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■2012年5月1日号 <vol.201>

書評 ─────────────


・ 書 評   石井義高『七十歳死亡法案、可決」』 垣谷美雨著 幻冬舎
        
・【私の一言】 濱田 克郎 『アメリカ便り(25) 放射能オオカミ』

・【私の一言】 川井利久 『震災1年に思う』

 

 


2012年5月1日 VOL.201


『七十歳死亡法案、可決」』
垣谷美雨著 幻冬舎 

石井義高     
「後期高齢者医療制度」は2006年5月 小泉内閣の時に「高齢化に伴う医療費の増大が見込まれる中で、現役世代と高齢者の負担の公平化を図るため」として成立し、2008年4月から施行された。
 私は対象年齢75歳を過ぎてから加齢現象が顕著になった事を自覚し、「後期高齢者」とは良く云ったものだと実感しているが、急激な高齢化の進展に伴う国の財政負担問題は介護、年金も併せて深刻になるばかりである。このまま推移すれば日本の将来は破綻しかない事は明らかである。

 野田首相は社会保障と税の一体改革を進めると強調するが、将来像は明らかでなく、与党内にも国の将来より自分の選挙の結果が大事と考える政治屋どもが多く、国民の政治不信は深まる一方である。
この閉塞状態を何とか打開しなければならないと多くの人が考えているのは間違いのない所だろう。そこでこの本を紹介したい。

 週刊新報・2020年2月25日号の引用として「七十歳死亡法案が可決された。
これにより日本国籍を有する者は誰しも70歳の誕生日から30日以内に死ななければならなくなった。」と云う文章でこの小説は始まる。
「政府が安楽死の方法を数種類用意し、対象者がその中から自由に選べるように配慮する。」「本来ならば喜ばしい筈の長寿が、国の財政を圧迫する原因となっただけでなく、介護する家族の人生を台無しにするような側面がある。」「施行は2年後の4月1日である。」と続く。
 この法律を通した馬飼野礼人総理大臣はハーバード大卒のスマートな45歳。

80パーセントを割った事がない支持率を追い風として、公務員制度の見直し、参議院の廃止、衆議院の定数を200人に削減、議員報酬も1/3に削減するなど次々と改革を実行して経費の削減を進めて来たが、国家財政はう
しようもない所まで来ている。だから70歳死亡法と云う非常識な法律が説得力を持ち、真剣な取り組みと受取られて政治に対する信頼も回復してきた。
人生80年時代に70歳死亡を突き付けられた国民は自分の人生、生き方を考え直さなければならなくなる。この法律の世論調査結果は賛成:28%、反対:68%、分からない:4%である。しかし、20代、30代に対象を絞った調査では賛成:87%、反対:10%、分からない:3%である。年寄り人口が圧倒的に多いから若者の意見は隠れてしまうのである。

 会社人間の宝田静夫(58歳)、専業主婦の東洋子(55歳)、同居して東洋子の介護を受ける静夫の母・菊乃(84歳)、娘・桃佳(30歳)、息子・
正樹(29歳)という典型的なサラリーマン家族を中心に、彼らを取り巻く如何にもありそうな出来事が面白おかしく展開して飽きさせない。
 後半には馬飼野首相が予想外の隠し玉を投げて、思いがけない決着を迎えるのだが、そこを明かしてしまうと作者に失礼なので控えておこう。気が向いたら一読して下さい。

 

 

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『アメリカ便り(25)放射能オオカミ』
濱田克郎 

  先日、PBS(アメリカで唯一コマーシャリズムに毒されていない放送局)の番組ーNature ーで、"Radioactive Wolves"ー(放射能オオカミ)と題した科学ドキュメンタリーが放映された。

 チェルノブイリのすぐ近く(2Km程度)のところを含め、ベラルーシとウクライナの国境付近の今でも立ち入り制限区域となっている一帯を、特別の許可を得て科学者とPBSが時間をかけて共同調査した。この近辺の食物連鎖の頂点にありながら、自然破壊や人間との関わりにより絶滅しつつあったオオカミがチェルノブイリの事故の後どういう状況になっているか調査したものである。
食物連鎖の頂点にあるオオカミに、獲物を食べることを通じて放射線の影響が集約されているのではないか、もしオオカミが健康的に生きているのであれば、その獲物となっている生き物、その獲物が食べている様々なものも含め、エコシステムが健全であろうと考えたからだそうである
長い話を端折ると、次のような内容である。

 皮肉なことに、人間が住まなくなったことにより、このあたりで人間が20世紀の初頭から河川の流れを変え、水路を造り開拓し農地化してきた土地が、事故後25年を経て豊かな自然を取り戻したというのである。
ビーバーが木を倒しダムを造ったことにより洪水が起こり土地は肥沃になり、川の流れが変わり、湿地帯もできた。そこに昆虫、両生類、鳥や魚が繁殖し、草木が生え、ある意味で荒廃していた自然が生き返り、いわば原発事故後のエデンの園ができたというのである。
オオカミもこの地で何世代も子育てをして生き伸びており、事故以前は減少傾向であった個体数が全く減っていないことが確認された。オオカミが食べた後に残された魚や動物の骨からは、放射線の線量計がガガガガと大きい音を立ててしっかり反応する放射線が計測されるが、オオカミの子供たちは奇形等がないばかりでなく、至って元気そうである。(親オオカミのいない隙を狙って生まれて間もない子供の毛を採取しDNAの検査もした。)
同じく絶滅に瀕していた野生馬は、逆に個体数が増加していたそうである。
事故後に持ち込まれたバイソンも同様の状況とのこと。

あのチェルノブイリでさえこうである。これをみてどのように感じるか、或は何かのメッセージを受け取るかは人それぞれだろうが、多くの人がやみくもな恐怖心から脱却し、”正しく怖がる”ことをへて恐怖心を克服し、震災地の復興の実現につながる日が早くくれば良いと願わずにおられない。
日本の底力は大したものだと世界の人たちがたたえる日が必ず来ると信じることにしている。

ところで、PBSの番組は次のウェブサイトで見られる。

http://www.pbs.org/wnet/nature/episodes/radioactive-wolves/introduction/7108/

(画面の右部分にある”Full Episode”をクリックすると全てのエピソードが見られます。英語での説明ですが、美しい映像ですし画面を見るだけでも或る程度メッセージは伝わると思います。全画面表示でみることをお勧めします。)

    

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『震災1年に思う』
川井利久 

3月11日が過ぎた。震災から1年、太平の眠りに冷や水をかぶって色々の事に気がついた。
その中で最も俎上に乗せられ,反面教師といて世間の批判を浴びたのが東京電力であった。
明治以来、地域独占の公共事業として天下の秀才を集めて盤石の経営基盤を誇り、財界のリーダーと自他共に認めていた組織が3月11日を境に機能不全、危機管理能力不全を天下に露呈した。
 これを機に身の周りを見回してみると、日本社会の太平ぼけから、一旦緩急あれば同様の状況に陥るであろう事象が周囲に山積していることに気がついてぞっとさせられる。

 私が新入社員で入った会社は昭和30年代、景気の波が4年に1度あってその度に首切りを含む経営乗り切り策で切り抜けてきた。あの危機感が一生自分の人生観に定着して、バブルの時にも臆病に対応して、後の崩壊をミニマムにできた。戦中、戦後の食糧難の時代に育った者として、常にハングリー精神と現状否定の向上心を叩き込まれた者としては、今の子や孫の脇の甘さが歯がゆい限りである。

 最近、日本の大学で優秀な学生は中国、韓国からの留学生だと聞く。プロゴルフのコンペを見ても、勝つ者は大半が韓国選手で歯がゆい。
 製造業の競争力も電化製品、自動車など日本のお家芸と見られた分野で円高もあって苦戦が続いている。貧しいアジア諸国がグローバル化によって安い労働力を提供して競争力ある工業製品を大量に生産を始め、先進国の製造業を追い詰めている。そしてアジアに投資した先進国の資本家は大量の余剰資金を持てあまして邪悪なマネーゲームをし、大衆は製造業の海外移転によって大量の失業者となって不穏な社会を形成しつつある。
この現象が西欧、アメリカそして日本にも拡大している。金融資本主義の最終形態である。

 人間社会のさまざまな歴史形態を振り返ると小山の大将や天下太平の組織が長続きした例はなく、いずれも危機感と目的意識を持った組織にやられてきたようである。
 日本は1年前の強烈な運命の一撃を危機意識として認識して、資源のない国の生きる道を初心に還って再度挑戦者として歩む一里塚とすることが犠牲者の鎮魂としてもっとも正しい道ではないだろうか。

 

 

 
 評論の宝箱は、本号で201号となります。これを機に、さらなる内容充実を図るため200号までのご寄稿者及びテーマをとり纏め、“評論の宝箱”のホームぺージhttp://www.d1.dion.ne.jp/~hisui/のバックナンバーに付加いたしました。
今後のご寄稿の参考にしていただければと思います。
ところで、バブル期終了頃からでしょうか、一部の業界用語であった「お疲れ様です」という挨拶言葉が広く一般的に使われるようになり、よく聞かれるようになりました。
また、テレビをみていると、最近はお笑い番組とお笑い芸人でいっぱいです。
日本人は、疲れはてて、悲しいことだらけで、このような現象が広がっているのでしょうか。
何となく日本の先行きが懸念される現象のように思われます。
このような時代に、評論の宝箱が「坂の上の雲」の時代のように元気な希望のある時代を作るのに少しでも役立てればと思っております。

今号も貴重なご寄稿をいただきありがとうございました。(H.O)


 





 
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