に設立,事業内容は、プライべート・エクイティ・ ファンド、不動産投融資、投資アドバイザー、レバレッジド・ファイナンス などで、本社はNew Yorkに所在し、世界主要都市7ヶ所に支社を有するが、 東京にはない。そして2010年の業績は売上高3.114百万ドル、純利益1.418 百万ドル(純利益率45.5%)、純資産17.741百万ドル、運用資産119.115百万 ドルという、現在では世界最大と称される総合的投資会社である。

 本書は、 M&Aや未公開株投資の専門雑誌『ディール』の2人の記者が、 主として当事者達との面接によって得た情報を基にして、上述の特定M&A 専門会社を中心に、 主としてその誕生から08年夏のリーマン・ショック時 迄の発展推移を辿ることにより、この間のアメリカにおけるM&A市場の紆 余曲折について、ケース・スタディを多用しながら描写・分析したもので ある。但し、業界紙の記者が著した本であるだけに、この業界の恐らく過 酷極まりない内幕や、億ドル単位で儲けた当事者達の評価は勤勉か強欲か というような、業界内部のマイナス面については殆ど触れていない。

 話は、1960年代か流行したコングロマリット(業務内容に直接の関係がな い事業を多数傘下に収めた複合企業形態)から始まる。これが70 ̄80年代に 入り、景気変動の波が大きくなった結果などから、その経営効率化が要請 されるようになると、経営不振などの子会社を手放すというコングロマリ ットの解体が進んだ。そして、これら経営不振企業の多く受け皿として、 LBOという手法で調達した資金で、M&Aを商売とする企業が発足・発展す る契機となったと云われている。なおLBO(leveraged Buyout)は、 買収先の 資産およびキャッシュフローを担保にして調達した資金で、不振企業を買 収し、その企業を改革することによって、事業再建・キャッシュフロー増 加により負債を返済するという M&A手法の総称である。

 かくて80年代前後から、景気上昇、株価高騰の中で、LBOを専業とする 企業が発生し、年金基金、学校法人などが、年率25 ̄40%という高リターン を齎すLBOファンドに投資を増加していく一方で、LBO企業は『乗っ取り 屋』とか『ハゲタカ』という悪評も高まったが、その少なからずは、企業 買収に際して現経営陣の協力を求め、友好裡に経営改善を行い、ホワイト ・ナイトの役割を果たすケースもあったという。

 徒手空拳でLBOという方法で資金を調達していったプラック・ストーン (以下B.S.と略称)の創設者達は、85年に共同出資の40万ドルで商売を始め、 当初は資金調達に苦労したものの(日本からは当時の日興証券が参加)、ケ ミカル・バンク(後にチェース,J.P.モルガンを買収・併合して,現在のJ.P.モ ルガン・チェースの前身となる銀行)との関係を強めたことで、後のJ.P.モ ルガン・チェースを作ったのはB.S,であり、またB.Sが業界トップに駆け 上がる原動力になったのかケミカル・バンクであり、後のJ.P.モルガン・ チェースのバックアップがあったからだと云われる。なお現在のBSでは、 資金調達額のほぼ半分を州・地方政府の年金基金が占めているという。

 蛇足ながら、80年代末期にB.S.が仲介した日本企業のプロゼクトとして は、88年のブリジストンによるファイアストーンの買収(6億ドル)、89年 のソニーによるコロンビア・ピクチャーズの買収(50億ドル)を挙げている。
 要するにLBO企業は、原則として、不況期に不振企業を買収し、経営 改善を行った上で、好況期に高値で売却して利鞘を得るという商売であ るが、常時順風漫歩という訳にはいかなかった模様で、特に80年代以降 のアメリカ西部では、シリコン・バレーを中心としてペンチャー・キャ ピタルに支援された新しいIT産業が台頭してきたのに対して、東部では、 在来産業を中心に商売してきたLBO企業は、この新規産業に触手を伸ばし たが、2000年代初期のIT不況により、そのプロゼクトの多くは失敗した。

なおこの時期、業界の呼称LBOやbuyoutという言葉のイメージが余りに も悪かったことから、この業界はPrivate Equityと改名して、投資先企業 を改革=リストラすることで、新たなをエネルギー生み出す産業界の職人 というイメージを打ち出すなど、西部の先行に対抗するためのイメージ ・チェンジに努めた。
 B.S.は、02年には創業者が新しく若い共同経営者を受け入れ、不動産 投融資分野にも進出、06年には株式公開を果たし(この公開により、共 同経営者のシュワルツマンは23億ドル、80歳で引退したピーターソンは 19億ドルを儲けた)、07 ̄08年の金融システム崩壊時にも、同社の株価は 最高値の90%も下落し、08年後期には無配に陥ったにも拘わらず、不動 産部門は別として、買収企業で倒産したのは僅か1社に過ぎなかったと いう。

 以上,B.S.のようなプライベート・エクイティ会社は,現在のアメリカで は益々その事業範囲を拡大しつつあり、社会的にもその存在意義を高め ているようだが、本書読了後の感想として、ここでは第一に、この種金 融会社の社会的な合理性如何について、第二に、この種金融会社の将来 性如何という問題について、簡単に触れておこう。

 本書では、取上げている何れの問題についても、アメリカに限っては、 上述の通り当業界専門誌の記者が著した本であり、従ってその評価につ いては殆ど肯定的意見で終始している。然し、それにも関わらず、現在 のアメリカでも、その『ハゲタカ的』性格が云々されていると明示して いるし、いわんや現状の日本では、資金調達、リスク、情報力、コンサ ルティング能力などの各分野からみて、 今後とも、このようなプライベ ート・エクイティ専門会社が産まれる可能性は少ないと考えられ、今後 とも、日本企業のM&Aは、内外を問わずその殆どは、これらアメリカ系 専門企業に依存せざるを得ないであろう。

 次に、各種年金基金、大学基金や億ドル単位の富裕者のニーズに合わ せたグローバル規模の融資,株式・債券引き受け・募集、不動産投資、ヘ ッジ・ファンドなど、何でもありの金融多角化の途を歩みつつある新種 の金融機関が出現する可能性も窺われるプライベート・エクイティ会社 というものを、既存の銀行、証券・信託会社などとどのように区分するか。

勿論,この質問に対する回答は本書では提起されていないが、アメリカで は、これらの金融機関はそのニーズや効率性に合わせて、次第に既存金 融機関と融合していく可能性が大きいのではあるまいか。

 


『超マクロ展望、世界経済の真実』
(水野 和夫 萱野 稔人著 集英社新書)

石川 勝敏    

著者水野は埼玉大学教授、元三菱UFJモルガンスタンレー証券チーフ エコノミストでマクロ経済学者であり、著者菅野は津田塾大准教授、哲 学や社会理論の専門学者である。

この図書は上記2人の討論形式で各テーマについて触れている。
両者に共通していることは、「世界は資本主義、に行き詰まり、今から 新しい世界を考える必要がある」という点である。
論点整理をしてみると、新興国の台頭により、第一次オイルショック以 降資源価格が高騰し、エネルギーや資源をタダ同然で手に入れることを、 前提に成り立っていた近代資本主義社会が成り立たなくなってきた。
先進国と周辺国の間の交易条件がどんどん先進国に不利になってきている。
従って好景気でも賃金が上昇しない。売上が増えても原料燃料価格が上 昇した分だけ賃金が抑えられます。日本の「失われた20年は何か特殊な 原因で不況になっていると言う人もいますが、資源価格によって景気と 所得が分離されていることによるものです。

アメリカでも同じです。
先進国は交易条件の悪化で実物経済では稼げなくなったので、金融に儲 け口を見出そうとしました。1973年のオイルショック以降特に1995年 以降世界の余剰マネーがアメリカのコントロール下に入り金融市場が拡 大し、アメリカではITバブルや住宅バブルが起こり、その過程で債権 の証券化など金融手法が開発され、サブプライム問題も生じました。

ヨーロッパではアメリカ以上に経済の成熟度が進み、金融への傾斜も大 きかった。
2008年の金融危機で金融経済化の方向も行き詰まりになっています。
アメリカは1983年にWTI先物市場で石油を金融商品化し、石油価格も 仕切っていました。
2000年11月イラクのフセインが石油の売り上げはユーロ支払いにすると 国連で宣言し承認されました。これは石油に裏付けられたドルの基軸通 貨体制への反抗でした。基軸通貨としてのドルを守る事がアメリカのイ ラク戦争の本音ではなかったでしょうか。

金融経済化のなかで資本のリターンを高めようとすると、必然的にバブ ルを引き起こす事になり、何度も繰り返せば経済が成り立たなくなります。
世界の資本主義の歴史は特定の国がその都度ヘゲモニーを確立しながら、 そのヘゲモニーが移転されてきました。最初はイタリアの都市国家ジェ ノバ、ベネチア、フィレンツエ次いでオランダ、イギリスそしてアメリ カとなりますが、バブルのあと利子率が2%になると投資相手国が変わり ヘゲモニーが移っていく現象がみられます。アメリカより軍事力が強い 国は現在ないので次にヘゲモニーをにぎりそうな国は見当たりません。 今後ヘゲモニーは国家の連合ならありうるとみられる。

日本の将来はどうなるか。日本では1997年9月から国債の利回りは2%を 下回り現在まで続いています。
デフレは資源価格の高騰が原因であり、低成長へ向かいます。インフレは 起こせなくなっています。国内銀行が国債を消化しきれなくなったら、 ピンチです。財政赤字の結末をつけないと危険なことになります。結局増 税、社会サービス等の見直しを経済成長なしの中で、困難でも進めていか ざるを得ないことになります。

日本も同様ですが、先進国資本主義国では交易率の悪化、産業の海外移転、 中産層の減少、労働人口減少、高齢化による社会保障費増等で成長を前提 にした国家計画は困難です。
経済の金融化では極端な格差が生じ、不安定な社会になるとみられます。
これからは規制によって新たな市場を国が考えるときです。環境規制、規 制によるブランド作り等、しかし規制は国家だけでなくNGOや経済団体 との合作でなければなりません。

バブルでつくられた巨大な余剰金融資産の規制も必要になると思います世 界資本主義はいま大きな転換期を迎えています。
低成長の課題に直面している日本は想像力と知性を総動員して経済の形を 世界に先駆けて作っていくべき立場にあると考えられます。
なかなか説得力のある対話集です。ご一読をお薦めします。

 

 

 

ご要望にお応えして、ジャンルを定めない自由評論コーナ ー【私の一言】を設けました。 評論の評論はもとより、社会評論等自由なご意見をお届けします。

『民族の劣化』
川井利久

  
 
昨今の世界経済危機、なかんずくヨーロッパ経済の財政危機で問題国家は、 ギリシャ、イタリア、スペインなど 地中海沿岸のラテン系民族の国家である。
かって世界をリードしてきたヨーロッパ文明の源泉となった民族の国である。
学問や芸術のみならず軍事力、行政制度にも優れて数百年に亘ってヨーロ ッパを支配し続けて来た。

現在では過去の文化遺産を頼りに観光業が国の財政を支えている。
世界史の中で何度も繰り返されて来た民族の興亡。
一つの民族が興り、繁栄し、周辺国を支配する歴史的時間はせいぜい300
年ぐらいではないだろうか。文明の未発達時代の未開地域には例外も多い ようだが英明な君主を戴き、幾多の天才達がその得意分野で目の覚めるよ うな才能を開花させ,公正平和な社会では人民は喜々として家業に励み、 後世に語り伝えられる繁栄を創造する。
アルキメデスが入浴中に金の比重の計り方を思いつき、裸でアテネの町を 駆け抜けた知的興奮、ローマから四方八方に堅牢な石の道路をヨーロッパ 全体に造って支配したローマ軍、敵船に火矢を放ち梯子を架けてなだれ込んだ スペインの無敵艦隊。その当時のそれぞれの民族の持っていたテンション やヴァイタリテーは今どこに行ってしまったのだろうか。

優れた祖先が遺した遺産を見せ物にして生活している間に失ってしまった のだろうか。 アルプスの南と北でヨーロッパ史は大きく異なる。太古から の日光照射量からローマ帝国の数百年に亘る支配、その後のカトリック教 会による人頭税など南の北への収奪は歴史そのものである。
その結果、ガリア、ゲルマン、バイキングは貧困の中から立ち上がり、 今やEUの中心として南を助けようとしている。蟻とキリギリスのイ ソップ寓話そのものが世界史の中でも再現されている。  

中国5千年の歴史の中でも中原に腰を据える漢民族に太平の世の中は長 くは続かず、周辺民族(蛮族と見下された民族)の蹂躙を往々に晒されて来た。
一つの民族が勃興し、発展し,栄華を極めても富や安楽に身を委ね始めると、 瞬く間に周辺のハングリーな民族に滅ぼされてしまうのが、歴史の繰り返し示 す真実である。
人間はハングリーさを忘れ、勤勉さを失うとたちまち社会として堕落や腐敗が 始まり、民族の劣化が始まるのではないか。
日本のような資源も領土もないちっぽけな国がつかの間の幸運でキリギリス化 し蟻の精神を忘れるとたちまち世界史の中から忘れ去られてしまうだろう。

 

 


ロンドンオリンピックも終わりました。開催国英国が相当数のメタルを獲得した
ことはご同慶の至りです。ところで、この大会に英国の選手団は合計542人ですが
そのうち59人は国籍を変更した人(PLASTIC BRITSというそうです)
で、出身国は、アメリカ、アフリカ、ヨーロッパ各国と多岐にわたっています。
オリンピックに出たいという選手と開催国として国威の高揚を図りたいとする英国
の利害が一致したためといわれています。開催国ではありませんが、バーレーンは
選手12名中10人がエチオピア等からの国籍変更者だそうです。
これらもグローバル化という潮流が背景にありますが、オリンピックも国とか民族
とかを改めて考えさせる契機になるのようです。東京にオリンピックが招致出来た
として選手団の構成はどうするのでしょうか。
今号も貴重なご寄稿をいただきありがとうございました。(H.O)


 





 
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